Artist: Kanye West (feat. Jay Electronica)
Album: Donda (Deluxe)
Song Title: Jesus Lord
概要
本作は、カニエ・ウェストの『Donda』の精神的な中核を成す、約9分に及ぶ壮大なゴスペル・ラップの叙事詩である。亡き母への思慕、自身の希死念慮、そして貧困とドラッグが連鎖するストリートの悲劇を描くカニエの長編ヴァースに続き、孤高の天才ラッパー、ジェイ・エレクトロニカが神学、陰謀論、歴史的搾取を交差させた神がかり的なラップを披露する。アウトロでは、シカゴの伝説的ギャング「ギャングスター・ディサイプルズ」の創始者ラリー・フーヴァーの息子による、父の恩赦と司法制度の矛盾を訴えるスピーチが配置され、黒人コミュニティが抱えるトラウマと神への救済(Jesus, Lord)という祈りが、ヒップホップの枠を超えたスケールで響き渡る歴史的傑作だ。
和訳
[Chorus: Kanye West]
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
※楽曲全体を貫くテーマ。救いを求める者への呼びかけである。
Now we've been through a lot of things
俺たちはこれまで、あまりにも多くのことを経験してきた。
※黒人コミュニティが歴史的に受けてきた苦難や、カニエ自身の人生の浮き沈みを指している。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
He lives in a lot of things
主は様々なものの中に宿っている。
※神の遍在性(オムニプレセンス)。あらゆる苦難や日常の中にも神は存在するという信仰。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
Been through a lot of things
本当に色んなことを乗り越えてきたんだよ。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
[Verse 1: Kanye West]
Sittin' by myself, I'm just thinkin'
一人で座って、ただ考え込んでる。
※カニエの内省的なトーンから物語が始まる。
About all I've been through, I wish I was dreamin'
これまでの経験全てについてな。いっそ夢であってほしかったよ。
※母の死、離婚、精神的崩壊など、カニエが経験した現実の痛ましさ。
Man, it's hard to be an angel when you surrounded by demons (Jesus)
悪魔どもに囲まれながら天使でい続けるなんて、マジでキツいぜ。(主イエスよ)
※音楽業界やメディア、あるいは自身の内なる闘争。悪意の中で純粋な信仰や善性を保つことの困難さを吐露している。
I watched so many people leave (Lord)
数え切れないほどの奴らが去っていくのを見た。(主よ)
※名声の周りに群がり、都合が悪くなると離れていく人々への冷徹な視線。
I see 'em change by the season, that's mama's sеasonin'
季節が変わるように奴らも変わっちまう。それがママの味付け(教え)だったよな。
※"season(季節)"と"seasoning(味付け・スパイス)"をかけたライム。亡き母ドンダが人を見る目について教えてくれたことへの言及。
God got you, the devil's watchin', he just peekin' in
神はお前を守ってくれてる。悪魔はただ覗き込んで、隙を窺ってるだけだ。
※誘惑や破滅(悪魔)は常に近くにいるが、最終的な主導権は神にあるという信仰の確認。
I know I madе a promise that I'd never let the reaper in (Jesus)
死神(リーパー)を絶対に入り込ませないって、約束したのにな。(主よ)
※"the reaper"は死神、転じてドラッグや破滅的なライフスタイルを指す。母や神に対して健全でいることを誓ったが、それを守るのが難しいという葛藤。
But lately, I've been losin' all my deepest friends (Lord)
でも最近、親友たちを次々と失ってるんだ。(主よ)
※精神的なすれ違いによる決別や、実際に命を落とした友人たちへの哀悼。
And lately, I've been swimmin' on the deepest end
そして最近の俺は、プールの底の一番深いところを泳いでるような気分だ。
※"deepest end"は絶望や鬱状態のどん底のメタファー。溺れかけている自身の精神状態を表している。
It's just drugs, it ain't no hugs, it ain't no love there
そこにあるのはドラッグだけだ。ハグも、愛も何一つねえ。
※精神的な空白を薬物(処方薬やアルコール)で埋めようとする孤独なハリウッドの現実。
You been down so much you don't even know what's upstairs (Jesus)
底辺に落ちすぎちまって、上の階に何があるのかすら分からなくなってる。(主よ)
※"down(落ち込む、下の階)"と"upstairs(上の階、天国、神)"の対比。絶望が深すぎて、神の存在すら見失いかけている状態。
Suicidal thoughts got you wonderin' what's up there (Lord)
自殺願望のせいで、あの空の上に何があるのかばかり考えちまう。(主よ)
