Artist: Kanye West
Album: ye
Song Title: I Thought About Killing You
概要
本作は2018年にリリースされたカニエ・ウェストの8作目のスタジオアルバム『ye』のオープニングトラックである。ワイオミング州のジャクソンホールで制作された同アルバムは、彼自身の双極性障害(躁うつ病)や世間からの猛烈なバッシングと正面から向き合った極めてパーソナルな作品だ。「君を殺すことを考えた」という衝撃的なスポークン・ワードで幕を開けるが、この「君」は特定の他者ではなく、カニエ自身の肥大化したエゴや、過去のペルソナに向けられた比喩であるという解釈が有力である。
「最も美しい思考は、常に最も暗い思考の隣にある」というフレーズが反復される通り、本作は人間の心の二面性や自己愛の異常性をテーマにしている。躁状態における無敵感(自己愛)と、うつ状態における希死念慮(自殺願望)のコントラストを赤裸々に描写しており、当時のカニエを取り巻いていた精神的な混乱を芸術へと昇華させている。ヒップホップにおけるメンタルヘルス描写の境界線を押し広げた、自己内省的かつダークな重要曲である。
和訳
[Intro: Francis and the Lights & Kanye West]
I know, I know, I know, I know, know
わかってる、わかってる…
I know, I know, I know, I know, know
わかってる、わかってる…
I, I know it, I know it
ああ、わかってるんだ。
[Spoken Word: Kanye West]
The most beautiful thoughts are always besides the darkest
一番美しい考えってのは、いつも一番暗い考えの隣にあるもんだ。
Today, I seriously thought about killing you
今日、マジで君を殺そうかと考えたんだ。
I contemplated, premeditated murder
熟考したよ、計画的な殺人をな。
And I think about killing myself
それに、自分のことも殺そうかと考える。
And I love myself way more than I love you, so…
俺は君を愛するより、自分のことのほうがずっと大好きだからな、つまり...
Today, I thought about killing you, premeditated murder
今日、君を殺そうかと考えた。計画的な殺人をな。
You'd only care enough to kill somebody you love
殺そうと思うほど気にかけるのは、愛してる相手だけだろ。
The most beautiful thoughts are always besides the darkest
一番美しい考えってのは、いつも一番暗い考えの隣にある。
(Mhm—mhm—mhm—mhm—mhmm)
(Mhm—mhm—mhm—mhm—mhmm)
Just say it out loud to see how it feels
どんな気分になるか、ただ声に出して言ってみるだけだ。
People say "don't say this, don't say that"
世間は「あれを言うな、これを言うな」ってうるせえけど。
Just say it out loud, just to see how it feels
ただ声に出して言ってみるんだ、どんな気分になるか試すためにな。
Weigh all the options, nothing's off the table
すべての選択肢を天秤にかける、除外するもんなんて何一つない。
Today, I thought about killing you, premeditated murder
今日、君を殺そうかと考えた、計画的な殺人を。
I think about killing myself
俺は自殺することも考えてる。
And I, I love myself way more than I love you
だって、俺は君を愛するよりも、自分のことがずっとずっと大好きだからな。
The most beautiful thoughts are always besides the darkest
一番美しい考えってのは、いつも一番暗い考えの隣にあるもんだ。
(Mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhmm)
(Mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhm—mhmm)
I think this is the part where I'm supposed to say somethin' good to compensate it so it doesn't come off bad
悪く聞こえないように、ここで何かいいことを言って埋め合わせなきゃいけない場面なんだろうな。
But sometimes I think really bad things
でも、たまに本当にヤバいことを考えちまうんだ。
Really, really, really bad things
マジで、本当に、めちゃくちゃヤバいことをな。
And I love myself way more than I love you
