Artist: Kanye West (feat. PARTYNEXTDOOR, 070 Shake & Kid Cudi)
Album: ye
Song Title: Ghost Town
概要
2018年発表のアルバム『ye』のハイライトであり、カニエ・ウェストのキャリア後期を代表する傑作である。タイトルの「Ghost Town」は、キリスト教における天国と地獄の中間地点「辺獄(リンボ)」を暗示しており、BLM運動やトランプ大統領支持表明による社会的分断の渦中において、人々が会話を交わしつつも本音で繋がれていない孤独な世界を表現している。
1960年代のゴスペルシンガーShirley Ann Leeの歌声をサンプリングした祈りのようなイントロから始まり、PARTYNEXTDOOR、Kid Cudi、カニエ、そして070 Shakeへとマイクがリレーされる。本作は、オピオイド依存による精神の麻痺や世間からの猛烈なバッシングという地獄のような痛みを経て、無垢な子供のような純粋さと生きている実感を取り戻す過酷な旅路を描いている。「ストーブに手を置いて痛みを確かめる」という衝撃的なアウトロは、感覚の麻痺と真の自由への到達を見事に言語化しており、エモーショナルなロックサウンドと共にリスナーの魂を揺さぶる記念碑的な一曲である。
和訳
[Intro: Shirley Ann Lee]
Someday, someday
いつの日か、いつの日か。
Someday, I, I wanna wear a starry crown
いつの日か、星を散りばめた王冠を被りたい。
※Shirley Ann Leeの楽曲「Someday」からのサンプリング。新約聖書『ヨハネの黙示録』12章(一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた)を引用し、天国での救済を願う祈りを象徴している。
[Verse 1: PARTYNEXTDOOR]
Someday, someday, someday
いつの日か、いつの日か、いつの日か。
I wanna lay down, like God did, on Sunday
神が日曜日にしたように、俺も横になって休みたいんだ。
※『創世記』1章における天地創造の記述(神は6日間で世界を創り、7日目に休まれた)に基づく。カニエ(神)が数々の作品(世界)を創造した後、ワイオミングの山奥に籠もって休息をとる姿と重ね合わせている。
Hold up, hold up
ちょっと待て、耐え続けるんだ。
Some days, some days, I remember things on some days
来たるいつの日か、来たる日曜日にきっと思い出すだろう。
※辛い現状にあっても、安らぎと共に希望を持ち続けるという意志の表れ。
Back way, yeah, way, way
帰途について、その道で、激しく燃え上がるんだ。
Better days, mm, mm
もっと良かった日々のことを、mm, mm。
Uh, some day
Uh、いつの日か。
I wanna tell everybody on Sundays
日曜日にみんなに伝えてやりたい。
I wanna hit the red dot on everybody
いつの日か、全員に狙い(赤い点)を定めてやるだろう。
※「hit the red dot(赤い点を向ける)」は、相手にレーザー銃のポインターを向けること、またはレコーダーの録音ボタンを押すことのダブルミーニング。周囲への攻撃的な衝動と、自分の声を全員に届けたいという欲求が混在している。
Someday, oh, oh, oh (Heatstroke)
いつの日か、oh, oh, oh (熱射病に)。
※脚光を浴びすぎ、激しく燃え尽きて熱射病(Heatstroke)になりそうな状態を指す。
Every day I live and die, I'm smokin' marijuana
毎日生きては死んで、マリファナを吸ってハイに生きる。
Every day I'm livin' high, I do whatever I wanna, oh, yeah
毎日をハイに生きるんだ、やりたい事をやって最高さ、oh, yeah。
※ハイになっているため、あえて呂律が回っていないようなボーカルデリバリーになっている。
[Chorus: Kid Cudi]
I've been tryin'
俺はずっと努力してきたんだ。
To make you love me
君に好いてもらおうと。
But everything I try
でも、俺がやろうとすることすべてが、
Just takes you further from me
君を俺から遠ざけるだけなんだ。
※Kid Cudiの痛切なボーカル。人間関係や世間からの理解を得ようともがけばもがくほど、結果的に孤立してしまうという悲痛な現実。カニエの当時のメディアや大衆との関係性に重なるラインである。
[Verse 2: Kanye West]
Someday, we gon' set it off
いつの日か、すべてを終わらせてやる(ブチ上げてやる)。
Someday, we gon' get this off
いつの日か、ここから解放されるんだ。
Baby, don't you bet it all
ベイビー、すべてを賭けたりするなよ。
On a pack of fentanyl
1パックのフェンタニルなんかに。
※フェンタニルはヘロインの50倍の強度を持つオピオイド系鎮痛剤。PrinceやLil Peepの死因ともなった。カニエ自身も入院中は1日2錠だったが、退院後に1日7錠を処方されるほどの重度の薬物依存に陥っていたことをTMZのインタビューで明かしている。
You might think they wrote you off
奴ら(医者や世間)がお前を見限り、潰したって思うかもしれないな。
※「君(you)」は鬱状態で沈み込んだ気分のカニエ自身を指している(wrote off=見限る)。
They gon' have to rope me off
奴らは俺をロープで縛りつけなきゃならなくなるぜ。
※「俺(me)」は躁状態で幸福感と無敵感を得たカニエを指す。「見限られる」状態と、制御不能で「隔離される(rope off)」状態の極端な対比。
Some day, the drama'll be gone
いつの日か、俺のドラマ(いざこざ)は忘れ去られるだろう。
※キム・カーダシアンとの私生活でのトラブルや、問題発言による炎上といった世間の騒ぎ(ドラマ)も、時間が経てば人々から忘れ去られるという達観。
And they'll play this song on and on
