Artist: Eminem
Album: The Slim Shady LP
Song Title: Brain Damage
概要
エミネムが幼少期に経験した凄惨なイジメと、家庭内でのネグレクトや虐待というリアルなトラウマを、ブラックユーモアとカートゥーン的な暴力描写でコーティングしたストーリーテリングの傑作である。デトロイトの貧困層で育った白人の少年がいかにして狂気の人格「スリム・シェイディ」を生み出したのかを語る、いわばオリジン・ストーリー(起源)だ。バース2に実名で登場するいじめっ子「ディアンジェロ・ベイリー」から受けた暴行により、エミネムは実際に脳内出血を起こし数日間の昏睡状態に陥っている。なお、楽曲リリース後にベイリー本人が名誉毀損で訴訟を起こしたが、女性裁判官がラップ形式で判決文を読み上げて訴えを棄却したという、ヒップホップ史に残る伝説的な後日談を持つ一曲でもある。
和訳
[Intro: Doctor & Nurse]
Scalpel
メス。
Here
はい。
Sponge
スポンジ。
Here
はい。
Wait, he's convulsing, he's convulsing
待て、痙攣してるぞ、患者が痙攣してる。
Ahh
ああッ。
We're gonna have to shock him
電気ショックを与えるしかない。
Oh my God, oh my God
オーマイガー、なんてこと。
We're gonna have to shock him
電気ショックをやるぞ。
Oh my God
オーマイガー。
※病院の救命室あるいは精神科病棟での一幕。社会の底辺で瀕死の重傷を負った少年が、電気ショックによって「スリム・シェイディ」という怪物として蘇る様をホラー映画的手法で演出している。
[Verse 1]
These are the results of a thousand electric volts
これが1000ボルトの電流を浴びせた結果だ。
A neck with bolts
首にはボルトが刺さってる。
※フランケンシュタインの怪物への明確なリファレンス。周囲の暴力と環境によって人為的に生み出されたモンスターであることを示唆している。
Nurse, we're losin' him, check the pulse
ナース、脈が落ちてるぞ、心拍を確認しろ。
A kid who refused to respect adults
大人を敬うことを拒絶したガキ。
Wore spectacles with taped frames and a freckled nose
テープで補修したメガネをかけて、そばかすだらけの鼻をしてた。
A corny-lookin' white boy, scrawny and always ornery
ダサい見た目の白人のガキさ、ガリガリでいつも不機嫌だった。
'Cause I was always sick of brawny bullies pickin' on me
だって俺は、筋骨隆々のいじめっ子たちに標的にされるのにウンザリしてたからな。
And I might snap, one day just like that
そして俺はいつか、突然プッツンとキレちまうかもしれない。
I decided to strike back, and flatten every tire on the bike rack
反撃してやるって決めたんだ、駐輪場にある自転車のタイヤを全部パンクさせてやってな。
My first day in Junior High, this kid said
中学の初日、あるガキがこう言いやがった。
"It's you and I, three o'clock sharp, this afternoon you die"
「俺とお前だ。午後3時きっかりに、お前は死ぬぜ」
I looked at my watch, it was 1:20
俺は時計を見た、まだ1時20分だった。
"I already gave you my lunch money
「昼飯代ならもう渡しただろ。
What more do you want from me?"
これ以上俺から何を奪おうってんだ?」
He said, "Don't try to run from me, you'll just make it worse"
そいつは言った「逃げようとするなよ、余計にひどい目に遭うだけだぞ」
My palms were sweaty, and I started to shake at first
手のひらには嫌な汗をかいて、最初は震えが止まらなかった。
Somethin' told me, "Try to fake a stomach ache, it works"
だが心の声が囁いた「腹痛のフリをしろ、上手くいくぜ」ってな。
I screamed, "Ow, my appendix feel like they could burst
俺は叫んだ「痛え! 盲腸が破裂しそうだ!
Teacher, teacher, quick, I need a naked nurse"
先生、先生、早く! 裸のナースを呼んでくれ!」
※切羽詰まった状況下でも「裸のナース」を要求する、初期エミネムらしい不謹慎極まりないブラックジョーク。
"What's the matter?"
「どうしたんだね?」
"I don't know, my leg, it hurts"
「分かんねえ、足が、足が痛いんだよ」
"Leg? I thought you said it was your tummy"
「足? さっきはお腹だと言ってなかったか?」
"Oh, I mean it is, but I also got a bum knee"
「ああ、お腹も痛いけど、膝もぶっ壊れてんだよ」
※嘘を重ねすぎて設定が崩壊していく滑稽な描写。多音節韻(「tummy」と「bum knee」)の踏み方が見事である。
"Mr. Mathers, the fun and games are over
「マザーズ君、おふざけはそこまでだ。
And just for that stunt, you're gonna get some extra homework"
その茶番の罰として、追加の宿題を出させてもらうぞ」
"But don't you wanna give me after school detention?"
