Artist: Kanye West
Album: Yeezus
Song Title: I'm in It
概要
2013年の問題作『Yeezus』の中で最も過激で性的なトラックである本作は、ダンスホール・レゲエのAssassin(Agent Sasco)と、Bon IverのJustin Vernonという全く異質の客演を迎え、インダストリアルなサウンドの上でカニエのセックス中毒や内なる悪魔との闘いを描き出している。キング牧師の演説や黒人解放運動の象徴的なポーズを、極めて卑猥な文脈で引用する不謹慎極まりないラインの数々は、社会のタブーや倫理観を意図的に踏みにじる『Yeezus』の破壊的なコンセプトを体現している。しかし後半のヴァースでは、妻子を持ちながらも狂騒的な夜の世界から抜け出せないパラノイアや、時代精神(ツァイトガイスト)を牽引する孤独な「神(指導者)」としての重圧と恐怖が吐露され、単なるエロティシズムを超えたカニエの狂気と人間的な脆さが浮き彫りになる一曲である。
和訳
[Verse 1: Kanye West]
Damn, your lips very soft
クソッ、お前の唇、超柔らかいな。
As I turn my Blackberry off
俺のBlackberry(スマホ)の電源を切る。
And I turn your bathwater on
そしてお前の風呂の湯を出す。
And you turn off your iPhone
お前はiPhoneの電源を切る。
Careless whispers, eye fuckin', bitin' ass
意味深な囁き、視線で犯し、ケツを噛む。
Neck, ears, hair, legs, eating ass
首、耳、髪、脚、そしてケツを舐める。
Your pussy's too good, I need to crash
お前のプッシーが良すぎて、ぶっ倒れそうだ。
Your titties, let 'em out, free at last
お前のオッパイ、外に出しな、「ついに自由だ(フリー・アット・ラスト)」。
Thank God almighty, they free at last
全能の神に感謝を、あいつらはついに解放された!
※マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの歴史的演説「I Have a Dream」の有名な一節「Free at last! Thank God Almighty, we are free at last!」を、ブラジャーから解放された女性の胸に例えるという、極めて不謹慎で冒涜的なパンチライン。
We was up at the party but we was leavin' fast
パーティーにいたが、俺たちはすぐに抜け出した。
Had to stop at 7-Eleven like I needed gas
ガソリンが必要なフリして、セブンイレブンに寄らなきゃならなかった。
I'm lyin', I needed condoms, don't look through the glass
嘘だ、コンドームが必要だったんだ。ガラス越しに中を覗くんじゃねえぞ。
Chasin' love, all the bittersweet hours lost
愛を追い求め、甘酸っぱい時間をすべて失っちまった。
Eatin' Asian pussy, all I need was sweet and sour sauce
アジア人のプッシーを食う、必要なのはスウィート&サワー・ソースだけだ。
※中華料理でお馴染みの「甘酢ソース(sweet and sour sauce)」とクンニリングスを掛けた、露骨なステレオタイプと性描写。
Tell your boss you need an extra hour off
ボスに「もう1時間休みが必要だ」って伝えな。
Get you super wet after we turn the shower off
シャワーを止めた後も、お前を最高に濡らしてやるからよ。
[Bridge: Assassin]
That's all dem can do (Say wah? Say wah? Say wah? Say wah?)
奴らにできるのはそれだけさ。(何だって?何だって?)
