Artist: Tyler, The Creator (feat. Pharrell Williams)
Album: CALL ME IF YOU GET LOST
Song Title: MASSA
概要
本作は、タイラー・ザ・クリエイターのキャリアにおける精神的・音楽的な成熟を赤裸々に綴った自伝的な楽曲だ。タイトルの「MASSA」とは、黒人奴隷が主人(Master)を呼ぶ際の南部訛りである。タイラーは、自分を初期の過激なイメージ(『Goblin』期)に縛り付けようとするファンやメディア、そしてヒップホップ界の固定観念を「ご主人様(Massa)」に見立て、そこから逃れ真の自由を手に入れたことを歌っている。ファレル・ウィリアムスからの助言による『Cherry Bomb』での音楽的転換、大ヒット曲「Yonkers」リリース時に母親がホームレスシェルターにいたという衝撃の過去、そしてセクシュアリティに関する葛藤など、彼の人生の変遷がジャズテイストのビートの上で克明に描かれた、アルバム中盤の核心を突く一曲である。
和訳
[Intro: Tyler, The Creator]
Whatever your shit is, man, do it
お前のやりたいことが何であれ、やっちまいな。
※自身の欲望や情熱に従って生きることの重要性を説くイントロダクション。
Whatever bring you that immense joy, do that, that's your luxury
絶大な喜びをもたらしてくれるものがあるなら、それをやれ。それこそがお前だけの「ラグジュアリー」なんだ。
The greatest thing that ever happened to me was
俺の人生に起きた最高の出来事は、
Bein' damn near twenty and leavin' Los Angeles for the first time
20歳手前になって、初めてロサンゼルスを出たことだ。
I got out my bubble, my eyes just wide
自分の小さな世界(バブル)から抜け出して、ただただ目を丸くしたよ。
My passport is the most valuable—
俺のパスポートこそが、一番価値のある—
※地元のストリートにとどまらず、世界中を旅して視野を広げたことが人生のターニングポイントだったと語っている。
[Chorus: Tyler, The Creator]
Massa couldn't catch me, my legs long than a bitch
ご主人様(マサ)は俺を捕まえられなかった。俺の脚はクソ長えからな。
※Massa=奴隷の主人(Master)。周囲の期待や押し付けられるイメージ(奴隷制のような束縛)から、持ち前の行動力(長い脚)で逃げ切ったことを表す強烈なメタファー。
Got too much self-respect, I wash my hands 'fore I piss
自尊心が高すぎるんだ。俺はションベンをする前に手を洗うぜ。
※用を足した後ではなく「前に」手を洗うことで、自分の大事な部分(=自分自身)を汚い手で触らないほど自己を大切にしているというタイラーらしい表現。
They try to talk me—, ehm, I'ma just go
あいつらは俺を説得しようとするが—、ええと、俺はもう行くぜ。
[Verse 1: Tyler, The Creator]
Yeah, when I turned twenty-three, that's when pubеrty finally hit me
ああ、俺が23歳になった時、ついに思春期がやってきたんだ。
※23歳(2014年頃)はアルバム『Cherry Bomb』の制作期。音楽性や精神性が大きく変化し始めた時期を「遅れてきた思春期」と表現している。
My facial hair started growin', my clothing ain't really fit mе
ヒゲが生え始めて、着てた服がしっくりこなくなった。
That caterpillar went to cocoon, do you get me?
あの毛虫がサナギになったんだよ、分かるか?