※死後の世界(天国)への逃避願望。カニエの双極性障害による極端な鬱状態の生々しい描写である。
And while I introduce the party, you say it's up there
俺がパーティーを紹介する時、お前は「あの場所は最高(up there)だぜ」って言うけどな。
※"up there"のトリプルミーニング(物理的な上の階、天国、最高に盛り上がっている状態)。世俗的なパーティーの享楽と、彼が求める精神的な救済(天国)の虚無的な対比。
Too many pills, so much potions, so much pain, too many emotions
クスリの量が多すぎる。得体の知れない液体、大きすぎる痛み、感情が多すぎるんだ。
※オピオイドや抗うつ剤への依存と、コントロールできない感情の波。
And everything that you do good, it just go unnoticed (Jesus)
お前がした良いことは全部、誰にも気づかれずに過ぎ去っていく。(主よ)
※慈善活動や純粋な芸術的貢献よりも、スキャンダルばかりが消費される世間への不満。
Then they tell you that you good and just stay focused (Lord)
そのくせ奴らは「お前は大丈夫だから、ただ仕事に集中しろ」なんて抜かすんだ。(主よ)
※カニエの精神的健康を心配せず、彼を単なる「金の生る木」としてしか見ない業界の人間たちへの批判。
Mama, you was the life of the party
ママ、あなたはパーティーの中心(命)だった。
※"life of the party"は「その場を最も盛り上げる人」の意。母ドンダの明るく社交的な性格を讃えている。
I swear you brought life to the party
誓って言うよ、あなたがその場に命を吹き込んでたんだ。
When you lost your life, it took the life out the party (Jesus)
あなたが命を落とした時、パーティーから命が消えちまったよ。(主よ)
※母の死によって、カニエの人生から純粋な喜び(パーティーの命)が永遠に失われたという痛切なパンチライン。
That woman rode with me like a Harley (Lord)
あの人はハーレーみたいに、いつでも俺に寄り添って走ってくれた。(主よ)
※どんな時でも息子を無条件で支持し、守ってくれた母の強さをハーレー・ダビッドソンに例えている。
Visions of my cousins in a cell really scarred me
従兄弟が刑務所の檻の中にいる光景は、マジで俺の心に傷を残した。
※黒人コミュニティに蔓延する大量投獄システム(Mass Incarceration)の現実。家族が刑務所にいるというトラウマ。
Movin' to the hood was like signin' up for the army
フッドに引っ越すことは、軍隊に志願するようなもんだった。
※治安の悪い地域(フッド)での生活は、常に死と隣り合わせの戦場と同じであるというメタファー。
'Cause they been killin' **** since **** was watchin' Barney (Jesus)
だって奴ら、俺たちが『バーニー』を見てたガキの頃からずっと殺し合ってんだからな。(主よ)
※『Barney & Friends』は子供向けテレビ番組。物心つく前から身近に銃犯罪や殺人が存在している、スラムの異常な環境を指摘している。
You want dreams to come true? But I have nightmares (Lord)
夢を叶えたいかって? 俺が見てたのは悪夢の方だったよ。(主よ)
※アメリカン・ドリームへの強烈な皮肉。ストリートで育つ黒人の子供たちにとって、現実は悪夢でしかない。
'Cause if that come to life, then I might not be right here
だって、もしその「悪夢」が現実になってたら、俺は今ここにいないかもしれないからな。
※ストリートの抗争に巻き込まれて死んでいたかもしれないという恐怖。
Been in the dark so long, don't know if the light here
あまりにも長く暗闇にいたから、ここに光があるのかどうかも分からねえ。
※絶望のあまり、神の救い(光)を信じきれなくなっている心理。
But I'm just reaching for the stars like Buzz Lightyear (Jesus)
それでも俺は、バズ・ライトイヤーみたいに星に向かって手を伸ばし続けてる。(主よ)
※『トイ・ストーリー』のキャラクターの引用。"To infinity and beyond"(無限の彼方へ)というバズのセリフのように、限界を超えて高みを目指す姿勢。
And now I'm lightyears ahead of those nightmares (Lord)
そして今、俺はあの悪夢から何光年(ライトイヤー)も先に進んだ場所にいる。(主よ)
※"Buzz Lightyear"と"lightyears"の秀逸な言葉遊び。かつてのストリートの悪夢的状況からは完全に抜け出したという成功の誇示。
I deaded those night terrors when the night clears
夜が明けた時、あの夜驚症(ナイトテラー)を終わらせてやったんだ。
※名声や信仰を得ることで、過去のトラウマを克服したことの表現。
And if I talk to Christ, can I bring my mother back to life?