「でも、放課後の居残り(ディテンション)にしてくれないか?」
※放課後になるといじめっ子に待ち伏せされて殺されるため、必死に学校に残ろうとする悲痛かつコミカルな防衛策。
"Nah, that bully wants to beat your ass and I'ma let him"
「いや、あのいじめっ子がお前をぶちのめしたがってるからな、やらせてやろうと思ってね」
※大人(教師)がいかに子供のSOSに無関心で冷酷であるかを強烈に皮肉ったライン。被害妄想と誇張を交えつつ、社会システムへの不信感を煽っている。
[Chorus]
Brain damage, ever since the day I was born
脳波異常(ブレイン・ダメージ)。俺が生まれたあの日からずっと。
Drugs is what they used to say I was on
連中はいつも、俺がドラッグをキメてるんだって決めつけてきた。
They say I never knew which way I was goin'
俺が自分の進むべき道すら分かっちゃいないって言いやがる。
But everywhere I go, they keep playin' my song
だが俺がどこへ行こうと、あいつらは俺の曲を流し続けてるんだぜ。
※「頭がおかしい」「落ちこぼれだ」と自分を見下してきた社会に対して、世界的スターになった現在の状況を突きつける痛快なフックである。
Brain damage, ever since the day I was born
脳波異常(ブレイン・ダメージ)。俺が生まれたあの日からずっと。
Drugs is what they used to say I was on
連中はいつも、俺がドラッグをキメてるんだって決めつけてきた。
They say I never knew which way I was goin'
俺が自分の進むべき道すら分かっちゃいないって言いやがる。
But everywhere I go, they keep playin' my song
だが俺がどこへ行こうと、あいつらは俺の曲を流し続けてるんだぜ。
Brain damage
ブレイン・ダメージさ。
[Verse 2]
Way before my baby daughter Hailie
愛娘のヘイリーが生まれるずっと前の話だ。
I was harassed daily by this fat kid named DeAngelo Bailey
俺はディアンジェロ・ベイリーっていうデブのガキから毎日イジメられてた。
※概要でも触れた実在の加害者の実名投下。事実に基づく怒りをエンターテインメントに昇華させるエミネムの真骨頂。
An eighth grader who acted obnoxious, 'cause his father boxes
親父がボクシングをやってるってだけでデカい面をしてる、中学2年のクソガキさ。
So every day he'd shove me in the lockers
だからそいつは毎日、俺をロッカーに押し込んでたんだ。
One day he came in the bathroom while I was pissin'
ある日、俺がションベンをしてる時にあいつがトイレに入ってきて、
And had me in the position to beat me into submission
俺をボコボコにして服従させるための体勢に押さえ込みやがった。
He banged my head against the urinal 'til he broke my nose
俺の鼻の骨が折れるまで、小便器に頭を何度も叩きつけられた。
Soaked my clothes in blood, grabbed me and choked my throat
俺の服を血まみれにして、胸倉を掴んで首を絞め上げてきやがった。
I tried to plead and tell him we shouldn't beef
俺は必死に懇願したよ、揉め事はやめようぜってな。
But he just wouldn't leave
でもあいつは全く手を緩めようとしなかった。
He kept chokin' me and I couldn't breathe
あいつは首を絞め続けて、俺は息ができなくなった。
He looked at me and said, "You gonna die, honky"
あいつは俺を見下ろして言った「お前はここで死ぬんだよ、白豚(ホンキー)が」
※「honky」は白人を指す黒人スラングの蔑称。デトロイトの黒人優位のコミュニティにおいて、白人であるエミネムがいかにマイノリティとして迫害されていたかを示す生々しい描写。
The principal walked in and started helpin' him stomp me
そこへ校長が入ってきて、あいつと一緒に俺を踏みつけ始めたんだ。
※実際にはあり得ない誇張表現だが、学校側がいじめを黙認し、被害者である自分を助けてくれなかったという精神的な孤立感を「共犯者」として具現化している。
(What's going on in here?)
(ここで何が起きてるんだ?)
