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Tell The Vision - Kanye West (feat.Pop Smoke) 【和訳・解説】

Artist: Kanye West (feat.Pop Smoke)

Album: Donda (Deluxe)

Song Title: Tell The Vision

概要

本作は、2020年2月に凶弾に倒れたブルックリン・ドリルの象徴、ポップ・スモークへ捧げられた極めて異質なトリビュート・トラックである。ポップ・スモーク自身の遺作アルバム『Faith』にも同名の楽曲が収録されているが、カニエの『Donda』バージョンではドリル・ビートが完全に削ぎ落とされている。残されたのは、不気味なまでに孤独なピアノのループと、低音質で自主規制(検閲)だらけのポップ・スモークの孤立したボーカルのみだ。Reddit等では、この意図的な「引き算」のプロダクションについて、カニエが彼を天国(あるいは精神世界)からの幽霊のような存在として描きたかったのだと考察されている。成功を掴んだ直後に命を奪われた悲劇性と、『Donda』全体を覆う「喪失」と「哀悼」のテーマが残酷なまでに合致した、ヒップホップ史上最も物悲しい成功賛歌(Made it)である。

和訳

[Intro: Pop Smoke]

, we made it
なぁ兄弟、俺たちついにやったぜ。
※原詞の「Nigga」が意図的にミュート()されている。クリーン版である『Donda』の仕様ではあるが、この不自然な空白の連続が、ストリートから突然「消し去られた」彼の理不尽な死を音響的に表現していると評価されている。

, we made it
なぁ、俺たち成功したんだ。

, we made it
ついにここまで来たんだ。

[Chorus: Pop Smoke]

, we made it (Grr, woo, bah)
なぁ、俺たち成功したんだ。(グルル、ウー、バァ)
※"Woo"はブルックリンのカナージー地区を拠点とするギャング・アライアンスであり、ポップ・スモークが牽引したムーブメントの名称。彼の代名詞である力強いアドリブが、無機質なピアノの上で虚しく響く。

, we made it, we made it (Woo)
なぁ、俺たちついにやった、成功を掴んだぜ。(ウー)

, we made it (Woo)
ついにここまで来たんだ。(ウー)

Thank God that I made it (Grrt, bah)
ここまで来れたことを神に感謝するぜ。(グララ、バァ)
※ストリートの死線を潜り抜け、スターダムにのし上がったことへの純粋な感謝。しかし、この直後に強盗によって命を奪われたという事実が、このラインに残酷なまでのアイロニーと重みを持たせている。

, we made it, we made it (Woo)
なぁ、俺たちついにやった、成功を掴んだぜ。(ウー)

Look, mama, I made it (Grrt)
見てくれよママ、俺はやったんだ。(グララ)
※亡き母ドンダに捧げられたアルバムの中で、他界したポップ・スモークが「ママ」に成功を報告するこのラインをカニエが選んで配置した意図は極めて重い。母を失ったカニエと、母を残して逝った若きラッパーの魂が交錯する感動的な瞬間である。

[Verse: Pop Smoke]

Look, I remember the days, same 'fit for a week straight
なぁ、あの頃を覚えてるぜ。1週間ずっと同じ服を着回してた日々をな。
※極貧だった下積み時代への回帰。後にディオールなどのハイブランドを着こなし、ファッションアイコンにもなった彼のストリートでのハングリー精神を物語っている。

I used to eat fifty-cent cake, now it's Philippe's
昔は50セントの安物ケーキを食ってたが、今じゃフィリップスだ。
※"fifty-cent cake"はボデガ(日用品店)で売られている安価なスナック。"Philippe's"はニューヨークにある高級中華レストラン「Philippe Chow(フィリップ・チャウ)」。貧困からの脱却を食事の変化で表現する、ヒップホップにおける定番のボースト(自慢)である。

It's Philippe's for the steak
フィリップスで高級ステーキを食うんだ。
※成功の象徴。

Buy it, I don't care what it cost
欲しいもんは買う、値段なんて気にしねぇ。
※圧倒的な経済的余裕の誇示。

And I always keep a pole
それに、俺はいつでもポール(銃)を隠し持ってる。
※"pole"は銃(特に拡張マガジン付きの拳銃や長物)を指すストリート・スラング。大金を持ったことで標的にされるリスクが高まるため、成功してもストリートの警戒心は解いていないというリアルな描写。

I did a hundred on a pro
プロモーションに100万は突っ込んだぜ。
※"pro"はプロモーション、あるいはプロベーション(保護観察)。莫大な金を動かしているスケールの大きさ。

If you droppin' a woo, we come where you live
もし「ウー」を侮辱するなら、お前の住み家まで乗り込むからな。
※"droppin' a woo"は、敵対ギャング(Chooなど)がWooのハンドサインを逆さに作って下に落とし、侮辱する行為(ディスリスペクト)。それに対する強烈な報復宣言。

Glock 9, infrared
グロック9ミリ、赤外線レーザー付きだ。
※"infrared"は銃に装着するレーザーサイト。対象を確実に仕留めるという殺意の表現。

Pull up and еmpty the clip
車で乗り付けて、マガジンを空っぽにしてやるよ。
※対象の家まで行き、銃弾を全弾撃ち尽くす(empty the clip)というドライブバイ・シューティングの生々しい脅迫。

Dread had the strap all summеr
ドレッドは夏の間ずっと、ストラップ(銃)を携帯してたぜ。
※"Dread"はドレッドヘアの仲間、あるいはWooの特定のメンバーを指す。"strap"は銃。抗争が激化する夏場において、常に武装していたストリートの極限状態。

In the Floss movin' reckless
フロスじゃ、周りを気にせず無謀に動いてた。
※"The Floss"(Flossy)はブルックリンのカナージー地区の愛称であり、ポップ・スモークの地元。そこでの恐れを知らないギャングスタとしての振る舞い。

Do not play with me, ****, I keep a K with me
俺をナメるなよ、クソ野郎。俺はK(AK-47)を常備してんだからな。
※"K"はアサルトライフルのAK-47。成功を歌いながらも、最後まで武闘派としての姿勢を崩さないままヴァースが終わる。

[Chorus: Pop Smoke]

, we made it (Grr, woo)
なぁ、俺たち成功したんだ。(グルル、ウー)

, we made it, we made it (Woo)
なぁ、俺たちついにやった、成功を掴んだぜ。(ウー)

****, we made it (Woo)
ついにここまで来たんだ。(ウー)

Thank God that I made it
ここまで来れたことを神に感謝するぜ。

 

Donda (Deluxe)

Donda (Deluxe)

  • Getting Out Our Dreams II, LLC / Def Jam Recordings
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