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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

The Trial - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: The Wall

Song Title: The Trial

概要

1979年の歴史的ロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』のクライマックスを飾る、狂気と演劇性が極限まで高められた壮大な楽曲である。精神の牢獄に引きこもった主人公「ピンク」の心の中で開かれる法廷劇であり、ロジャー・ウォーターズが検察官、教師、妻、母、そして裁判長たる「ウジムシ」のすべての役柄を異なる声色で演じ分けている。マイケル・ケイメンによるブレヒト劇やクルト・ヴァイルを彷彿とさせるオーケストレーションが、現実と妄想の境界線を完全に融解させている。自らの人間性(感情)を罪として裁かれた結果、彼に下された最も恐ろしい刑罰が「壁の破壊(外界への曝露)」であるという結末は、自己疎外に対するフロイド流の痛烈にして哲学的なアンチテーゼとして、ロック史にその名を刻んでいる。

和訳

[Intro]

[Verse 1: Prosecutor]
Good morning, Worm, your honour
おはようございます、裁判長たる「ウジムシ」殿。
※「ウジムシ(Worm)」は、アルバム後半においてピンクの精神を侵食し、ファシスト的狂気へと駆り立てた腐敗の象徴である。ここでは、彼の心の内側に巣食う最も絶対的な権威(あるいは彼自身の自己嫌悪の権化)として裁判長を務めている。

The crown will plainly show the prisoner
検察側は、この囚人がしでかした明白な事実を示してみせましょう。

Who now stands before you
今、あなた様の前に立っているこの男が。

Was caught red-handed, showing feelings
感情を露わにするという現行犯で取り押さえられたことを。

Showing feelings of an almost human nature
ほとんど「人間らしさ」に近い感情を示してしまったことを。
※冷徹な「壁」の中に引きこもり、感情を麻痺(Comfortably Numb)させていたはずのピンクが、前曲「Stop」で人間的な自責の念(罪悪感)に駆られてしまった。法廷では、この「人間らしい感情を持つこと」自体が許されざる罪として断罪される。

This will not do
このようなことは、決して許されるべきではありません。

Call the schoolmaster!
教師を証人喚問せよ!

[Verse 2: The Schoolmaster]
I always said he'd come to no good in the end, your honour
私はいつも言っておりました、こいつは結局ろくなものにならないと、裁判長殿。

If they'd let me have my way, I could have flayed him into shape
もし私のやり方が許されていたなら、こいつの皮を剥いででも真っ当な人間に叩き直してやれたものを。
※「The Happiest Days Of Our Lives」で登場した抑圧的な教師の再登場。公教育が個人の感性を暴力的に型にはめ込もうとしていたことの証左である。

But my hands were tied, the bleeding hearts and artists
しかし、私の手は縛られておりました。あの過剰に同情的な偽善者どもや、芸術家気取りの連中のせいで。
※「bleeding heart」は度を越した同情心を揶揄する言葉。リベラルな教育方針に対する権威主義者の苛立ち。

Let him get away with murder, let me hammer him today
こいつの好き勝手な振る舞いを見逃してしまったのです。どうか今日こそ、私にこいつをハンマーで叩き潰させてください。

[Chorus: Pink (and Choir)]
Crazy, toys in the attic, I am crazy
狂っている。屋根裏部屋のオモチャたち。俺は狂っているんだ。
※「toys in the attic(屋根裏部屋のオモチャ)」は頭がおかしくなっていることを意味するスラング。追いつめられたピンクの自我の悲鳴である。

Truly gone fishing
完全にどこかへ行ってしまった。
※「gone fishing」も現実逃避や正気を失っている状態を指す慣用句。

They must have taken my marbles away!
奴らが俺のビー玉(正気)を奪い去ってしまったに違いない!
※「lose one's marbles」で発狂するという意味。子供時代の象徴であるビー玉と掛け合わせている。

(Crazy, toys in the attic, he is crazy)
(狂っている、屋根裏部屋のオモチャ、こいつは狂っている)

[Verse 3: Wife]
You little shit, you're in it now, I hope they throw away the key
このクソ野郎、ついに捕まったわね。牢屋の鍵なんか捨てられて、一生出られないといいわ。

You should have talked to me more often than you did, but no!
もっと私と話し合うべきだったのに、あなたはそうしなかった!
※ピンクを裏切った妻の登場。彼女の不倫は壁を塞ぐ決定的な要因であったが、同時にピンク自身のコミュニケーションの拒絶が破綻の原因であったことも突きつけられる。

