Artist: Kanye West (feat. Travis Scott & Baby Keem)
Album: Donda (Deluxe)
Song Title: Praise God
概要
本作「Praise God」は、トラップミュージックのダークな熱狂とゴスペルの神聖な賛美が異次元のレベルで融合した『Donda』屈指のバンガーである。イントロでは、亡き母Donda Westが黒人女性初のピューリッツァー賞詩人グウェンドリン・ブルックスの詩を朗読する生前の肉声がサンプリングされ、「どんな暗闇(絶望)にも必ず朝は来る」というアルバム全体のテーマを啓示している。Travis Scott特有のサイケデリックなトラップサウンドに乗せ、悪魔に打ち勝ち墓場から蘇るというキリスト教的なカタルシスが歌われる。しかし、本作の真のハイライトは後半のBaby Keemによる狂気的とも言える長尺のヴァースだ。Kendrick Lamarを従兄弟に持つこの若き天才は、不規則なフロウと「Tame Impala」などの特異なワードセンスを見せつけ、ストリートの不条理や薄っぺらい信仰心への批判を織り交ぜながら、ヒップホップシーンにおける自身の実力と存在感を完全に決定づけた。死と再生、そして世代の継承を描いた歴史的トラックである。
和訳
[Intro: Travis Scott & Donda West]
That she wrote, "Speech to the Young: Speech to the Progress-Toward"
彼女が書いた『若者へのスピーチ:前進する者へのスピーチ』からよ
※亡き母Donda Westの肉声。黒人女性初のピューリッツァー賞受賞詩人Gwendolyn Brooksの詩のタイトルを引用している。次世代へ向けた力強いメッセージの幕開けだ。
Say to them, say to the down-keepers, the sun-slappers
彼らに言ってやりなさい。人を引きずり下ろそうとする者、太陽を平手打ちする者たちに。
※「down-keepers(現状維持を強要し他人の成長を妨げる者)」「sun-slappers(太陽=希望や光を否定する者)」に対する警告。
The self-soilers, the harmony-hushers
自らを汚す者、調和を黙らせようとする者たちに。
※「self-soilers(自己嫌悪や自己破壊に陥る者)」「harmony-hushers(平和や団結を壊そうとする者)」。これらのネガティブな存在に屈しない強さを説いている。
Even if you are not ready for the day, it cannot always be night
たとえあなたにその日を迎える準備ができていなくても、いつまでも夜が続くわけではないのよ。
※絶望(夜)は永遠ではなく、必ず希望(朝)が訪れるというDonda Westからの究極のメッセージ。このサンプリングは深いトラウマを抱えたKanyeの救済そのものである。
Serve, flex, I do work (Work)
サーブして、フレックスして、俺はやるべき仕事をこなすぜ
※ここからTravis Scottのパート。Serveは「ドラッグを捌く」ことと「神に仕える」ことのダブルミーニング。
Six, I'm like Mike
6つのリング、俺はマイクみたいにな
※マイケル・ジョーダンがNBAで獲得した6つのチャンピオンリングを引き合いに出し、自分たちの無敗・頂点をアピールしている。同時にDrakeの異名("The 6"=トロント出身)への牽制と読むファンも多い。
He's out of sight, woo
あいつは視界から消えたぜ、woo
※ライバルたちをはるか後方に置き去りにしたこと、あるいは神(He)の不可視の力を指す。
You done got me piped
お前らは俺を完全にハイにさせたな
※piped up=テンションが最高潮になる、興奮する状態。
Two-man like Ike
アイクみたいに2人組でな
※アイク&ティナ・ターナーのこと。デュオ(ここではKanyeとTravis)としての圧倒的な存在感、あるいは暴力的なまでの勢いを比喩している。
Six out the spot (Uh, uh)
現場から6時(あるいは6人)で抜け出す
Into the night
夜の闇の中へな
[Verse 1: Travis Scott & Kanye West]
Yeah, I'm shakin' the drop (Drop)
ああ、ドロップトップを揺らしてるぜ
※車のサスペンションを揺らす(低音を響かせる)情景。
I'm still up on top (Aight)
俺はまだ頂点に君臨してる
※前述のMike(ジョーダン)の比喩の継続。
I been had the bop
ずっとノれる曲を作り続けてきたんだ
The devil my opp, can't pay me to stop (It's lit)