That's all dem can do
奴らにはそれしかできない。
We deal with action ting
俺たちは行動(アクション)で示すんだ。
※客演のジャマイカ人アーティストAssassinによるパトワ語(ジャマイカ・クレオール語)のヴァース。「ting」はthingを意味する。
'Cause a badman ting a-dat man do
それがバッドマン(ギャング/タフガイ)のやり方だからな。
Action ting, yo, a badman ting
行動で示す、それがバッドマンのやり方さ。
[Verse 2: Assassin]
I'm a badman if you know say
お前も知っての通り、俺はバッドマンだ。
Disrespect we no tek, no way José
俺たちはディスを絶対に許さない、あり得ないね。
※「no way José」は「絶対にダメだ」を意味する、英語の韻を踏んだ定番フレーズ。
Try that 'pon February the 30th
試してみるなら、2月30日にしな。
That's right, couldn't try that no day
そうさ、そんな日(お前らが俺たちに手を出せる日)は一生来ないってことだ。
When we roll 'round 'pon your block
俺らがお前らのブロック(縄張り)を車で流す時。
Nuh badda feel seh we won't spray, like a aerosol can
俺たちが(弾を)バラまかないなんて思うなよ、エアゾール缶(スプレー)みたいにな。
When we roll 'round 'pon your block
お前らのブロックを流す時。
Nuh badda feel seh we won't spray, like an aerosol can
俺たちがスプレーみたいに銃弾をバラまかないなんて思うな。
We a gon' smile 'pon court day
裁判の日には、俺らは笑顔を見せてやるよ。
Cuh we beat murder charge like O.J
だってO.J.(シンプソン)みたいに、殺人罪でも無罪(ビート)を勝ち取るからな。
※1994年のO.J.シンプソン事件で、彼が殺人罪に問われながらも無罪評決を得た事実を引用し、ギャングの法に対する無敵ぶりを誇示している。
[Chorus: Kanye West & Justin Vernon]
That's right, I'm in it (Should've known how to fall)
その通り、俺は今そのど真ん中にいる(ハマってる)。(上手な落ち方を知っておくべきだった)
※I'm in it=性行為の最中であることと、トラブルや狂気的なライフスタイルの「真っ只中にいる」ことのダブルミーニング。Bon IverのJustin Vernonによるボーカルが内省的な後悔を添える。
I'm in it (Slippin' on cracks on the floor)
俺はど真ん中にいる。(床のひび割れで足を滑らせる)
That's right (8 a.m., boy, set your tone)
その通りだ。(朝の8時だぜ、ボーイ、調子を整えろ)
That's right, I'm in it (Well, you need to fight for your own)
その通り、俺はハマってる。(まあ、自分のものは自分で守らなきゃな)
That's right, I'm in it (Then don't let me at your table)
その通り、俺はハマってる。(なら、俺をあんたのテーブルにつかせないでくれ)
I'm in it (If you just gonna lay with me)
俺はその真っ只中にいる。(ただ俺と寝るだけなら)
That's right, uh (Just jokes at the end of your little fables)
その通りだ、アー。(あんたのちっぽけなおとぎ話の結末は、ただのジョークだ)
(I'll be gone long, grab that ass, shed your clothes)
(俺はずっと遠くへ行く、そのケツを掴んで、服を脱ぎ捨てな)
[Verse 3: Kanye West]
Uh, picked up where we left off
アー、俺たちが中断したところから再開しよう。
Uh, I need you home when I get off
アー、俺が仕事から帰る時には家にいてほしい。
Uh, you know I need that wet mouth
アー、あの濡れた口が必要だって分かってるだろ。
Uh, I know you need that reptile
アー、お前がこの爬虫類(レプタイル)を求めてるのも分かってる。
※reptile=ヘビ、転じて男性器のメタファー。
Uh, she cut from a different textile
アー、彼女は他の女とは違う生地(テキスタイル)でできてる。
※「cut from a different cloth(別格だ、毛色が違う)」という慣用句をファッションに精通するカニエらしく表現。
Uh, she love different kinds of sex now
アー、彼女は今じゃいろんな種類のセックスが好きなんだ。
Uh, black girl sippin' white wine
アー、白ワインをすする黒人の女。
Put my fist in her like a civil rights sign
公民権運動のサインみたいに、俺の拳(フィスト)を彼女に突っ込む。
※1968年のメキシコ五輪で黒人選手が行った「ブラックパワー・サリュート(拳を高く突き上げる抗議のポーズ)」と、「フィストファック(fisting)」という過激な性行為を掛け合わせた、倫理の境界を踏み越える本作最大の問題ライン。
And grabbed it with a slight grind
そして軽く腰をグラインドさせながら、それを掴んだ。
And held it 'til the right time
絶好のタイミングまでそのままキープして。
Then she came like, "Ah"
そして彼女はイッたんだ、「アー」ってな。
[Chorus: Assassin, Kanye West, & Justin Vernon]
That's why I'm in it and I can't get out
だから俺はこの沼にハマって、抜け出せないんだ。
That's all dem can do (Say wah? Say wah? Say wah?)