You had to go your own way
あなたは、自分勝手な道を行くしかなかったのよ。

Have you broken any homes up lately?
最近は、どこかの家庭を壊したりしたの?
※「One of My Turns」等でのピンクの暴力性や、グルーピーとの乱行に対する冷ややかな皮肉。

Just five minutes, Worm, your honour, him and me, alone
ほんの5分で結構です、裁判長たるウジムシ殿。こいつと私を、二人きりにしてください。
※「Don't Leave Me Now」でピンクが妻を「シュレッダーにかける」と妄想したことへの、痛烈な意趣返しと復讐の欲望。

[Verse 4: Mother]
Babe!
坊や!

Come to mother, baby, let me hold you in my arms
ママのところへおいで、坊や。私の腕の中で抱きしめさせておくれ。
※「Mother」でピンクを窒息させた、過保護で束縛的な母親の登場。

M'lud, I never wanted him to get in any trouble
裁判長殿(My Lord)、私はこの子が厄介事に巻き込まれることなど、決して望んでおりませんでした。

Why'd he ever have to leave me?
どうしてこの子は、私のもとを離れなければならなかったのでしょうか?
※子供の自立を「罪」とみなし、永遠に自分の支配下に置こうとする毒親の異常なエゴイズム。

Worm, your honour, let me take him home
ウジムシ裁判長殿、どうかこの子を家に連れて帰らせてください。

[Chorus: Pink (and Choir)]
Crazy, over the rainbow, I am crazy
狂っている。虹の彼方へ。俺は狂っているんだ。

Bars in the window
窓には鉄格子がはめられている。

There must have been a door there in the wall
あの壁のどこかに、ドアがあったはずなのに。
※かつては外界へ通じる出口(ドア)があったはずだが、自ら壁を完璧に塞いでしまったため、もはや逃げ道は存在しないという絶望的な悟り。

When I came in
俺がここへ入ってきた時には。

(Crazy, over the rainbow, he is crazy)
(狂っている、虹の彼方へ、こいつは狂っている)

[Verse 5: The Judge]
The evidence before the court is incontrovertible
法廷に提出された証拠は、明白かつ反論の余地がない。

There's no need for the jury to retire
陪審員が評議に入る必要すら皆無である。

In all my years of judging, I have never heard before
私の長きにわたる裁判官としての経歴においても、未だかつて聞いたことがない。

Of someone more deserving of the full penalty of law
法が定める最高刑に、これほど相応しい者のことなどな。

The way you made them suffer, your exquisite wife and mother
美しき妻と心優しき母、お前が彼女たちに与えた苦痛の数々を思うと。

Fills me with the urge to defecate
私は脱糞したくなるほどの強烈な嫌悪感を覚えるのだ。
※他者の痛みを省みず、自らを被害者として壁の中に引きこもったピンクの利己性に対する、自己嫌悪の極致。

(Go on, Judge, shit on him!)
(やっちまえ、裁判長! こいつにクソをぶっかけてやれ!)

Since, my friend, you have revealed your deepest fear
我が友よ。お前が自らの心の奥底にある、最も深い恐怖を露わにした以上。

I sentence you to be exposed before your peers
私はお前に、同胞たちの前にその身を曝け出す刑を宣告する。
※ピンクにとって最大の恐怖とは、「他者と関わり、傷つくこと」であった。したがって最大の刑罰は、彼を守ってきた壁を破壊し、無防備な精神のまま冷酷な現実世界へ放り出すことである。

Tear down the wall!
その壁を打ち壊せ!

[Outro: Crowd]
Tear down the wall!
その壁を打ち壊せ!

Tear down the wall!
その壁を打ち壊せ!

Tear down the wall!
その壁を打ち壊せ!
(以下、群衆の狂信的なシュプレヒコールが繰り返される)

explosion
(轟音と爆発)

bricks crumbling
(巨大な壁のレンガが崩れ落ちていく音)
※長きにわたりピンクの心を守り、同時に彼を幽閉してきた「壁」が完全に崩壊する。圧倒的なカタルシスと、剥き出しの外界へ放り出される恐怖が入り交じる、プログレッシブ・ロック屈指の歴史的瞬間である。

 

The Trial

The Trial

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