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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

LORD LIFT ME UP - Kanye West (feat. Vory) 【和訳・解説】

Artist: Kanye West (feat. Vory)

Album: DONDA 2

Song Title: LORD LIFT ME UP

概要

本作は、『DONDA 2』に収録された、ゴスペルとトラップ・ソウルが融合した荘厳な祈りの歌である。特筆すべきは、主役であるカニエ・ウェストの声が一切入っておらず、前作『DONDA』でも重用された若きシンガー・ソングライター、ヴォリー(Vory)が全編のボーカルを担っている点だ。Voryのメランコリックで震えるような歌声は、泥沼の離婚劇やメディアの狂騒に疲弊しきったカニエの魂の「代弁者(プロキシ)」として機能している。「私を引き上げてください」という古典的なゴスペルのモチーフと、「Bluetooth」のような現代的なメタファーが交錯する、絶望の淵から神への完全な降伏を宣言した痛切なスピリチュアル・バラードだ。

和訳

[Chorus: Vory]

Lord, lift me up, lift me up
主よ、俺を引き上げてください。上へと引き上げてくれ。
※カニエ自身の声は一切収録されておらず、Voryの悲痛なボーカルがカニエの疲弊した精神状態を完全に代弁している。

Lift me up, oh, lift me up
引き上げてくれ、ああ、俺を救い上げてくれ。

Lord, lift me up, I've had enough
主よ、俺を引き上げてください。もうウンザリなんだ。
※"had enough"は限界を迎えている状態。世間のバッシングや家庭崩壊に対する精神的な限界。

I've had too much
あまりにも多くのものを抱え込みすぎた。

Too much, I don't seem to do much
多すぎるんだ。俺には大したことができないみたいだ。
※ビリオネアであり絶大な権力を持つカニエだが、己の力だけではどうにもならない無力感に苛まれている。

Too much, I don't seem to do nothin'
抱えきれねえよ。俺は何もできていないような気がする。

Lord, lift me up, oh, lift me up
主よ、俺を引き上げてください。上へと引き上げてくれ。

Lift me up, oh, lift me up
引き上げてくれ、ああ、俺を救い上げてくれ。

Lord, lift me up, lift me up
主よ、俺を引き上げてください。上へと引き上げてくれ。

Oh, lift me up, lift me, lift me up
ああ、引き上げてくれ、俺を、俺を上へと。

[Verse: Vory]

Pray what you wanted to be
お前がなりたかったもののために祈るんだな。

Just takin' whatever You wanted from me
お前(あるいは神)が俺から望むものを、ただ奪っていく。
※元妻キム・カーダシアンへの語りかけ、あるいは神がカニエからすべて(家族や平穏)を奪っていくことに対する宗教的な試練としての解釈。

It turns out I want it to me
結局のところ、俺はそれを自分のために望んでるんだ。

I'll take You wherever You wanted to be
お前が望む場所なら、どこへでも連れて行ってやるよ。
※愛する者を喜ばせるために全てを捧げてきた過去の回顧。

Burden's belonging to me
重荷(負担)は、俺のものだ。
※名声や家族を養う責任、そして「カニエ・ウェスト」であるという巨大な重圧(Burden)を一人で背負い込む家父長としての孤独。

You're givin' them just what they wanted to see
お前は、連中が見たがってるものをそのまま見せてやってるんだな。
※リアリティ番組やSNSを通じて、プライベートを大衆のエンターテインメントとして消費させている元妻やメディアへの冷笑。

They wanna see the family feud
奴らは「家族の争い(ファミリー・フュード)」を見たがってるんだ。
※Reddit等でも高く評価された秀逸なダブルミーニング。アメリカの長寿クイズ番組『Family Feud』(カーダシアン家とカニエも過去に出演したことがある)と、現在の泥沼の「離婚劇(家族の争い)」を掛けている。大衆が自分たちの悲劇をテレビ番組のように楽しんでいることへの痛烈な批判。

I can't let the family lose
家族を負けさせるわけにはいかないんだ。
※世間の見せ物にされようとも、父親として家族というシステムを守り抜こうとする切実な責任感。

Struggle with me back and forth, like me and you
俺と一緒に行ったり来たりしながらもがいてる。まるで俺とお前みたいにな。
※一進一退を繰り返す離婚調停や、愛憎入り混じる複雑な人間関係の描写。

[Chorus: Vory]

Oh, Lord, I call on You to
ああ主よ、あなたに呼びかけます。

Lift me up, oh, lift me up, oh, lift me up
どうか俺を引き上げてください、俺を救い上げてくれ。

Oh, Lord, I call on You to
ああ主よ、あなたに祈ります。

[Outro: Vory]

No strings attached, that's Bluetooth
縛り(紐)なんて何もない。それがBluetoothさ。
※"No strings attached"は「無条件で」「しがらみがない(都合の良い関係)」を意味する慣用句。それを「弦(ワイヤー)がない=Bluetooth(無線)」と掛けるという、極めて現代的でスマートなワードプレイ。複雑な人間関係に疲弊し、何の条件もない自由な繋がりを求めている。

That's you, too, sorry, sorry
お前もそうなんだよな。悪かったよ、ごめんな。
※最終的に相手の立場も理解し、弱々しく謝罪の言葉を口にして楽曲は静かに幕を閉じる。エゴイストであるカニエ(の代弁者)が最後に折れるという、非常に脆く人間臭いエンディング。