See, I was shiftin', that's really why Cherry Bomb sounded so shifty
ほら、俺は変化(シフト)してたんだ。だから『Cherry Bomb』はあんなに変わり身が早かった(シフティだった)のさ。
※『Cherry Bomb』(2015年)はジャンルを横断する実験的で混沌としたアルバムだったが、それはタイラー自身の過渡期を反映していたためだと説明している。
My taste started changin' from what it was when they met me
俺の好みは、みんなが俺を知った頃から変わり始めてた。
But first impression is everything, ain't wanna let me go
でも第一印象ってのは絶対で、みんな俺を昔のイメージから手放そうとしなかった。
Always curious as a child and askin' questions, so
子供みたいにいつも好奇心旺盛で、質問ばっかりしてたから、
I ain't give no fucks, if, and, buts if they accept me
あいつらが俺を受け入れようが、「もし」とか「でも」とか言おうが、知ったこっちゃなかった。
Yo, my boy Skateboard P gave me that speech in Italy session, um
ヨォ、俺のダチのスケートボード・Pが、イタリアのセッションであのスピーチをしてくれたんだ、ええと。
※Skateboard P=タイラーの敬愛するファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)。イタリアでのレコーディング中に彼から音楽や人生に対する重要なアドバイスを受けた。
Thankfully, by hour three it detoured perspective, um
ありがたいことに、3時間後には俺の視点がガラリと変わったんだ。
Thoughts changed so rapid, turned to butterfly, Flower Boy happened
思考が超スピードで変化して、蝶になり、『Flower Boy』が生まれた。
※『Flower Boy』(2017年)はタイラーが内面やセクシュアリティを繊細に描き、批評的にも大絶賛された名盤。サナギから蝶への羽化(音楽的・精神的成熟)を意味する。
All the bees buzzed me, the bugs screamed they loved me
蜂たちが俺の周りを飛び回り、虫たちが「愛してる」と叫んだ。
※『Flower Boy』のテーマである蜂(Scum Fuck Flower Boyの象徴)と、新たなファン層の熱狂を描写している。
First time I private airlined, accolades, song got airtime
初めてプライベートジェットに乗り、賞賛を浴び、曲がラジオで流れた。
Grew into my style, body, and feelings, and fixed my hairline
自分のスタイル、身体、そして感情へと成長し、生え際も整えたぜ。
Calmed down in front of cameras, business hit tens of millions
カメラの前でも落ち着くようになって、ビジネスは数千万ドル(数十億円)規模になった。
I'm not that little boy y'all was introduced to at one-nine
俺はもう、お前らが19歳の時に出会った、あのガキじゃねえんだよ。
※19歳でリリースした初期の過激な代表曲「Yonkers」の頃の自分からの脱却宣言。
Mom was in the shelter when "Yonkers" dropped, I don't say it (I don't say it)
「Yonkers」が出た時、母さんはシェルター(保護施設)にいたんだ。今まで言わなかったけどな(言わなかったが)。
※タイラーが初めて明かした衝撃の事実。彼がブレイクしたまさにその瞬間、母親は家を失いホームレスシェルターにいたという過酷な過去。
When I got her out, that's the moment I knew I made it (Yeah, yeah)
母さんをそこから連れ出した時、俺は「成功した」って実感したんだ(イェー、イェー)。
I don't come from money, they deny it
俺は金持ちの家の出じゃないのに、連中はそれを否定する。
Since I don't mirror the stereotypical products of my environment
俺が、「過酷な環境が生み出すステレオタイプな黒人」の姿をしていないからさ。
※ギャングスタラップやストリートの典型的な振る舞いをしていないため、貧困層出身だと思われず「最初から裕福なスケーターキッズ」と誤解されていたことへの不満。
Eight figures in taxes taken, that shit is stupid
税金で8桁(数千万ドル)も持っていかれる、マジでバカげてるぜ。
A flower gets its petal, they pluck it, but never use it
花に花びらがついたら、奴らはそれをむしり取るくせに、決して使いやしねえ。
It's still potholes in the schools, where does it go?
学校にはまだ穴ぼこだらけだ、俺の税金は一体どこに消えてんだ?
It's still loopholes that I use, nobody knows
誰も知らない、俺が使ってる抜け穴(ループホール)はまだあるけどな。
※道路の穴(pothole)と税制の抜け穴(loophole)を掛けたワードプレイ。
[Chorus: Tyler, The Creator]
Massa couldn't catch me, my legs long than a bitch
ご主人様は俺を捕まえられなかった。俺の脚はクソ長えからな。
Got too much self-respect, I wash my hands 'fore I piss
自尊心が高すぎるんだ。俺はションベンをする前に手を洗うぜ。
They try to talk me up, but I keep short like Caesar
あいつらは俺を褒めそやそう(長く話そう)とするが、俺はシーザーみたいに短く(ショートに)しておくよ。
※シーザー(Caesar)=髪を短く刈り込むシーザーカットと、言葉を短く切ることを掛けている。
Eyes open if I pray 'cause I can't trust God either, uh
祈る時も目は開けたままだ、だって神様すら信用できねえからな、アー。
※無神論的で、自分自身の力だけを信じて生き抜いてきたタイラーのスタンス。
[Break: DJ Drama]
Seein' that we only get one life to live
俺たちの人生は一度きりだってことを分かった上で、
How far do you really wanna take it?
お前はどこまで行きたいんだ?