でも奴らはこの曲を何度も何度も流すんだ。
※世間の騒ぎが収まった後も、彼が残した「音楽」という遺産は永遠に再生され続け、人々はカニエの感情を思い出すという芸術家としての絶対的な自信。
Sometimes I take all the shine
時々、俺はすべての光(注目)を奪い取っちまう。
Talk like I drank all the wine
ワインを全部飲み干したかのように喚き散らすんだ。
※VMAでのテイラー・スウィフトやグラミー賞でのベックへの乱入など、他人の名声を奪ってまで脚光を浴びようとする過去の振る舞いを、酒に酔って喚く狂人のように自嘲している。
Years ahead, but way behind
何年も先を行ってるのに、遥かに劣ってもいるんだ。
※音楽的には、Travis Scott、Drake、The Weeknd、Juice WRLD、Post Maloneなど多くの後進に影響を与え時代を牽引したが、女性への態度や政治的見解(トランプ支持)、エゴの暴走など社会的な面では劣っていると評価される自己矛盾。
I'm on one, two, three, four, five
俺は1、2、3、4、5つの薬をキメてるぜ(5つのアルバムに取り組んでるぜ)。
※「on one」はドラッグや酒でキマっている、あるいは極端な行動に出ている状態を示すスラング。それを5まで数えることで、常軌を逸した異常なハイ状態であることを誇張している。同時に、2018年のワイオミング・セッションでカニエがプロデュースした5枚のアルバム(『KIDS SEE GHOSTS』『ye』『DAYTONA』『K.T.S.E.』『NASIR』)を表すダブルミーニングでもある。
No half-truths, just naked minds
半端な真実なんてねえ、ただむき出しの心だけだ。
※楽曲「Ye vs. the People」でも示された通り、タブーやイデオロギー、社会的習慣による分断を超え、人々が精神的なレベル(裸の心)で深く団結することを望んでいる。
Caught between space and time
空間と時間の間に囚われている。
This not what they had in mind
奴らが思い描いてたのとは違うだろうけどな。
But, maybe, some day
でも、もしかしたら、いつの日か。
※アインシュタインの特殊相対性理論への言及とも取れる、次元を超越した思考の表現。
[Chorus: Kid Cudi]
I've been tryin'
俺はずっと努力してきたんだ。
To make you love me
君に好いてもらおうと。
But everything I try
でも、俺がやろうとすることすべてが、
Just takes you further from me
君を俺から遠ざけるだけなんだ。
[Verse 3: 070 Shake]
Woah, once again, I am a child
Woah、私はもう一度、子供に戻るの。
※子供は純白、無知、自由の象徴。大人になるにつれて蓄積された経験や、自分自身の形成された世界から解放されることを意味する。
I let go, go
手放すわ、すべてを。
Of everything that I know, yeah
私が知っているすべてのことを、yeah。
Of everything that I know, yeah
私が知っているすべてのことを、yeah。
※他人の目、物質主義、固定観念、社会的構造などに囲まれた世界から脱却し、子供のように自由で型にはまらない発想を取り戻すという精神的解放の宣言。
[Outro: 070 Shake]
And nothing hurts anymore, I feel kinda free
もう何も私を傷つけない、なんだか自由になれた気がする。
※タイトルの「Ghost Town」は、キリスト教における「辺獄(リンボ)」(地獄と天国の中間)を意味する。世間の非難や苦痛に晒され続けた結果、痛みに麻痺し、何も感じなくなった状態(ゴースト)の比喩である。
We're still the kids we used to be, yeah, yeah
私たちはまだ、かつての子供のままなのさ、yeah, yeah。
I put my hand on a stove to see if I still bleed, yeah
ストーブに手を乗せるの、まだ血が出るか確かめるために、yeah。
※痛みに完全に麻痺していることの比喩。感覚が麻痺したゆえに、自分がまだ生きているか(血が出るか)を自傷行為によって確かめようとする衝撃的なメタファー。
And nothing hurts anymore, I feel kinda free
もう何も私を傷つけない、なんだか自由になれた気がする。
※ミニマルなギターリフから始まった楽曲は、ここで歪んだボーカル、聖歌隊のコーラス、重低音が重なり、力強く別世界のようなサウンドスケープへと発展していく。
We're still the kids we used to be, yeah, yeah
私たちはまだ、かつての子供のままなのさ、yeah, yeah。
※Ghost Town(本音を語れない分断された社会)であっても、希望を持てば人々の心が束縛から解き放たれ、魂で繋がった純粋な世界を作れるというメッセージ。
I put my hand on a stove to see if I still bleed, yeah
ストーブに手を乗せるの、まだ血が出るか確かめるために、yeah。
And nothing hurts anymore, I feel kinda free
もう何も私を傷つけない、なんだか自由になれた気がする。
We're still the kids we used to be, yeah, yeah
私たちはまだ、かつての子供のままなのさ、yeah, yeah。
※絶望の中にも希望を見出すこのコーラスは、喪失感や孤独を抱える人々の叫びを代弁し、逆境に立ち向かう力を与えるアンセムとなった。
I put my hand on a stove to see if I still bleed, yeah
ストーブに手を乗せるの、まだ血が出るか確かめるために、yeah。
And nothing hurts anymore, I feel kinda free
もう何も私を傷つけない、なんだか自由になれた気がする。
※カニエは後にこの曲について「遺産を残すことなんて気にしない。俺にとって最も大事なのは、今ここを生き、恋に落ち、痛みや喜びを感じている時なんだ」と語っており、その哲学がこのアウトロに完全に結実している。
