Artist: Kanye West
Album: BULLY
Song Title: KING
概要
Kanye West(Ye)のアルバム『BULLY』に収録された本作は、数々の問題発言で物議を醸しキャンセルされた自身の現状を冷徹に見つめ直しつつ、それでもなおシーンの「王(King)」として君臨し続ける絶対的なエゴと孤独を描いた内省的なトラックだ。特筆すべきは、イントロと曲中に散りばめられたDuke Edwards & The Young Onesの1968年のスポークンワード・ジャズ「Reach for a Star」のサンプリングである。自然の摂理として王に任命されたという崇高な宣言と、ドラッグや金、フェイクな愛情にまみれた現代のライフスタイルの強烈なコントラストが、Ye特有のコンシャスかつエゴイスティックな視点で綴られている。アニーのダディ・ウォーバックスやアルポ・マルティネスといったポップカルチャーとストリートのアイコンを自在に引用するワードプレイは、彼の天才的なリリシズムが健在であることを証明している。
和訳
[Intro: Duke Edwards]
The time is now, right now
時は満ちた、まさに今だ
※1968年にリリースされたDuke Edwards & The Young Onesのジャズ・ポエトリーアルバム『Is It Blood Or Water?』収録の「Reach for a Star」からのサンプリング。公民権運動時代の崇高なスポークンワードを引用することで、自身の存在を歴史的な運命と結びつけている。
This is the hour, this is the new dawn, this is the new day
今がその時だ、これは新たな夜明けであり、新たな一日である
Now is the time, for nature and all her glory have named you her king
今こそがその時だ、大自然とそのすべての栄光が、あなたを王として指名したのだ
She has named you the king
彼女(大自然)があなたを王に任命した
King, king, king
王、王、王に
Named you the king
あなたを王に任命したのだ
[Verse 1: Ye, Duke Edwards]
This that feeling we need more of
これこそが俺らにもっと必要なフィーリング(感情)だ
The hatin' just brought me more love
ヘイトを向けられるほど、俺にはもっと多くの愛がもたらされるんだ
※反ユダヤ主義的発言などの度重なるキャンセル・カルチャー(ヘイト)の標的になっても、熱狂的なコアファンからの支持(愛)がより強固になったというカルト的カリスマの証明。
Guarantee my vices different than yours was
保証するぜ、俺の悪習(ヴァイス)はお前らのそれとは次元が違う
※一般人の持つ欠点や悪癖とは比較にならないほど、Yeの抱える闇や欲望のスケールが巨大であるという誇示。
Drunk off power and I was pourin' up
権力に酔いしれ、俺は酒(あるいはリーン)を注ぎ込んでいた
When all y'all treated me like an orphan
お前ら全員が俺を孤児(みなしご)のように扱った時
※音楽業界やファッション業界から追放され、誰からも手を差し伸べられなかった孤立無援の時期を指している。
The classes turned me to Daddy Warbucks
特権階級の奴らが、俺をダディ・ウォーバックスに変えちまったんだ
※「Daddy Warbucks」はミュージカル『アニー』に登場する大富豪。孤児(アニー)を保護する大富豪のキャラクターを引用し、「孤児扱いされた俺が、今では桁外れの富豪(ダディ・ウォーバックス)になった」という皮肉な逆転劇を描いている。
The stables for thе 'Raris and Porsches
フェラーリやポルシェのための馬小屋(ガレージ)だ
The fame was only gеttin' me more buzzed (Named you the king)
名声はただ、俺をさらにハイにさせるだけだった(あなたを王に任命した)
Some of my loved ones turned lost ones
愛した者たちの何人かは、行方不明(失われた存在)になっちまった
※Yeの奇行や炎上により、かつての仲間やビジネスパートナー、あるいは元妻などが彼のもとを去っていった孤独の吐露。
The pain was truly blurrin' my thoughts up
その痛みがマジで俺の思考をぼやかしていたんだ
I brought a white queen to the altar
俺は白人の女王を祭壇(結婚式)へと連れて行った
Couldn't happen without Martin Luther, the (Named you the king)
マーティン・ルーサー(キング牧師)がいなきゃ、こんなこと起きなかっただろうな(あなたを王に任命した)
※現在の妻Bianca Censoriとの異人種間婚姻についての言及。キング牧師をはじめとする公民権運動の闘争(Loving v. Virginia裁判への影響など)がなければ、黒人である自分が白人女性と結婚する自由はなかったという歴史的文脈と、「King」という曲名に「Martin Luther King Jr.」のファーストネームを掛けている秀逸なライン。
What's the Kelly Price? What's the Kevin Costner?
ケリー・プライスってなんだ?ケビン・コストナーって何だ?