I made 'em think they beat me to death
俺は連中に「俺を殴り殺した」と思い込ませてやった。
Holdin' my breath for like five minutes before they finally left
奴らがやっと立ち去るまで、5分間くらい息を止めて死んだフリをしたのさ。
Then I got up and ran to the janitor's storage booth
それから起き上がって、用務員の用具室に駆け込んだ。
Kicked the door hinge loose and ripped out the four-inch screws
ドアの蝶番を蹴り飛ばして、4インチのネジを引き抜いてやった。
Grabbed some sharp objects, brooms and foreign tools
鋭利な刃物やほうき、見慣れない工具をひっ掴んだ。
This is for every time you took my orange juice
これは俺のオレンジジュースを奪った時の分だ。
Or stole my seat in the lunchroom and drank my chocolate milk
昼飯の席を横取りして、俺のチョコミルクを飲み干した時の分だ。
Every time you tipped my tray and it dropped and spilt
俺のトレイをひっくり返して、飯をぶち撒けやがった全ての仕打ちの分だ。
I'm gettin' you back, bully, now once and for good
お返ししてやるぜ、いじめっ子くんよ。今回でキッチリ終わらせてやる。
I cocked the broomstick back and swung hard as I could
俺はほうきの柄を振りかぶって、全力でフルスイングした。
And beat him over the head with it 'til I broke the wood
柄の木が真っ二つに折れるまで、そいつの頭をぶった叩いてやった。
Knocked him down, stood on his chest with one foot
奴をぶっ倒して、片足でそいつの胸ぐらを踏みつけてやったのさ。
※現実には意識を失って昏睡状態に陥ったエミネムだが、ラップの妄想世界の中では凄惨な復讐を遂げている。
Made it home later that same day
その日の遅く、なんとか家に帰り着いた。
Started readin' a comic, and suddenly everything became gray
アメコミを読み始めたら、突然視界が全部グレー(灰色)になったんだ。
I couldn't even see what I was tryin' to read
自分が読もうとしてる文字すら見えなくなっちまった。
I went deaf and my left ear started to bleed
耳も聞こえなくなって、左耳から血が流れ始めた。
※実際に受けた脳内出血(トラウマ)の深刻な後遺症の描写。
My mother started screamin', "What are you on, drugs?!
するとオカンが叫び始めた「あんた何やってんの、ドラッグでもキメたのか!?
Look at you, you're gettin' blood all over my rug" (I'm sorry)
自分の姿を見なさいよ、私のカーペットを血まみれにしてるじゃないか!」(ごめんなさい)
※瀕死の息子を心配するどころか、カーペットが汚れたことに激怒する母親。エミネムの楽曲におけるデビー(母)の典型的な毒親描写である。
She beat me over the head with the remote control
オカンはリモコンで俺の頭を殴りつけやがった。
Opened a hole and my whole brain fell out of my skull
頭蓋骨に穴が空いて、脳みそが丸ごと転げ落ちたんだ。
I picked it up and screamed, "Look, bitch, what have you done?"
俺はそれを拾い上げて叫んだ「見ろよビッチ、自分のしでかした事が分かんのか?」
"Oh my God, I'm sorry, son"
「オーマイガー、ごめんなさい、息子よ」
Shut up, you cunt
黙れ、クソアマが。
I said fuck it, took it and stuck it back up in my head
俺は「クソ食らえ」って吐き捨てて、脳みそを自分の頭の中に押し戻した。
Then I sewed it shut and put a couple of screws in my neck
そして傷口を縫い合わせて、自分の首にボルトを何本かぶち込んでやったのさ。
※曲の冒頭(イントロ)と繋がる完璧な伏線回収。周囲の無慈悲な暴力と狂った家庭環境によって「脳にダメージ(Brain Damage)」を負い、ついに自らの手で狂気の人格(怪物フランケンシュタイン=スリム・シェイディ)を完成させた瞬間を描き切っている。
[Chorus]
Brain damage, ever since the day I was born
脳波異常(ブレイン・ダメージ)。俺が生まれたあの日からずっと。
Drugs is what they used to say I was on
連中はいつも、俺がドラッグをキメてるんだって決めつけてきた。
They say I never knew which way I was goin'
俺が自分の進むべき道すら分かっちゃいないって言いやがる。
But everywhere I go, they keep playin' my song
だが俺がどこへ行こうと、あいつらは俺の曲を流し続けてるんだぜ。
Brain damage, ever since the day I was born
脳波異常(ブレイン・ダメージ)。俺が生まれたあの日からずっと。
Drugs is what they used to say I was on
連中はいつも、俺がドラッグをキメてるんだって決めつけてきた。
They say I never knew which way I was goin'
俺が自分の進むべき道すら分かっちゃいないって言いやがる。
But everywhere I go, they keep playin' my song
だが俺がどこへ行こうと、あいつらは俺の曲を流し続けてるんだぜ。
[Outro]
Brain damage, it's brain damage
ブレイン・ダメージ、俺の頭はイカれちまってる。
I got brain damage, it's brain damage
脳にダメージを受けてるんだ、ブレイン・ダメージさ。
It's probably brain damage, it's brain damage
たぶん脳の障害だ、ブレイン・ダメージ。
Brain damage, I got brain damage
ブレイン・ダメージ、俺の頭はイカれちまったのさ。