悪魔が俺の敵だ、どれだけ金を積まれても俺は止まれねぇ(最高だぜ)
※oppは「敵対ギャング」。ここではストリートの敵ではなく、悪魔そのものを最大の敵と設定する『Donda』の宗教観。
My God at the top (La Flame)
俺の神は頂点にいるんだ(ラ・フレイム)
※La FlameはTravis Scottの別名。トラップのバイブスで神への絶対的な信仰をシャウトする。
[Chorus: Kanye West & Donda West]
We gon' praise our way out the grave, dawg
俺たちは墓場から這い上がるために神を賛美するんだ、なぁ
※キリストの復活のモチーフ。絶望や死(墓場)のような状況から、信仰と賛美によって蘇るという強烈なパンチライン。
Livin', speakin', praise God
生きて、語って、神をたたえる
Walkin' out the graveyard back to life
墓場を歩き抜けて、再び生命へと戻っていくんだ
I serve, follow your word, see with new sight, into the night (Hey)
俺は仕え、あなたの言葉に従い、新たな視界で夜の中へと進む
※古い自分(罪)が死に、神の言葉に従って新しい視点(New sight)を得て再生するプロセス。
[Verse 2: Travis Scott & Kanye West]
Yeah, this life I'm livin' (I'm livin')
ああ、俺が生きているこの人生
All the advice been tipped in (That thang)
すべてのアドバイスはもうインプットされた
Gave me that grip, no slippin' (That grip)
あのグリップが俺を支えてくれた、滑り落ちることはねぇ
※銃の柄、あるいは神の導きによる安定。
Out of my mind, went trippin' (My mind)
正気を失って、トリップしちまってたんだ
※TravisやKanyeの狂乱の過去、あるいはドラッグによる精神の迷走。
Tell me take two when I'm on one (I'm on)
俺が「1」の状態の時に、「2」を取れって言ってくれ
※on oneは「ハイになっている状態」。take twoは「2錠飲む(あるいは2倍やる)」。限界を超えていくライフスタイル。
That lookout like no one
あいつの見張りは誰にも真似できねぇ
※見張り=神の俯瞰的な視点、あるいはストリートのハッスルにおける見張り番。
Kept it real tight like your son (Your son)
あんたの息子みたいに、義理堅くやってるぜ
※Donda Westへのメッセージ。「あなたの息子(Kanye)のように、俺たちもしっかりやってる」というTravisからのシャウトアウト。
Yeah (La Flame)
Yeah(ラ・フレイム)
[Chorus: Kanye West & Donda West]
We gon' praise our way out the grave, dawg
俺たちは墓場から這い上がるために神を賛美するんだ、なぁ
Livin', speakin', praise God
生きて、語って、神をたたえる
Walkin' out the graveyard back to life
墓場を歩き抜けて、再び生命へと戻っていくんだ
I serve, follow your word, see with new sight, into the night
俺は仕え、あなたの言葉に従い、新たな視界で夜の中へと進む
[Verse 3: Baby Keem]
Still on side, huh, still outside
まだお前の側にいるぜ、まだ外にいるぜ
※ここからBaby Keemの伝説的なヴァース。still outsideは「まだストリート(最前線)でハッスルしている、引きこもっていない」という意味のAAVE。コロナ禍のロックダウン明けの解放感も含む。
****, attention, still outside, huh, still outside
ビッチども、注目しろ、俺はまだ外にいるぜ、まだ外にな
Tame Imp—, Tame Impala, ****
テーム・インパ、テーム・インパラだぜ、クソが
※Tame Impala(豪州のサイケデリック音楽プロジェクト)の名前を唐突に叫ぶKeemの変態的フロウ。Tame Impalaのようにジャンルを超越した浮遊感と狂気を自分が持っているというフレックス。
Tame Impala, stay outside, huh
テーム・インパラ、外に居続けろよ