もし俺がキリストと話せたら、母さんを生き返らせることができるか?
※どれだけ成功しても、結局カニエが一番望んでいるのは亡き母の復活であるという、胸を締め付けるライン。
And if I die tonight, will I see her in the afterlife? (Jesus)
もし俺が今夜死んだら、死後の世界で彼女に会えるかな?(主よ)
※究極の孤独と死への希求。神への信仰の根底に、母との再会という個人的な願いがあることが示される。
But back to reality, where everything's a tragedy (Lord)
でも現実に引き戻される。ここでは全てが悲劇だ。(主よ)
※ここからカニエの視点は自身の内面から、架空(または実在)のストリートの若者とその家族の悲劇的な物語へとシフトする。
You better have a strategy or you could be a statistic
生き抜くための戦略を持っておかないと、ただの「統計の数字」になっちまうぞ。
※ストリートでの死は日常茶飯事であり、メディアや警察にとっては単なる「殺人事件の統計データ」の一つとしてしか扱われないという非情な現実。
Little boy dies, he just wanted a Mystic
小さな男の子が死んだ。あの子はただ「ミスティック」のジュースが飲みたかっただけなのに。
※"Mystic"はフルーツジュースのブランド。お使いに行っただけの無実の子供が、ギャングの流れ弾等で命を落とすという痛ましい情景。トレイボン・マーティン事件(スキットルズとアイスティーを買いに行って射殺された)などを強く連想させる。
And mama steady crying 'cause she really the victim (Jesus)
そして母親は泣き続けてる。彼女こそが本当の被害者だからな。(主よ)
※子供を失った母親が背負う一生のトラウマ。
And she's getting high and she's getting addicted (Lord)
今じゃ彼女はクスリでハイになって、完全に依存症になっちまった。(主よ)
※悲しみを紛らわすために麻薬に手を出し、貧困と堕落の連鎖に陥る描写。
And her older boy just stuck with the picture, painted vivid
そして上の息子は、その生々しく描かれた光景(記憶)から抜け出せずにいる。
※弟の死と、母親がドラッグに溺れていく姿を間近で見ている長男のPTSD。
That's a family portrait, and her daughter just absorbed it
それがこの家族の肖像画だ。そして娘もその環境を吸収しちまった。
※機能不全家族の負の連鎖が、残された娘にも波及していく。
Sixteen, pregnant, baby daddy say she should abort it (Jesus)
16歳で妊娠。相手の男は「堕ろすべきだ」って言う。(主よ)
※10代の妊娠と、無責任な父親。黒人貧困層における典型的な社会問題の描写。
But we can't afford it, so she decides to move forward (Lord)
でも中絶する金なんてない。だから彼女は産む(前に進む)ことを決心した。(主よ)
※経済的な理由で中絶の選択肢すらなく、過酷な環境でシングルマザーになる決意。
Baby shower time, father didn't show up
ベビーシャワーの時間になっても、父親は現れなかった。
※完全な育児放棄。子供は生まれながらにして父親不在の環境を強いられる。
Now she just feeling nauseous like she finna throw up
彼女はただ吐きそうなくらいの吐き気(絶望)を感じてる。
※つわりと、将来への絶望感が重なった生々しい表現。
The water flows down her legs, yeah, it's finna go up (Jesus)
羊水が脚を伝って流れ落ちる。ああ、いよいよだ。(主よ)
※出産の瞬間。しかしそこには祝福よりも、新たな苦難の始まりとしての暗い影が落ちている。
A year done went by, her daughter just turned one (Lord)
1年が過ぎて、彼女の娘は1歳になった。(主よ)
And she's still dependent on her mom
そして彼女(16歳の母)は、まだ自分自身の母親(ドラッグ依存症)に頼るしかないんだ。
※共依存と貧困の抜け出せないループ。
Big brother in the streets, he went and bought him a gun
ストリートにいる兄貴は、銃を買いに行った。
※弟の死のトラウマを抱えた長男が、ついに暴力のサイクルに足を踏み入れる。
He want revenge 'cause the pain feelin' numb (Jesus)
復讐したいんだ。痛みが麻痺して何も感じなくなってるからな。(主よ)
※深い悲しみが怒りへと変わり、報復行動へと駆り立てられる心理状態。
And her mom still doing drugs 'cause that's the only time she feel loved (Lord)
そして彼女の母親はまだクスリをやってる。ハイになってる時だけが、愛されてると感じられる唯一の瞬間だから。(主よ)
※ドラッグ依存の根本的な原因が、愛情の欠乏と社会的な孤立にあることを鋭く突いている。
Is it real love? Do the scars really heal up?
