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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Like Him - Tyler, The Creator (feat. Lola Young) 【和訳・解説】

Artist: Tyler, The Creator (feat. Lola Young)

Album: CHROMAKOPIA

Song Title: Like Him

概要

本作は、タイラー・ザ・クリエイターのディスコグラフィにおいて、最も衝撃的かつ歴史的な意味を持つ極めて重要な楽曲だ。デビュー作『Bastard』から『Wolf』に至るまで、タイラーの音楽の根底には常に「自分を捨てた父親への激しい憎悪」があった。しかし本作のアウトロで、母親(ボニータ・スミス)の口から「父親が捨てたのではなく、若かった私が彼をあなたから遠ざけていた」という衝撃の真実が告白される。Reddit等のファンコミュニティでは「タイラーの10年以上のルーツが根底から覆された瞬間」として大激震が走った。ローラ・ヤングの痛切なボーカルと、クレジットなしで参加したベイビー・キームのコーラスが響く中、「自分は顔も知らない父親の幻影(ゴースト)を追っているのか?」「外見は似ていても、俺は彼のような人間なのか?」というアイデンティティの根幹を揺るがす葛藤が、魂を削るような美しさで描かれている。

和訳

[Intro]

Damn, nigga, every time I look at you, I swear to God
くそ、あんたを見るたびに、神に誓って思うよ。
※タイラーの母親、あるいは親族の女性のスポークンワード。息子の成長した姿を見て、不在の父親の面影を重ね合わせている。

Nigga, you got that nigga feet
あんた、あの男の足にそっくりだわ。

You got that nigga body
あの男の体つきを受け継いでる。

You got that nigga long arms, fingers and shit
あの長い腕も、指の形も、何から何まであいつと同じね。

Flat feet, big di—
扁平足で、デカいイチモ—
※di—=dick(ペニス)。言葉の途中で切れているが、身体的特徴だけでなく、そんなプライベートな部分まで遺伝しているというストリート的なユーモアと生々しさ。

[Verse 1: Tyler, The Creator]

She said that I make expressions like him
母さんは、俺の表情があの人(父親)に似てるって言うんだ。

My legs to my shoulders and my chin like him
脚から肩幅、それに顎の形まで彼に似てるって。

My waist and my posture like him
腰つきも、立ち姿(姿勢)も彼みたいだって。

Like him
彼みたいに。

Like him, like him, like him
彼みたいに、彼みたいに、彼みたいだってな。

[Chorus: Tyler, The Creator & Lola Young]

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊(ゴースト)を追いかけてる気分だよ。
※一度も会ったことのない父親を「実体のない幽霊」に例えている。

I don't know who he is
彼がどんな人間なのか、俺には分からないんだ。

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊を追いかけてるんだ。

I don't know where he is
彼が今どこにいるのかすら知らない。

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊を追いかけてる。

Do I look like him? (Like what?)
俺は彼に似てるのか?(何に似てるって?)

Like him (Like what?)
彼に似てるのか?(何に?)

Like him (Like what?)
彼に似てるのか?(何に?)

Like him (La-la-la-la)
彼に似てるのか?(ラ・ラ・ラ・ラ)

[Post-Chorus: Lola Young]

(La-la-la-la)
(ラ・ラ・ラ・ラ)
※イギリス出身のシンガーソングライター、Lola Youngのソウルフルなバックボーカルが、楽曲にゴスペルのような深い悲哀と美しさを与えている。

[Verse 2: Tyler, The Creator & Lola Young]

You gave me love and affection
母さんは俺に、愛と愛情を注いでくれた。

Attention (Go), protection
関心を向けて(行け)、俺を守ってくれた。

How could I ever miss somethin' (Go)
どうして俺が、何かを恋しく思う(欠乏感を感じる)ことなんてあるんだ?(行け)

That I'd never had?
一度も手にしたことがない(父親という)ものに対してさ。
※過去作の「Answer」や「Bastard」では父親の不在に対する怒りを露わにしていたが、ここでは「母さんが十分すぎるほどの愛をくれたから、父親がいなくても何も欠けていなかった」という、成熟した大人の視点に変化している。

I would nevеr judge ya
俺は絶対に母さんを責めたり(ジャッジしたり)しないよ。

'Cause evеrything worked out without him (Like what?)
だって、彼がいなくても全て上手くいった(俺は立派に成功した)んだからさ(何みたいに?)。

Like him (Like what?)
彼みたいに(何に?)