And I'm still outside, I'm still outside, still outside, huh
俺はまだ外にいる、まだストリートにいるんだよ
Let's get right, huh, let's get right, uh, let's get right, uh, huh
さあ、正しくやろうぜ
※let's get rightは「調子を合わせる」「シラフに戻る(あるいはキメる)」「正しい状態に持っていく」のスラング。
Let's get right, let's get (Ayy, ayy, ayy), let's get right
正しくやろうぜ、さあ(Ayy, ayy, ayy)
Let's get (Ayy, ayy, ayy), let's get—
さあ(Ayy, ayy, ayy)、さあ—
Look at new scenes, I opened my life, I'm subject to memes
新しい景色を見てみろよ。自分の人生を切り開いたら、ミームの標的にされちまった
※Baby Keemの独特の高い声やフロウがTikTokやTwitterでミーム(おもちゃ)にされたことへの言及。しかし彼はそれを逆手にとって成功を収めている。
I signed a few ****, I polished their dreams
何人かのクソ野郎どもと契約して、あいつらの夢を磨いてやったんだ
※Kendrick Lamarと共にpgLangを立ち上げ、プロデューサーやレーベル幹部としても動いている彼のビジネスマンとしての側面。
An angel on earth, come under my wing
俺は地上に舞い降りた天使さ、俺の翼の下に入りな
※wing(翼=レーベルの庇護)とangelを掛けた見事な表現。
Stop runnin' your publishers, ****
出版者を操作するのはやめな、クソ野郎
※音楽の版権(パブリッシング)でアーティストを搾取する業界のシステムへの批判。Kanyeの長年の主張と完全に一致している。
They publish the headlines and say the wrong things
奴らは見出しをでっち上げて、間違ったことばかり書き立てる
※メディアのフェイクニュースや偏向報道への怒り。
Y'all treat your Lord and Savior like renters' insurance, you know what I mean?
お前ら、自分の主であり救い主を、まるで「賃貸保険」みたいに扱ってるだろ。俺の言ってる意味分かるか?
※【Geniusで絶賛されたパンチライン】「普段は神のことなど忘れているのに、いざトラブル(火事や事故=人生の危機)が起きた時だけ保険金目当てのように神にすがる」という、現代人の都合の良い薄っぺらい信仰心を「賃貸保険(renters' insurance)」に例えた圧倒的なメタファー。
Bada the bada the boom, I bada the boom, I bada the bing
バダ・ザ・バダ・ザ・ブーン、バダ・ブーン、バダ・ビン
※マフィア映画で銃撃や物事がトントン拍子に進むことを表すイタリア系アメリカ人のスラング「Bada bing, bada boom」。Keemの不規則でバウンシーなフロウが炸裂する。
I need a new girl, my old one was mean
新しい女が必要だ、前の女は性格が悪かったからな
I had to let go, forgave all them evils that came to my shows
手放すしかなかったんだ。俺のライブに来た悪魔どもは全員許してやったよ
※過去の人間関係や自分に群がる悪意(evils)への執着を捨て、キリスト教的な「赦し」を与えた状態。
I channeled them bad **** all in abode
悪いビッチどもは全員、俺の家に集めてやった
※channelは「導き入れる、霊を呼び寄せる」。abodeは「住居」。
I channeled your trust, I channeled the turbulence, came with the life
お前の信頼を導き入れ、人生に付き物の乱気流も受け入れてきた
I gathered my sinners and asked if I'm right, let's get
俺の周りの罪人たちを集めて、俺が正しいかどうか聞いてやったのさ、さあ行こうぜ
※イエス・キリストが罪人たち(徴税人や娼婦)と共に食事をした聖書のエピソードに自らを重ねている。
I just get right, ****, huh
俺はただ正しくやるだけだ、クソが
Let's get right, let's get right, let's get right, shh, shh
さあ、正しくやろうぜ、静かにしろ(shh, shh)