Don't let 'em ever tell you nothin' you can't do
「お前には無理だ」なんて、誰にも言わせるなよ。
[Verse 2: Tyler, The Creator]
Yeah, I purchase more wheels when I feel like I'm third-wheelin'
イェー、自分がサード・ホイール(お邪魔虫)だと感じた時は、さらに車(ホイール)を買ってやる。
※third wheel=カップルと一緒にいる邪魔な3人目のこと。恋の三角関係で阻害感を感じた時、富の力(高級車を買うこと)で気を紛らわせている。
My favorite part of the double R is the bird ceilin'
ダブルR(ロールスロイス)で一番気に入ってるのは、鳥の天井さ。
※ロールスロイスのオプションである星空の天井(スターライト・ヘッドライナー)を鳥の視点(高い場所)と表現している。
The panoramic view of the sky and the sun beamin'
空のパノラマビューと、ギラギラ光る太陽。
That ray of light show that nobody is front-seatin'
その光の筋が、助手席には誰もいないことを照らし出してるんだ。
※成功と引き換えに得た孤独。高級車に乗っていても隣に愛する人がいない虚しさを描いている。
I'm on the hunt for perfect but decent is what I been on
完璧な相手を探してるつもりだが、結局は「そこそこ(まとも)」な相手で落ち着いちまってる。
I know she fell in love, but commitment is not my end goal
彼女が恋に落ちたのは分かってるが、1つの関係に縛られる(コミットする)のは俺の最終目標じゃねえんだ。
And all my friends that did got too comfy, a little chubby
落ち着いた(結婚した)ダチはみんな、リラックスしすぎて少しぽっちゃりしちまったよ。
And that drive to make that money dried up when that nose was runny
鼻水垂らしてガムシャラだった頃の、金を稼ぐための「ドライブ(衝動)」も枯れ果てちまった。
We ain't gotta pay attention to the stuff that he battles
俺たちは、あいつが抱えてる戦い(葛藤)なんかに構ってる暇はねえ。
Everyone I ever loved had to be loved in the shadows
俺が愛した人はみんな、日陰(シャドウ)で愛さなきゃならなかったんだ。
※自身のセクシュアリティ(男性への愛)を公にできず、クローゼットの中で隠れて恋愛をしなければならなかった過去の痛切な告白。
Tug-of-war with X and Y felt like a custody battle
X(元カノ)とY(男)の間の綱引きは、まるで親権争いみたいだった。
※XとYは染色体(男女)の隠喩。バイセクシュアルとしての葛藤や、三角関係の泥沼を表現している。
Felt like the boat goin' down, it felt like I'm missin' a paddle
ボートが沈んでいくような、パドルを失くしちまったような気分だったぜ。
Might buy that crib in Seattle covered in grass, lackin' gravel (Yeah)
シアトルにある、砂利じゃなくて芝生に覆われたあの家を買うかもな(イェー)。
It come with two boats and cattle, I'm livin' sweet, ain't you heard? (Ain't you heard, nigga?)
ボート2隻と牛までついてくる。俺は甘い生活を送ってるんだ、聞いてないか?(聞いてねえのか?)
This perspective from the beak of a bird
これが鳥のクチバシ(高い場所)からの視点だ。
You hope I peak, you take my peace
お前らは俺がピーク(限界)を迎えるのを望み、俺のピース(平穏)を奪おうとする。
※beak(クチバシ)、peak(ピーク)、peace(平穏)で踏む見事なライム。
You gon' see me and run like thieves in the night
夜の泥棒みたいに、俺を見たら逃げ出すことになるぜ。
I'm paranoid, I sleep with a gun
俺はパラノイアだ、銃を持って寝てる。
The heat on my dungaroos because they beefin' for fun
遊び半分で揉め事(ビーフ)を起こす奴らがいるから、俺のダンガリー(デニム)には銃(ヒート)が隠してある。
※heat=銃。dungaroos=ダンガリーシャツやジーンズなどの衣服。
I'm vegan for now, I'm conscious, know my hands meet when I bow
今はヴィーガンだ、意識が高いんだよ。お辞儀する時に手を合わせる(合掌する)ことも知ってるぜ。
I'm grateful, you niggas hateful, you eat at me, you got a plate full
俺は感謝してるが、お前らはヘイトばかりだ。俺を食い物にして、皿をいっぱいにしてやがる。
You can't relate to these things I say to these instrumentals
俺がこのインストに乗せて言ってることなんて、お前らには共感できねえだろうな。
Whether it's wealth talk or shit that's painful
富(金持ち)の話であろうが、痛みを伴う話であろうがな。
I paint full pictures of my perspective on these drum breaks
俺はこのドラムブレイクの上に、俺の視点からの全景(フルピクチャー)を描き出してる。
Just for you to tell me it's not good from your lunch break
それなのに、お前らは昼休み(ランチブレイク)の暇つぶしに「良くない」なんてコメントしてくるんだからな。
※drum breaks(ドラムのビート)とlunch break(昼休み)を掛けたワードプレイ。命を削って作った作品を、ネット上のヘイターが昼休みの片手間に批判することへの痛烈な皮肉。
[Outro: DJ Drama]
Holiday season
ホリデー・シーズンだ。
A vision you have to understand from perspective
正しい視点から理解しなきゃいけないビジョンがある。
Check your resources, nigga
お前のリソース(情報源や価値観)を確かめ直すんだな。