奴らにできるのはそれだけさ。(何だって?)
That's why I'm in it and I can't get out
だから俺はど真ん中にいて、抜け出せない。
That's all dem can do
奴らにはそれしかできない。
We deal with action ting
俺たちは行動(アクション)で示すんだ。
'Cause a badman ting a-dat man do
それがバッドマンのやり方だからな。
That's right, I'm in it
その通り、俺は真っ只中にいる。
I'll be gone long, grab that ass, shed your clothes
俺はずっと遠くへ行く、そのケツを掴んで、服を脱ぎ捨てな。
[Bridge: Justin Vernon]
Say you long for me, for you
俺を、お前を待ち焦がれていると言ってくれ。
Lay it off with all your rules
あんたのルールなんて全部忘れて。
Star fucker
スター・ファッカー(有名人食い)。
Star fucker
スター・ファッカー。
Star fucker
スター・ファッカー。
Who, where?
誰が、どこで?
[Verse 4: Kanye West]
Time to take it too far now
さあ、そろそろ「やりすぎる(一線を超える)」時間だ。
Uh, Michael Douglas out the car now
アー、マイケル・ダグラスみたいに車を降りるぜ。
※1993年の映画『フォーリング・ダウン』で、マイケル・ダグラス演じる平凡な男が渋滞に耐えかねて車を乗り捨て、狂気に満ちた暴力へと走る象徴的なシーンからの引用。カニエ自身の精神の限界と暴走を暗示している。
Uh, got the kids-and-the-wife life
アー、子供と妻がいる生活を手に入れたのに。
Uh, but can't wake up from the nightlife
アー、ナイトライフ(夜の狂騒)から目を覚ますことができねえ。
※当時のパートナーであるキム・カーダシアンと娘ノースとの家庭生活と、ロックスターとしての破滅的な生き方の間での深い葛藤。
Uh, I'm so scared of my demons
アー、俺は自分の内なる悪魔(精神的苦痛)が怖くてたまらないんだ。
Uh, I go to sleep with a nightlight
アー、だから俺は常夜灯(ナイトライト)をつけて眠るのさ。
※前段までの強気で過激な態度から一転、暗闇を恐れて電気を消せないという、カニエの極めて人間的で脆い一面が露呈する。
Uh, my mind move like a Tron bike
アー、俺の頭の中は『トロン』のバイクみたいに高速で動いてる。
※映画『トロン』の光を放って疾走するライトサイクルのように、カニエの思考(または双極性障害の躁状態)が超高速で駆け巡っている状態。
Uh, pop a wheelie on the Zeitgeist
アー、時代精神(ツァイトガイスト)の上でウィリーを決めてやるよ。
※Zeitgeist(時代精神=その時代を支配する思想や空気)を自らが乗りこなし、さらに前輪を浮かす(ウィリーする)ような危険で派手なスタントを見せつけるという、彼のアートへの自負心。
Uh, I'm finna start a new movement
アー、俺は新しいムーブメントを始めるつもりだ。
Uh, being led by the drums, uh
アー、このドラムの音に導かれながらな。
Uh, I'm a rap-lic priest
アー、俺はラップ・リック教の神父だ。
※Catholic priest(カトリックの神父)をもじった造語「Rap-lic priest」。ラップ界の宗教的指導者を自称している。
Uh, gettin' head by the nuns
アー、修道女(ナン)たちにフェラ(ヘッド)をしてもらってる。
Uh, they don't play what I'm playin'
アー、あいつらは俺がプレイしてるような音を鳴らせない。
Uh, they don't see what I'm sayin'
アー、あいつらは俺の言ってること(ヴィジョン)を理解できない。
Uh, they be ballin' in the D-League
アー、あいつらはせいぜいDリーグ(マイナーリーグ)でプレイしてるレベルさ。
※D-LeagueはNBAの下部組織(現在のGリーグ)。他のラッパーたちを下に見ている。
Uh, I be speakin' Swaghili
アー、俺が話してるのはスワギリ語(Swaghili)だからな。
※Swahili(スワヒリ語)とSwag(スワッグ/イケてるスタイル)を掛けた造語。カニエのセンスが常人には理解不能な別次元の言語体系に到達しているというフレックスで締めくくられる。