Like him (Huh?)
彼みたいに(ハッ?)

[Chorus: Tyler, The Creator & Baby Keem]

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊を追いかけてる気分だよ。
※このコーラス部分から、Kendrick Lamarの従兄弟であり気鋭のラッパー、Baby Keemがノンクレジットでバックボーカル(アドリブ)として参加している。彼の独特の高音が楽曲の不穏さと神聖さを際立たせている。

I don't know who he is
彼がどんな人間なのか、俺には分からないんだ。

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊を追いかけてるんだ。

I don't know where he is
彼が今どこにいるのかすら知らない。

Mama, I'm chasin' a ghost
母さん、俺は幽霊を追いかけてる。

Do I look
俺は似てるのか。

(Huh?)
(ハッ?)

[Post-Chorus: Lola Young]

Like him
彼に。

Like him
彼みたいに。

[Verse 3: Tyler, The Creator & Lola Young]

I decided to
俺は決めたんだ。

Anything that lives inside of you
母さんの中に生きている(隠されている)どんなことでも。

I would never ever lie to you (Yeah)
俺は絶対に母さんに嘘をつかない(イェー)。

You ain't ever gotta lie to me
だから、母さんも俺に嘘をつく必要はないんだよ。
※真実を隠し続けてきた母親に対し、優しく「本当のことを話してほしい」と促す切実なライン。

I'm everything that I've strived to be
俺は、自分が努力して目指した通りの人間(成功者)になった。

So do I look like him?
だから教えてくれ、俺は彼に似てるのか?

Do I look like him? (Like him, like him, like him, like him)
俺は彼に似てるのか?(彼に、彼に、彼に、彼に)

I don't look like him
いや、俺は彼には似ていないさ。
※外見などのDNAは遺伝していても、自らの力で運命を切り拓き、愛に囲まれて成功した自分の「内面や生き様」は、家族を置いていった父親(だと思っていた人物)とは違うという決別と自己肯定。

(Like him)
(彼みたいには)

[Outro]

It was my fault, not yours, not his, it was my fault, I'm sorry
私のせいだったの。あなたのせいでも、彼のせいでもない。全部私のせいなの、ごめんなさい。
※【重要】ここからタイラーの母親、ボニータ・スミスの肉声による、ヒップホップ史に残る衝撃的な告白が始まる。

You know
あのね。

It was my fault
私のせいだったのよ。

Not him, 'cause he always wanted to be there for you
彼のせいじゃない。だって彼は、いつだってあなたのそばにいたいと望んでいたんだから。

And I'm sorry I was young
私が若すぎたの、本当にごめんなさい。

But he's always wanted to be a father to you
でも、彼はいつだってあなたの「父親」になりたがっていたのよ。
※「タイラーの父親は家族を捨てて逃げたクズである」という、タイラー自身と世界中のファンが10年以上信じてきた大前提が、ここで完全に覆される。実は、母親が何らかの理由(若さや感情的なもつれ)で、父親をタイラーから引き離していたのだった。

So I, I fucked up and I take ownership of that
だから、私は、私がヘマをしたの。その責任は全て私が取るわ。

Of my choices and decisions
私の選択と、私の決断の責任をね。

And I'm sorry for that
本当に申し訳なかったわ。

He's a good guy
彼は良い人なのよ。
※長年、息子が自分の父親を公の場(楽曲)で激しく憎悪し、殺したいとまで歌うのを聞きながら、真実を言えずに罪悪感を抱えていた母親の計り知れない苦悩が滲み出ている。

So don't hold that against him, because it was my fault
だから、彼のことを恨まないであげて。全部私のせいだったんだから。

Just, you know, forgive me
ただ、その、私を許してちょうだい。
※この告白によって、過去作で父親に向けられていた「なぜ俺を捨てたんだ」という憎悪が空回りであったことが確定し、同時にタイラーがこの事実を受け入れ、母親を許し、作品として昇華したというアーティストとしての途方もない成熟が示されてアルバムのハイライトを飾る。