そして、俺は君より自分のことがはるかに大好きだ。
See, if I was tryin' to relate it to more people
ほら、もし大衆に共感してもらおうとするなら、
I'd probably say I'm struggling with loving myself
「自分を愛せなくて苦しんでる」とでも言うんだろうな。
Because that seems like a common theme
それがよくある定番のテーマみたいだからな。
But that's not the case here
でも、この曲はそうじゃねえ。
I love myself way more than I love you
俺は君を愛するよりも、自分のことが大好きなんだよ。
※双極性障害の「躁状態(過剰な自己愛・万能感)」と「うつ状態(希死念慮)」の極端な揺れ動きを表現している。一般的なアーティストが歌う「自己肯定感の低さ」とは異なり、カニエは「自分を愛しすぎているが故の狂気」を提示している。
And I think about killing myself
なのに、俺は自分を殺そうと考えてる。
So, best believe, I thought about killing you today
だから信じてくれ、今日俺は君を殺そうと考えたんだ。
Premeditated murder
計画的殺人ってやつをな。
[Verse: Kanye West]
I called up my loved ones, I called up my cousins
愛するやつらに電話した、いとこたちにも電話した。
I called up the Muslims, said I'm 'bout to go dumb
ムスリムのダチにも電話して「今から暴れるぜ」って伝えたんだ。
※「go dumb」は理性を失って暴れる、ワイルドに振る舞うことを意味するスラング。「the Muslims」は、カニエが過去に敬意を示してきたネーション・オブ・イスラム(ルイス・ファラカンなど)のコミュニティや知人を指していると推測される。何か重大な行動を起こす前に、身内に連絡を回している描写である。
Get so bright, it's no sun, get so loud, I hear none
眩しすぎて太陽も霞む、うるさすぎて何も聞こえねえ。
Screamed so loud, got no lungs, hurt so bad, I go numb
肺がなくなるほど叫びまくった、痛すぎて感覚がマヒしちまう。
Time to bring in the drums, that prra-pa-pa-pum
そろそろドラムの出番だ、prra-pa-pa-pumってな。
Set the NewTone on 'em, set the nuke off on 'em
あいつらにNewToneをセットして、核爆弾を落としてやるよ。
※「NewTone」はボーカルのピッチ補正ソフト(Auto-Tuneに似たもの)のこと。「nuke(核兵器)」を落とすという表現は、音楽業界や世間に物議を醸すような破壊的な作品(または発言)を投下することの暗喩である。
I need Coke with no rum, I taste coke on her tongue
ラム抜きのコークが要るな、彼女の舌からコカインの味がするぜ。
※「Coke」のダブルミーニング。前半はアルコールを抜いたコカ・コーラを意味するが、後半の「coke」はコカインを指しており、周囲のドラッグカルチャーを暗示している。
I don't joke with no one, they'll say "He died so young"
俺は誰ともジョークなんか交わさねえ、世間は「彼は若くして死んだ」って言うだろうな。
I done had a bad case of too many bad days
どん底の日々を死ぬほど経験してきた。
Got too many bad traits, used the floor for ashtrays
悪い癖が多すぎるんだ、床を灰皿代わりに使ったりな。
I don't do shit halfway, I'ma clear the cache
俺は中途半端なことはしねえ、キャッシュをクリアしてやるよ。
※「clear the cache」はPCやブラウザのキャッシュ(一時データ)を消去すること。過去の自分のイメージや不必要な思考を完全にリセットし、ゼロからやり直すという決意の表れである。
I'ma make my name last, put that on my last name
俺の名前を永遠に残す、俺の苗字にかけて誓うぜ。
It's a different type of rules that we obey
俺たちが従うルールは、次元が違うんだよ。
Ye, Ye, Ye season, nigga, we Old Bay
Ye、Ye、Yeのシーズンだぜ、俺たちはOld Bayみたいに欠かせねえ存在だ。
※「Old Bay」はアメリカで非常にポピュラーなシーフード用スパイスミックス。ヒップホップシーンにおいて、カニエ(Ye)の存在がいかに必要不可欠な「スパイス」であるかを誇張してアピールしている。
We was all born to die, nigga, DOA
俺たちはみんな死ぬために生まれたんだ、DOA(到着時死亡)だぜ。
