Artist: Eminem
Album: The Slim Shady LP
Song Title: Public Service Announcement
概要
エミネムのメジャーデビューアルバム『The Slim Shady LP』(1999年)の冒頭を飾る、わずか33秒の象徴的なイントロダクション・スキットである。ヒップホップ界のみならず、アメリカ社会全体に衝撃を与えた「スリム・シェイディ」という猟奇的でシニカルな別人格(アルターエゴ)の世界へリスナーを引きずり込むための、秀逸なプロローグとして機能している。当時の保守層や親世代からの「ラップ音楽は子供に悪影響を与える」というヒステリックな批判を逆手に取り、テレビやラジオで流れる「公共広告(PSA)」のパロディ形式を採用。「靴紐を外せ」「家で真似するな」といった警告をちりばめつつ、最後に「ドラッグはやるな」と忠告しながら直後の楽曲『My Name Is』で盛大に裏切るという、エミネムらしい高度なブラックジョークと社会風刺が凝縮された歴史的スキットだ。
和訳
[Skit: Jeff Bass & Eminem]
This is a public service announcement
これは公共広告だ。
※アメリカのテレビやラジオで放送される啓発広告「PSA(Public Service Announcement)」のパロディ。プロデューサーのジェフ・ベースの真面目なアナウンサー調の声で始まることで、これから展開される過激な内容との強烈なギャップを生み出している。
Brought to you, in part, by Slim Shady (Tell them that the–)
一部、スリム・シェイディの提供でお送りするぜ。(アイツらに言ってやれ、その…)
※「スリム・シェイディ(Slim Shady)」は、エミネムの狂気的でダークな側面を体現した別人格。バックで不敵に茶々を入れているのがエミネム本人である。
The views and events expressed here are totally fucked (Yeah)
ここで表現されてる見解や出来事は完全にイカれてる。(ああ)
And are not necessarily the views of anyone
そして、必ずしも誰かの見解を代弁しているわけじゃない。
However, the events and suggestions that appear on this album
だが、このアルバムに登場する出来事や提案は、
Are not to be taken lightly (Tell them that–)
決して軽く受け流すべきじゃない。(言ってやれ、その…)
Children should not partake in the listening of this album
ガキ共はこのアルバムを聴くべきじゃないんだ。
With laces in their shoes (Tell them that–)
靴に靴紐を通したままではな。(アイツらに言ってやれ、その…)
※精神科病棟や刑務所において、患者や囚人が首を吊って自殺するのを防ぐために靴紐を没収する措置への痛烈なリファレンス。このアルバムの内容が精神に異常をきたすほど劇薬であるという、スリム・シェイディからのサイコパス的な警告である。
Slim Shady is not responsible for your actions (Let them know–)
お前らが何をしでかそうが、スリム・シェイディは一切責任を負わねえからな。(分からせてやれ…)
※当時、若者の犯罪や凄惨な事件が起こるたびに「暴力的な音楽のせいだ」と非難していたメディアやPTAに対する、事前防衛を装った痛烈なアンチテーゼである。
Upon purchasing this album
このアルバムを買った時点で、
You have agreed not to try this at home (Right)
家で真似しないってことに同意したことになる。(その通りだ)
A-anything else?
ほ、他に何かあるか?
Yeah, don't do drugs
ああ、ドラッグはやめとけよ。
※この直後に続く1曲目(実質的なリードシングル)の『My Name Is』が、ドラッグや暴力、過激なジョークのオンパレードであることを踏まえた、完璧なフリ(セットアップ)である。真面目な警告の最後に最大の皮肉を持ってくる、エミネムの卓越したユーモアセンスが光るオチだ。
