Artist: Kanye West
Album: BULLY
Song Title: HIGHS AND LOWS
概要
Kanye Westのアルバム『BULLY』に収録された「HIGHS AND LOWS」は、双極性障害(躁うつ病)がもたらす精神的な「高低差(Highs and lows)」と、それに翻弄されながらも彼を見捨てなかった存在への深い贖罪と愛情を歌ったバラードである。度重なる炎上や奇行、そして「プログラム(業界のシステム)」との激しい闘争を経て、Yeは自身が周囲に与えた多大なストレスを静かに認めている。「Chemical romance」や「Fade to black」といったポップカルチャーと死生観が交錯するワードプレイを用いながら、現在の妻であるBianca Censori(あるいは最後まで彼を見捨てなかったコアなファンや神)との極端で有毒(Toxic)な、しかし決して断ち切れない強い絆を描き出す。攻撃的なトラックが並ぶ本作において、彼の生々しい人間性と弱さが露呈した、最もエモーショナルで美しい瞬間のひとつだ。
和訳
[Chorus]
Highs and lows
ハイとロー(躁と鬱、絶頂とどん底)。
※「Highs and lows」は人生の浮き沈みを指すと同時に、Yeが公言している双極性障害(Bipolar disorder)の躁状態と鬱状態の激しい起伏を直接的に表している。
I put you through a lot, I know
お前には散々苦労をかけた、分かってるよ。
※度重なるSNSでの暴言やキャンセルカルチャー、奇行によって、妻や家族、コアなファンに多大な心労をかけた事実を彼自身が客観的に認識し、謝罪している非常に珍しく内省的なライン。
Highs and lows
ハイとロー。
Still, you never let me go
それでも、お前は決して俺を見捨てなかったな。
※すべてを失いかけた時でもそばに居続けた相手への深い感謝。
[Verse]
Ain't nobody bigger than the program
「プログラム(システム)」よりデカい奴なんて誰もいねえ。
※「The program」は音楽業界の構造、キャンセルカルチャー、あるいは社会のルール(マトリックス)を指す。通常、個人がこの巨大なシステムに勝つことはできないという前提。
'Til you bigger than the program
お前自身が、そのプログラムよりデカくなるまではな。
※業界全体から追放(キャンセル)されても、自身のブランドや影響力でシステムそのものを凌駕してみせたYeの絶対的なエゴと自負。
Climax fast to a slow jam
スロージャムで、一気に絶頂(クライマックス)までイくんだ。
※「Slow jam」はR&Bの甘くメロウなバラード。ゆっくりとした音楽に乗せて激しく愛し合うという性的なメタファー。
Toxic love, chemical romance
有毒な愛(トキシック・ラブ)、ケミカル・ロマンスさ。
※人気ロックバンド「My Chemical Romance」の名前を引用しつつ、薬物(Chemical)に依存するような劇薬的な恋愛関係を描いている。
You said I love you and I love you back
お前が「愛してる」と言い、俺も「愛してる」と返す。
Before I break your heart, I'll have a heart attack
お前の心を壊すくらいなら、俺が心臓発作(ハートアタック)を起こしてやるよ。
※直訳的なロマンティシズム。自分が原因で相手を傷つける前に、自分の心臓が止まる方がマシだという強烈な愛情の表現。
We separated, but we made it back
俺たちは一度は離れ離れになったが、またヨリを戻した。
※Bianca Censoriとの一時的な別居報道(あるいは過去のKim Kardashianとの別離)を乗り越え、再び絆を取り戻したことへの言及。
And we gon' stay attached 'til we fade to black
そして俺たちは繋がり続ける、暗闇に消える(フェード・トゥ・ブラック)その時までな。
※「Fade to black」は映画のフェードアウト(死や終焉)を意味する。Jay-Zの有名なドキュメンタリー映画と同タイトルでもあり、死が二人を分かつまで共にいるという誓い。
[Chorus]
Highs and lows, highs and lows
ハイとロー、絶頂とどん底。
I put you through a lot, I know
お前には散々苦労をかけた、分かってるよ。
Highs and lows, highs and lows
ハイとロー、躁と鬱。
Still, you never let me go
それでも、お前は決して俺を手放さなかったな。
[Outro]
Don't let me go, don't let me go
俺を見捨てないでくれ、手放さないでくれ。
※コーラスでの「見捨てなかった」という事実の確認から、アウトロでは「見捨てないでくれ」という切実な哀願へと変化している。無敵の「神」を自称するYeの心の奥底にある孤独と恐怖の吐露。
I put you through a lot, I know
散々苦労をかけたのは分かってるんだ。
Don't let me go, don't let me go
俺を見捨てないでくれ、手放さないでくれ。
I put you through a lot, I know
散々苦労をかけたのは、俺も分かってるんだよ。
※最後に繰り返される罪悪感と感謝。深い自己内省とともに、静かに余韻を残して曲が締めくくられる。