でもそれは本当の愛なのか? その傷は本当に癒えるのか?
※ドラッグによる一時的な逃避への疑問提起。
From all the pain that done built up, but they don't feel us (Jesus)
積み重なったあらゆる痛みから逃れたいのに、社会は俺たちのことなんて少しも理解しちゃくれない。(主よ)
※黒人コミュニティの苦しみを放置し、犯罪者としてのみ扱う白人中心の社会システムへの怒り。
A week done flew by, big bro ridin' then he see the guys (Lord)
1週間が飛ぶように過ぎた。兄貴が車を転がしてると、あの連中(弟を殺した奴ら)を見つけたんだ。(主よ)
※運命的な遭遇。復讐劇のクライマックスへと向かう。
Left his little brother on the side, bleeding from the side
自分の弟を道端に置き去りにして、あいつは脇腹から血を流して死んだんだ。
※フラッシュバック。弟が射殺された時の残酷な記憶が蘇る。
He seein' red, it's like he's bleeding through his eyes
兄貴は頭に血が上り(seein' red)、まるで目から血を流してるように見えた。
※極度の怒りと殺意のメタファー。
To see him dead, the only thing that'll help the grieving up inside (Jesus)
あいつが死ぬのを見ること、それだけがこの内なる悲しみを鎮める唯一の方法なんだ。(主よ)
※報復殺人によってしか魂が救われないという、ストリートの悲しき掟。
He even let him get the last meal
兄貴はご丁寧に、奴らに「最後の晩餐」まで食わせてやったんだ。
※ターゲットが食事を終えるのを待つという、冷酷で計画的な殺意。
He done with the streets after this, this his last kill (Lord)
これを終わらせたら、ストリートからは足を洗う。これが彼にとって「最後の殺し」だ。(主よ)
※犯罪者がよく口にする「これが最後」というフラグ。しかし暴力の連鎖はそう簡単に断ち切れない。
He gotta show him that it's that real
これがどれだけ現実(マジ)か、奴らに思い知らせてやらなきゃならない。
※弟の命の重さを、銃弾で教え込むという歪んだ正義感。
He ran up on him with the pipe like, "****, stand still" (Jesus)
パイプ(銃)を持ったまま奴に駆け寄り、「おいクソ野郎、動くな」って言い放った。(主よ)
※"pipe"は銃のスラング。
"You took my brother life, you made my mother cry" (Lord)
「お前は俺の弟の命を奪い、俺の母さんを泣かせた」。(主よ)
"Tell me one reason I shouldn't send you up to Christ"
「俺がお前をキリストの元(あの世)に送ってやらない理由があるなら、一つでも言ってみろ」
※死刑執行人のようなセリフ。神の裁きを自らの手で下そうとしている。
He said, "Go 'head, take my life, I've seen everything but Christ"
標的の男は言った。「やれよ、俺の命を奪え。俺はキリスト以外の全てを見てきたんだからな」
※殺される側の男もまた、ストリートの地獄(全て)を経験し、神の救い(キリスト)だけを見たことがないという絶望的な悟り。死を恐れていないストリートの虚無感。
Then big bro just blacked out and all you seen was the light (Jesus, Lord)
その瞬間、兄貴の意識は飛び、目に映ったのは(銃の閃光という)光だけだった。(主イエスよ)
※ついに引き金が引かれた。銃の放つ「光(マズルフラッシュ)」と、死後の世界へ導く「光」、そして神の「光」が交錯する極めて映画的でトラウマティックなエンディング。
[Chorus: Kanye West]
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
[Verse 2: Jay Electronica]
Uh-huh, in the name of the true and living God, the beneficent, the merciful (Hallelujah)
ああ、真の生ける神、慈悲深く慈愛あまねき御名において。(ハレルヤ)
※イスラム教の祈り「バスマラ(In the name of Allah, the Most Gracious, the Most Merciful)」の引用。ジェイ・エレクトロニカはネーション・オブ・イスラム(NOI)の熱心な信者である。
