Artist: Kanye West
Album: DONDA 2
Song Title: GET LOST
概要
本作は、カニエ・ウェストの『DONDA 2』に収録された、ドラムやビートなどの楽器を一切排除し、過剰なボコーダー(オートチューン)処理を施したアカペラのみで構成される極めて実験的で内省的な楽曲である。Bon Iverの「715 - CR∑∑KS」や、自身の大名盤『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』の「Runaway」のアウトロを彷彿とさせるこのミニマルな音響は、元妻キム・カーダシアンとの離婚によって生じた圧倒的な孤独感と、精神的な羅針盤を失った「迷子(Lost)」の状態を音そのもので体現している。過去の栄光(Pablo期)への固執や無意味なプライドを自嘲し、愛する者を失った暗闇の中でただ一人彷徨い続ける、カニエのキャリア史上最も脆く悲痛な失恋の独白だ。
和訳
[Verse]
I still get lost at night
今でも夜になると迷子になっちまうんだ。
※ビートが一切存在せず、カニエの孤独なボコーダーボイスだけが響くプロダクション。元妻キム・カーダシアンを失い、人生の羅針盤を失った絶対的な孤独を表現している。
Lost in my dreaming time
夢を見ている時間の中でも彷徨ってる。
Memories back from fine
良かった頃の記憶が蘇ってくる。
Back to get all my time
俺の時間を全て奪い返しに来るんだ。
※幸せだった結婚生活のフラッシュバックが、現在のカニエの精神を侵食し、現在進行形の時間を奪っていくという残酷な心理描写。
I still get lost when trying
前に進もうと足掻いても、やっぱり迷っちまう。
Memory back from time
時の彼方から記憶が引き戻される。
Oh, my life's on the line
ああ、俺の人生は崖っぷち(オン・ザ・ライン)だ。
※"on the line"は危険に晒されている、あるいは「電話線(オンライン)」に繋がって相手からの連絡を待ちわびている状態のダブルミーニングとも解釈できる。
Oh, my life's on the line
ああ、俺の人生はギリギリのところにある。
I still get lost at night
今でも夜になると迷子になっちまう。
Memory back from mine
俺の中にある記憶が蘇る。
'Member we had one night?
俺たちが過ごした、あの夜のことを覚えてるか?
'Member we had the night?
あの特別な夜のことを覚えてるか?
I still get lost sometimes
今でも時々、どうしようもなく迷っちまうんだ。
Memories haunting mine
記憶が幽霊みたいに俺に憑りついて離れない。
※"haunting"は亡霊がつきまとうこと。愛した記憶そのものが、今や彼を苦しめる呪いとなっている。
'Member we had the mind?
俺たちは同じ心を持っていた(通じ合っていた)よな?
'Member we had the mind?
同じ考えを共有してたよな?
I'm gon' get lost sometimes
きっとこれからも、時々迷っちまうんだろうな。
'Member we cried sometimes?
時には一緒に泣いたこともあったよな?
Fine with this final fight
これが最後の喧嘩になるなら、それでもいいさ。
Swear you was mine, all mine
誓って言うが、お前は俺の、俺だけのものだった。
※強烈な執着。過去形(was)であることが、すでに関係が完全に終わっている事実を残酷に突きつけている。
Jump off, them got the meets
飛び出すんだ、連中は密会してる。
※"meets"は陸上競技会や集まり。キムが他の男(ピート・デヴィッドソンなど)と会っていることへのパラノイア的な嫉妬や焦燥感。
Now you stay off the streets
今のお前はストリートから離れてる。
※キムが以前のようなライフスタイル(カニエとの刺激的な日々)から離れ、平穏だが退屈な日常に落ち着いてしまったことへの指摘。
Walked out without enough
不十分なまま、外へ歩き出しちまった。
Soccer without the cleats
スパイク(クリーツ)を履かずにサッカーをするようなもんだ。
※Reddit等のコミュニティで高く評価されたメタファー。芝生の上でスパイクなしでサッカーをすれば当然滑って転ぶように、人生のパートナー(スパイク=踏みとどまるためのグリップ)を失ったカニエが、社会生活で足元をすくわれ、転び続けている(奇行を繰り返している)ことの完璧な比喩である。
Fucked up, I'm on repeat
マジで最悪だ、同じことの繰り返し(リピート)だ。
Gone overnight, I beat
一晩で消え去った、俺は打ちのめされた。
I know I'm back to see
俺がまた見に戻ってくるってことは分かってる。
What a new sight to see
なんて目新しい光景なんだろうな。
※元妻が新しい恋人といる姿を、見たくないのにSNS等で確認してしまう現代特有の自傷的な行動。
What do you write for me? What will feel right for me?
俺のために何を書いてくれる? 何が俺にとって正しい(心地いい)んだろうな?
※"write"と"right"の同音異義語のライム。離婚弁護士の書類や、メディアが書き立てるゴシップに対する戸惑い。
I did what's right for me
俺は自分にとって正しいことをしたまでだ。
I fought from fighting me
自分自身との戦いから抜け出すために戦ったんだ。
※双極性障害などの内面的な闘争(fighting me)を乗り越えるための自己防衛だったという弁明。
Well, I would like to see
まあ、お手並み拝見といこうか。
I still get lost sometimes
今でも時々、迷子になっちまう。
Far from a state of mind
精神の安定(ステイト・オブ・マインド)には程遠いよ。
Stay on the vibes sometime
時にはバイブスだけに身を任せることもある。
When do I cross your mind?
いつになったら、俺はお前の頭の中をよぎる(思い出してもらえる)んだ?
When do you see my vibe?
いつになったら、俺の気持ちに気づいてくれるんだ?
I've got a Pablo shine
俺には「パブロ」の輝きがあるぜ。
※2016年のアルバム『The Life of Pablo』への言及。音楽的・ファッション的にも絶頂期であり、キムとの結婚生活も最も充実していた「パブロ期」の栄光を誇示し、気を引こうとしている切ない虚勢。
Pride is another lie
プライドなんてのも、ただの嘘(見栄)に過ぎない。
※前行で「パブロの輝き」と虚勢を張った直後に、それすらも無意味なプライドだと自ら否定している。全てを失ったカニエの究極の自己開示。
Okay, well, never mind
オーケイ、まあいい、気にするな。
Okay, then never mind
オーケイ、それならもう忘れてくれ。
Do I still cross your mind?
今でも、俺のことを思い出すことはあるか?
※「気にするな(never mind)」と言いながら、直後にまた同じ質問を繰り返してしまう。未練を断ち切れない人間のリアルな心理。
If not, then never mind
もし無いなら、気にしないでくれ。
If not, then never mind
もし無いなら、もう忘れてくれ。
※まるで相手の返事を待ちきれずに、自ら通信を切るようにフェードアウトしていく。極限のミニマリズムの中で「失恋の痛み」を表現しきった、非常にアバンギャルドなエンディング。
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