Ain't on sight, it's on sight
「オン・サイト(見つけ次第殺る)」じゃない、これは「オン・サイト」なんだよ
※ストリートのビーフ用語であるオン・サイト(見つけ次第攻撃する)を否定し、「神の新たな視界(sight)の中にいる」あるいは「確実に実行する」という意味でのオン・サイトであるという言葉遊び。
I don't know you, you, you, you, it's on sight
お前のことなんか知らねぇよ、見つけ次第やってやるぜ
I don't know you, you, you, you (Ayy, ayy), let's get right
お前のことなんか知らねぇ、気合入れようぜ
Ayy, all of my **** on Channel 5
Ayy、俺のダチはみんなチャンネル5に出てるぜ
※Channel 5は地元のニュース番組。逮捕されたり事件を起こしてニュースで報道されているストリートの仲間たち。
I don't channel ten 'til it go time
いざという時になるまで、俺は「10」の力は出さないぜ
※channel ten=チャンネルを10にする(最大出力、全力を出す)。テレビのチャンネル5との秀逸なワードプレイ。
Used to throw up my uncle's spaghetti
昔はよく、おじさんのスパゲッティを吐き出してたっけな
※【超重要メタファー】Eminemの歴史的名曲「Lose Yourself」の有名なライン("vomit on his sweater already, mom's spaghetti")のオマージュ。同時に、Keemの実際の従兄弟(uncleと表現されるほど年齢とキャリアが離れた身内)であるKendrick Lamarから与えられたプレッシャー(スパゲッティ=食い物/知識)が重すぎて吐き出していたという考察がRedditで支持されている。
Been told to tote since before I was ready
準備ができる前から、銃を持てって言われて育ったんだ
※toteは「銃を携帯する」。フッドの過酷な環境で、子供の時から身を守るために武装を強要された過去。
Back when my mama told me that I was challenged
母さんから「お前は発達障害だ」って言われた頃の話さ
※challenged(障がいがある、困難を抱えている)。学校の成績や素行の悪さからレッテルを貼られていた幼少期の苦悩。
A single Black woman, you know that she petty
黒人のシングルマザーさ、彼女が怒りっぽいのは分かるだろ
※一人で子供を育てる黒人女性の過酷さと、そこから来る愛情表現の不器用さへのリアルな理解。
I turned a heavy heart to two million dollars
俺はその「重い心(悲しみ)」を、200万ドルの札束に変えてやったのさ
※音楽を通じてトラウマを莫大な富に変換した(成功を掴んだ)ことの強烈なフレックス。
I put that in totals, reverse outta debty
それを全額注ぎ込んで、借金から逆転してやったぜ
※debtyはdebt(借金)をフロウに合わせて崩した造語。
I gotta, I gotta put on a rager one time
一度くらいは、特大のレイジャーをぶちかまさなきゃな
※客演のTravis Scottの代名詞「Rager(熱狂的なライブ、またはそのファン)」へのリスペクト。
I swung the powder, went major one time
粉を売り捌いて、一発デカく当てたんだ
※powder(コカイン)を捌いていたストリートのハッスラーとしての過去。
I know some white people servin' no time
何も刑期を食らってない白人どもを知ってるぜ
※同じ罪(ドラッグの密売など)を犯しても、白人は捕まらず黒人だけが刑務所にぶち込まれるというアメリカの司法制度の人種差別(Systemic racism)への鋭い批判。
I gotta do it for me, do it for, pray for me
俺は自分のためにやらなきゃならない、俺のために祈ってくれ
Do it for all the ones dyin'
死んでいったすべての奴らのためにやるんだ
I wanna do it for all the ones cryin'
泣いているすべての奴らのためにやりたいんだ
I wanna, uh, uh, uh, let's get right, huh
俺はやりたい、uh, uh, uh、さあ、正しく生きようぜ、huh
※ストリートの過酷さ、人種差別、喪失をすべて背負い込み、最終的に「Let's get right(正しく生きる/神の道へ進む)」へと帰結する完璧なクロージング。