Thank you for bringing me up the rough side of the mountain like Ertuğrul (Jesus)
エルトゥールルのように、山の険しい側から俺を引き上げてくれたことに感謝します。(主よ)
※"Ertuğrul"はオスマン帝国の基礎を築いた13世紀のトルコの指導者。ネットフリックス等で配信されたトルコの歴史ドラマ『復活:エルトゥールル』がムスリムコミュニティで大ヒットした背景を踏まえ、苦難を乗り越えて国(自身の地位)を築いた偉人に自身を重ねている。
Every knee bowed and every tongue confessed and paid homage (Lord)
すべての膝はかがみ、すべての舌は告白して敬意を払った。(主よ)
※新約聖書のフィリピの信徒への手紙 2章10-11節「すべての膝がイエスの名によってかがみ、すべての舌が『イエス・キリストは主である』と公に告白して…」からの引用。
To the monk who visit Rothschilds like Thelonious did Pannonica (Sheesh)
セロニアスがパノニカを訪ねたように、ロスチャイルド家を訪れる修道僧(モンク)にな。
※ジャズの巨匠セロニアス・モンク(Thelonious Monk)と、彼を熱心にパトロンとして支援したロスチャイルド家出身のパノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター男爵夫人へのリファレンス。"monk(修道僧)"と"Monk(セロニアスの姓)"をかけている。Jay Elec自身が巨大な権力者(ロスチャイルド)とも関わりを持つ孤高の存在であるという自己誇示。
It's Jay Elec-entendre-nica comin' through your monitor
モニター越しに現れた、ジェイ・エレクト-アントンドラ-ニカだ。
※"double entendre(二重の意味、ダブルミーニング)"と自身の名前を掛け合わせた造語。自分のリリックには常に深い裏の意味があるという宣言。
Back from the great and yonder, the son of man and the son of Donda (Jesus)
偉大なる彼方(天界)から戻ってきたぜ、「人の子」と「ドンダの息子」と共にな。(主よ)
※"the son of man"は聖書においてキリストを指す言葉。「人の子(キリスト)」と「ドンダの息子(カニエ)」という神聖な存在と共に、Jay Elecがシーンに帰還したことを示している。
I never rode the GSXR or the R6 or the Honda (Lord)
俺はスズキのGSXRにも、ヤマハのYZF-R6にも、ホンダのバイクにも乗ったことはない。(主よ)
※ストリートのラッパーがよく自慢する日本製のスポーツバイク(ラフ・ライダーズ的な象徴)には興味がないという表明。
But I flew my Ducati through North America like Wakanda
だが俺は、ドゥカティをかっ飛ばして北米をワカンダみたいに飛んでやったのさ。
※代わりにイタリアの高級バイク、ドゥカティに乗り、マーベル映画『ブラックパンサー』の超高度文明国家ワカンダのように、黒人の誇りを持ってアメリカを駆け抜けるというアフロフューチャリズム的なライン。
Earthquakes will strike this nation for what Bush did to Rwanda (Facts)
ブッシュがルワンダにしたことの報いで、この国に地震(天罰)が襲うだろう。(事実だ)
※1994年のルワンダ大虐殺において、当時の米政権が介入を避け、悲劇を傍観したことへの強烈な政治批判。Jay Elecは陰謀論や反帝国主義的な思想を頻繁にリリックに織り込む。
What the Clintons did to Haiti and Downing Street did to Ghana (Jesus)
クリントン夫妻がハイチにしたこと、そしてダウニング街(英首相官邸)がガーナにしたことへの報いもな。(主よ)
※クリントン財団のハイチ震災復興資金を巡る疑惑や、イギリス(ダウニング街10番地)によるガーナ(旧英領ゴールドコースト)への植民地支配・搾取に対する告発。欧米列強の第三世界への抑圧を神の視点で断罪している。
In Tepoztlán, they call me Terremoto, El Negro Loco (Lord)
メキシコのテポストランじゃ、奴らは俺を「テレモート(地震)」「エル・ネグロ・ロコ(イカれた黒人)」って呼ぶぜ。(主よ)
※Tepoztlánはメキシコのスピリチュアルな町。"Terremoto(地震)"は前のラインの"Earthquakes"と掛かっており、彼が歩く先々でカルチャーに地殻変動(衝撃)をもたらす存在であることを意味する。
I shake the tectonic plates of the game if I lay one vocal