※「DOA」はDead On Arrivalの略。人生そのものを「生まれた瞬間から死に向かっている」とするニヒリズム的な視点。
Niggas say they hero, mm, I don't see no cape
自分がヒーローだって抜かす奴らがいるが、マントなんか見えねえな。
Mm, I don't see no, mm, yeah, I don't see no, mm, mm
Mm, 何も見えねえよ、mm, yeah, 何も見えねえな、mm, mm
If I wasn't shinin' so hard, wouldn't be no shade
俺がこんなに輝いてなきゃ、影(ヘイター)もできないはずだろ。
※「shade」は文字通りの「影」と、スラングの「他者へのディス、陰口(throwing shade)」を掛けた言葉。カニエ自身の成功という強い光があるからこそ、濃い影(強烈なヘイト)が生まれるという自己正当化のライン。
Buckwheat-ass nigga, it's gon' be o-tay
バックウィートみたいなダサい野郎ども、「オッケー(o-tay)」になるぜ。
※「Buckwheat」はアメリカの古典的コメディ『ちびっこギャング(Our Gang)』に登場する黒人の少年キャラクター。発音に癖があり「Okay」を「O-tay」と言うのがお決まりのギャグ。ヘイターたちをコミカルに小馬鹿にしている。
Sorry, but I chose not to be no slave
悪いが、俺は奴隷にならない道を選んだんだ。
※アルバムリリース直前の2018年5月、カニエはTMZのインタビューで「400年続いた奴隷制は選択だったように聞こえる」と発言し、大炎上を引き起こした。このラインは世間の常識や業界の枠組みに従わない「自由な思考(Free thought)」を貫く自身のスタンスを改めて強調している。
Young nigga shit, nigga, we don't age
若い黒人のバイブスだ、俺たちは年なんて取らねえ。
I thought I was past my Deebo ways
ディーボみたいな振る舞いはもう卒業したと思ってたのにな。
※「Deebo(ディーボ)」は1995年の映画『Friday』に登場する恐ろしいガキ大将キャラクター。精神的に成長し、攻撃的な態度を改めたつもりだったが、結局は元のワイルドな性質に戻ってしまったことを示唆している。
Even when I went broke, I ain't break
一文無しになった時でさえ、俺の心は折れなかった。
※「broke(金がない)」と「break(心が折れる)」の言葉遊び。2016年にカニエが「5300万ドル(約60億円)の個人的な借金がある」とTwitterで公表した出来事を指している。
How you gon' hate? Nigga, we go way back
なんでヘイトできるんだ?俺たち昔からの仲だろ。
To when I had the braids and you had the wave cap
俺がブレイズで、お前がウェーブキャップを被ってた頃からのな。
※カニエがブレイドヘアだったキャリア初期(2000年代前半)からの旧知の仲であることを表現している。「wave cap」は黒人の髪型(ウェーブ)を作るために被るドゥーラグやキャップの一種。
Drop a pin for the fade and I'm on my way ASAP
殴り合いたいなら位置情報を送れよ、速攻で向かうからよ。
※「Drop a pin」はスマホのマップでピン(位置情報)を送ること。「fade」はスラングで「素手での喧嘩(catch a fade)」を意味する。
Don't get socked in the mouth, you know homie don't play that
口をぶん殴られないようにな、俺がそういうおふざけを許さないのは知ってるだろ。
Pay the fire marshal bill 'cause this shit done got way packed
消防署長に罰金を払っとけ、ここ(クラブ/会場)はとっくに定員オーバーだぜ。
※アメリカのクラブやライブ会場では、消防法に基づき消防署長(Fire Marshal)が厳格な定員チェックを行う。カニエの登場によって人が殺到し、定員を遥かに超えてしまうというスター性のボースト(自慢)である。
They wanna see me go ape (Ape, ape)
奴らは俺がブチギレて暴れるのを見たいのさ(Ape, ape)。
※「go ape」は猿のように暴れ回る、狂気じみた行動をとるという意味のスラング。メディアや大衆が、カニエの音楽そのものよりも、彼の奇行や暴言をエンタメとして消費しようとしている現状を皮肉っている。
All you gotta do is speak on Ye
お前らはただ「Ye」について語ればいいだけだ。
All you gotta do is speak on Ye
お前らはただ「Ye」の話題を出せばいいのさ。
Don't get your tooth chipped like Frito-Lay
フリトレーみたいに歯を欠けさせないように気をつけな。
※「Frito-Lay」はドリトスやチートスで有名なアメリカのスナック菓子メーカー。「chip(歯が欠ける)」と「chips(スナック菓子のチップス)」を掛けた秀逸なパンチライン。不用意にカニエ(Ye)の悪口を言えば、痛い目を見るぞという警告で締めくくられている。