※「Kelly Price」はYeの名曲「Ultralight Beam」にも参加したR&B歌手だが、ここでは次行の「ケリー・バッグの価格(Price)」に繋げる高度なワードプレイのセットアップ。「Kevin Costner」は映画『ボディガード』の主演俳優。富と名声を守るボディガードのような存在や、有名人のステータスを象徴している。
What's the Kelly cost? Birkin, it's a tossup
ケリーバッグの値段はいくらだ?バーキンか、どっちにするか迷うな(トスアップだ)
※Hermèsの超高級バッグである「Kelly」と「Birkin」。女性の歓心を買うためにどちらの最高級バッグを与えるべきかという、桁違いの金銭感覚。
Is it really love when it's bought love?
金で買った愛だとして、それは本当の愛と呼べるのか?
※物質的な贈り物(バーキンなど)でしか繋ぎ止められない人間関係の空虚さに対する、特有のパラノイアと哲学的な問い。
She would never let me fuck if I was fucked up (Named you the king)
もし俺がただの落ちこぼれ(ファックト・アップ)なら、あいつは絶対にヤらせてなんかくれないさ(あなたを王に任命した)
Why you think we run it up for? (King)
何のために俺らが金を稼ぎまくってる(ラン・イット・アップ)と思う?(王よ)
The truth hurts, homie, tough love (King, king)
真実は痛みを伴うんだよ、兄弟。厳しい愛(タフラブ)ってやつさ(王、王よ)
[Bridge: Duke Edwards]
Named you the king
あなたを王に任命した
King, king, king
王、王、王に
Named you the king
あなたを王に任命したのだ
[Verse 2: Ye, Duke Edwards]
The hero became the villain now
かつてのヒーローは、今や悪役(ヴィラン)になっちまった
※2000年代にヒップホップの概念を覆し「天才・英雄」と称賛されたKanye Westが、度重なる問題発言で業界全体から追放され、世間の「悪役」として扱われている現状を客観的かつ自嘲的に語っている。
We gon' send it up and go a million miles
俺らはこれを空高く打ち上げて、100万マイル先までぶっ飛んでやる
And she ain't dealin' with no Shallow Hals
あいつは『愛しのローズマリー(Shallow Hal)』みたいな奴とは関わらねえ
※2001年の映画『Shallow Hal(邦題:愛しのローズマリー)』の主人公ハルは、内面の美しさだけが見える催眠術をかけられる。しかし、Yeに群がる女性たちは「内面の美しさ」など求めておらず、外見や富、ステータスしか見ていないという強烈な皮肉。
She want that Iron Man like Gwyneth Paltrow (Named you the king)
あいつが求めてるのは、グウィネス・パルトローみたいに『アイアンマン』なんだよ(あなたを王に任命した)
※映画『アイアンマン』でGwyneth Paltrow演じるペッパー・ポッツが、億万長者のヒーロー(Tony Stark)のパートナーであることに例えている。女性たちはYeという「大富豪のヒーロー(=アイアンマン)」の力を求めている。
It's why people throwin' in the towel for
だからこそ、連中は白旗を揚げる(タオルを投げる)んだ
That dopeness I distribute like Alpo
俺がアルポみたいに捌きまくる、このヤバい代物(ドープネス)のせいにな
※「Alpo」は1980年代のハーレムで悪名を轟かせた伝説の麻薬王、アルポ・マルティネス(映画『Paid in Full』のモデル)。Yeは自身の音楽やデザインが、ストリートの最上級のドラッグ(Dopeness)と同じレベルの中毒性を持ち、それを世界中に流通(Distribute)させていると豪語している。
They don't take it to the heights that I'll go
奴らは、俺が到達するような高みまでは絶対に辿り着けねえよ
They burnt out on that black and mild flow (Named you the king)
あいつらはブラック&マイルドみたいな安っぽいフロウですぐに燃え尽きちまうのさ(あなたを王に任命した)
※「Black & Mild」は安価な機械巻きのシガー(葉巻)。他のラッパーたちのフロウが安物ですぐに吸い終わる(飽きられる・燃え尽きる)ことと対比させ、自身の芸術性の永続性を強調している。
They had to run, but Yeezy got it now though
奴らは逃げ出すしかなかった、だが今じゃYeezy(俺)が完全に掌握してるぜ
It's over with for them, like it's an outro (Named you the king)
奴らの時代はもう終わりだ、曲のアウトロみたいにな(あなたを王に任命した)
※曲の終盤に差し掛かったことと、彼に歯向かう敵対者たちのキャリアが完全に終わった(Outro)ことを掛けるメタ的なパンチライン。
[Outro: Ye]
You know what season it is
今が何の季節か、お前も分かってるだろ
※「Yeezy Season」の到来。俺の時代が再びやってきたというアルバムを通じた絶対的王者の宣言。