俺がひと声ラップを吹き込めば、このラップゲームの地殻(テクトニック・プレート)が揺れるんだ。
※圧倒的なラップスキルにより、シーンの構造そのものを変えてしまうという自信。
The God is interstellar while you fellas remain local
神(俺)は星間(インターステラー)レベルだが、お前らはローカル(地元止まり)なまま。
※ファイブ・パセンターズ(NOIから派生した教派)の教義において、黒人男性は「神(God)」とされる。宇宙規模の視野を持つ自分と、ストリートの次元に留まる他のラッパーたちを対比させている。
My bars is like the pyramid temples of Pacal Votan (Jesus)
俺の綴るバースは、パカル・ヴォタンのピラミッド神殿みたいなもんだ。(主よ)
※"Pacal Votan(パカル大王)"は7世紀のマヤ文明パレンケの王。彼の墓(碑銘の神殿)は古代宇宙飛行士説などオカルト的な文脈でも有名。自身のラップが古代文明の遺産のように神秘的で永遠の価値を持つというメタファー。
As sure as the DOJ confirmed Ezekiel's Wheel (Lord)
米司法省(DOJ)が「エゼキエル書に記された車輪(UFO)」の存在を認めたように、確かなことだ。(主よ)
※近年、アメリカ政府(ペンタゴンやDOJ)がUFO(UAP)の映像を公式に認めたことと、旧約聖書「エゼキエル書」に登場する神の戦車(車輪)の記述を結びつける、Jay Elec特有の神学と陰謀論のミックス。
I could change the world like Yacub with two pieces of steel
俺は2つの鋼の欠片を持ったヤクブのように、世界を変えられる。
※"Yacub(ヤクブ)"はNOIの独自の教義に登場する古代の邪悪な黒人科学者。彼が遺伝子操作(磁石や鋼のメタファー)によって「白人」という人種を作り出し、世界に悪をもたらしたとされる。白人を創り出したヤクブのように、自分も世界を根底から変革できる力を持つという過激なライン。
My sword and my microphone, I swore to the Christ's throne
俺の剣、すなわち俺のマイクロフォン。キリストの玉座に誓ったんだ。
※ラップという武器を使って、神聖な真実を広めるという誓い。
But when you great, they wanna say you took a L, José Castillo (Jesus)
だが偉大な存在になると、連中はお前が「L(敗北)」を喫したと言いたがるんだ。ホセ・カスティーヨのようにな。(主よ)
※天才的ながら極端に寡作なJay Elecに対し、世間が「才能を無駄にした(took an L)」と批判することへの反論。"José Castillo"は2001年のフロイド・メイウェザーとの世界戦で、圧倒的に優勢に見えながら不可解な判定で敗北(L)を喫したボクサーのホセ・ルイス・カスティーヨを指しているとされる。不当な評価を下されていることの比喩。
I'm in the fight here, fight here for what seemed like lightyears (Lord)
俺はここで戦い続けてる、戦い続けてるんだ。まるで何光年も続くような闘いをな。(主よ)
※カニエのバースに登場した"lightyears"をリプライズ。スピリチュアルな真理を探求し、悪と戦う果てしない道程。
My rugged cross and thorny crowns squeeze out Christ tears
俺の背負うゴツゴツした十字架と、茨の冠が、キリストの涙を絞り出す。
※自身が受ける批判や苦難を、イエス・キリストの受難(磔刑)に重ね合わせている。
Thirty pieces of silver clout, my Pierre price tier
銀貨30枚の薄っぺらい影響力(クラウト)。俺の価格帯(プライス・ティア)はピエール・ポン級だぜ。
※"Thirty pieces of silver"はイスカリオテのユダがイエスを裏切って得た報酬。金やSNSの数字(clout)のために魂を売る現代のラッパーたちをユダに例え批判している。"Pierre price tier"は、大富豪ジョン・ピエールポン・モルガン(J.P. Morgan)のような天文学的な価値が自分にはあるという主張。
It's a war outside, it's a war outside (Jesus)
外は戦争だ、マジで外は戦争なんだ。(主よ)
※ストリートの物理的な暴力だけでなく、情報や魂を巡る霊的な戦争が起きているという警告。
It's like the last days of Sodom and Gomorrah outside (Lord)
外はまるで、滅亡の日のソドムとゴモラみたいだ。(主よ)
※旧約聖書において、住民の退廃と不道徳のゆえに神の怒りに触れ、硫黄の火で滅ぼされた都市「ソドムとゴモラ」。現代のアメリカ社会や音楽業界のモラル崩壊を、終末論的な視点で嘆いている。
[Chorus: Kanye West]
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
Now we've been through a lot of things
俺たちはこれまで、あまりにも多くのことを経験してきた。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
He lives in a lot of things
主は様々なものの中に宿っている。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
Been through a lot of things
本当に色んなことを乗り越えてきたんだよ。
Tell me if you know someone that needs (Jesus, Lord)
(主イエスを)必要としてる奴を知ってるなら教えてくれ。
[Outro: Larry Hoover Jr. & Kanye West]
What up, Ye? This Larry Hoover Jr
調子はどうだ、Ye? ラリー・フーヴァー・ジュニアだ。
※アウトロは、シカゴの巨大ギャング組織「ギャングスター・ディサイプルズ」の創設者であり、終身刑で服役中のラリー・フーヴァーの息子によるスピーチ。彼の父の恩赦は、シカゴのストリートにおける長年の悲願である。
First and foremost, I wanna thank you for taking the fight for my father to the Oval Office
まず何よりも、俺の親父のための闘いを大統領執務室(オーバル・オフィス)にまで持ち込んでくれたことに感謝したい。
※カニエが2018年にホワイトハウスを訪れ、トランプ大統領(当時)にラリー・フーヴァーの恩赦を直接直談判した歴史的出来事への感謝。
You might not have been the only one that could've did that
それができたのはアンタだけじゃなかったかもしれない。
But you were the one that did do that
だが、実際にそれを「実行」したのはアンタだけだった。
※口だけで行動しない多くの政治家やセレブと違い、激しいバッシングを受けながらも実際にトランプと面会したカニエの行動力を高く評価している。
And with your assistance, we can continue to let the world take part in this fight
そしてアンタの支援のおかげで、俺たちは世界中を巻き込んでこの闘いを続けることができるんだ。
You know, to me, it kinda feels like
俺にとっちゃ、こんな気分なんだ。
Me, my mother, my brothers, and my kids
俺も、母さんも、兄弟も、子供たちも全員、
Have all been incarcerated through this journey
この長い闘いの中で「投獄されてる」ような気分だったよ。
And we haven't even been to jail
俺たちは刑務所にすら入ってないのにな。
※家族の一人が終身刑になることは、残された家族全員の人生をも束縛し、社会から孤立させるという「Mass Incarceration(大量投獄)」の残酷な本質。
We have been looked at and treated as criminals
俺たちは犯罪者として見られ、扱われてきたんだ。
For being a part of this family
この家族の一員であるというだけでな。
※「ギャングのボス」の家族に対する世間の強烈なスティグマ(烙印)と偏見。
My father's truth and the reality that he raised me in
親父の真実、そして親父が俺を育ててくれた現実とは、
Is that he wanted to make a change in this community (Tell me if you know someone that needs)
彼がこのコミュニティに変革をもたらしたかったということだ。(教えてくれ、誰か救いを必要としているか)
'Cause the conditions in this capitalist society is what made him
なぜなら、この資本主義社会の過酷な環境こそが親父をあのような人間にし、
And it's what made the children of today
そして今の子供たちを形作っているからだ。
※ギャングの存在は個人の悪意だけでなく、黒人を経済的に搾取・隔離するアメリカの資本主義構造そのものが生み出したシステムの問題であるという社会学的指摘。
After twenty-five years of bein' locked down, twenty-three and one
25年間も監禁され、1日23時間は独房、1時間だけ運動という生活の中で、
My father has not called any shots from one of the most secure and segregated prisons in the world
親父は世界で最も厳重に隔離された刑務所から「何の命令」も下していない。
※当局が「彼はまだ獄中からギャングを操っている」という理由で釈放を拒んでいることへの反論。
And will not, once released, call any shots for the Gangster Disciples
そしてもし釈放されたとしても、彼がギャングスター・ディサイプルズに命令を下すようなことは絶対にない。
If my father's intentions were to lead us to death, destruction
もし親父の目的が、死や破壊へと俺たちを導き、
Into the Hell that he has had to live in for the past twenty-six years
彼自身が過去26年間生き抜かなければならなかった地獄へ突き落とすことだとしたら。
Man, he would be dead to me
なあ、俺にとっちゃ親父は死んだも同然だ。
※父の本当の願いはコミュニティの平和と更生であり、もし彼が暴力の継続を望むなら親子の縁を切るという強烈な覚悟の表明。
I didn't sign up for that
俺はそんなことのために活動を始めたわけじゃない。
I didn't stay on this journey this long for that
そんなことのために、こんなに長い間この闘いを続けてきたわけじゃないんだ。
All my life, man
俺はこれまでの人生ずっと、
I've been waitin' for my father to come home
親父が家に帰ってくるのを待ち続けてきた。
They told me when I graduate eighth grade, he would be home
奴らは、俺が中学(8年生)を卒業する頃には親父は帰ってくるって言った。
Then they told me when I graduate from high school, he would be home
それから、高校を卒業する頃には帰ってくるって言った。
I went away to Morris Brown, I graduated and he still ain't home
俺は(アトランタの黒人大学)モリス・ブラウン大学に進学し、卒業した。それでも親父は帰ってこなかった。
※アメリカの司法システムがいかに黒人の希望を裏切り、時間を奪ってきたかという痛切な告発。
Now I'm a adult, and my daughter went away to college and graduated
今や俺は大人になり、俺の娘が大学へ行き、そして卒業した。
He still not home
それでもまだ親父は家に帰ってこない。
Now even more than that, my son, he graduated eighth grade and we still waitin'
今じゃさらに、俺の息子までが中学を卒業した。俺たちはまだ待ち続けてる。
Matter of fact, he hasn't hugged, kissed, or touched any of his grandchildren
実際のところ、親父は自分の孫たちを抱きしめたことも、キスしたことも、触れたことすら一度もないんだ。
And they haven't been able to touch they grandfather
そして孫たちも、自分たちの祖父に触れることができなかった。
Even though it is not seen that way for some of us
一部の人間にはそう見えないかもしれないが、
But for many of us, Larry Hoover is a beacon of hope for his community
俺たちの多くにとって、ラリー・フーヴァーはこのコミュニティの希望の光(ビーコン)であり、
Who deserves to breathe free air
自由な空気を吸う資格がある人間なんだ。
※シカゴのストリートにおいて、彼が単なる犯罪者ではなく、貧困から立ち上がろうとしたアイコン的側面を持つことを強調している。
Free my father (Jesus), Mr. Larry Hoover Sr. (Lord)
俺の親父を解放してくれ。(主イエスよ) ラリー・フーヴァー・シニアを。(主よ)
※法的な恩赦への訴えが、神への「祈り(Jesus, Lord)」と見事に同調してこの壮大な楽曲は幕を閉じる。
