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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

In The Flesh - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: The Wall

Song Title: In The Flesh

概要

1979年発表のロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』のディスク2、物語が佳境を迎える重要な局面で演奏される楽曲である。アルバム冒頭の「In The Flesh?」と同じメロディを持ちながら、疑問符が消えた本曲は、薬物によって「心地よく麻痺」した主人公ピンクが、自己防衛のための「壁」を、他者を排除するための「ファシズム」へと転向させた姿を描いている。1977年のツアーでロジャー・ウォーターズが観客に抱いた嫌悪感や疎外感が、ここでは「ロック・スターが独裁者に変貌し、観客を弾圧する」という皮肉な舞台演出として結実した。過激な差別用語が並ぶ歌詞は、個人の心の病理がいかにして集団の狂気や排外主義へと繋がるかを警告する、ロック史上最も衝撃的な風刺の一つである。

和訳

[Intro]
"Three, two... fire!"
「三、二……撃て!」
※砲撃命令のようなカウントダウン。これまでの内省的な独白は終わり、ここからは外部(観客)に対する一方的な暴力と扇動が始まることを示唆している。

[Verse 1]
So you thought you might like to go to the show
そうか、お前たちはこのショーを見物しに来たかったわけだ。

To feel the warm thrill of confusion, that space-cadet glow
錯乱の温かなスリルや、あのボヤけた恍惚感を味わうためにな。
※冒頭曲「In The Flesh?」のフレーズの反復。しかし、そのトーンはもはや問いかけではなく、独裁者による軽蔑に満ちた断定へと変化している。

I've got some bad news for you, sunshine
お前たちに悪い知らせがあるぞ、お坊ちゃん。
※「sunshine」は無知な観客への皮肉。ウォーターズの冷酷なボーカルが、ピンクの精神がもはや後戻りできない場所まで堕ちたことを告げる。

Pink isn't well, he stayed back at the hotel
ピンクは具合が悪くてな、ホテルで休んでいる。
※「ピンク」という本来の自我が死に、別の怪物的な人格がステージを支配していることを意味する。

And they sent us along as a surrogate band
だから代わりに、俺たち「身代わりのバンド」が送り込まれたのさ。
※ここで演奏しているのはピンク・フロイドではなく、ピンクの狂気が産み出したファシスト軍団であるというメタ的な演出。

We're gonna find out where you fans really stand
お前らファンが、本当はどっち側に立っているのかを暴いてやろう。

[Verse 2]
Are there any queers in the theater tonight?
今夜、この劇場に同性愛者の奴らはいるか?
※ここから、ピンクのパラノイア(被害妄想)が外部への攻撃性へと転換される。社会的なマイノリティを槍玉に挙げ、観客を分断・扇動し始める。

Get them up against the wall
奴らを壁際に立たせろ。
(壁際に!)
※「壁(The Wall)」の意味が、自己を守るための「心の壁」から、処刑や監禁のための「物理的な壁」へと変質している。

Now there's one in the spotlight, he don't look right to me
ほら、スポットライトの中に一人いるぞ。あいつは俺の気に食わない。

Get him up against the wall
あいつも壁際に立たせろ。
(壁際へ!)

And that one looks Jewish, and that one's a coon!
あいつはユダヤ人に見えるな、それにそっちは黒ん坊だ!
※「coon」は極めて攻撃的な人種差別用語。ピンクが自身の「壁」の内側で育ててきた「ウジムシ(憎悪や差別)」が、ついに言葉として溢れ出した瞬間である。

Who let all of this riff-raff into the room?
一体誰が、こんなクズどもをこの場所へ入れたんだ?

There's one smoking a joint and another with spots
ジョイントを吹かしている奴に、ニキビ面の奴もいるな。

If I had my way, I'd have all of you shot!
俺の思い通りになるのなら、お前ら全員、射殺してやるところだ!
※ロック・スターへの熱狂が、独裁者への心酔と紙一重であることを突きつける戦慄のフレーズ。ウォーターズは観客の無条件な崇拝を、ファシズムの温床として激しく批判している。

[Instrumental Outro]
※威圧的なマーチ調のサウンドが響き渡り、観客の理性が暴力的な興奮に飲み込まれていく様子を表現している。

[Segue: Crowd Chanting]
Pink Floyd! Pink Floyd!
ピンク・フロイド! ピンク・フロイド!
※観客によるシュプレヒコール。彼らは侮辱され、脅されているにもかかわらず、そのカリスマ性に熱狂し続けている。これはスター・システムの本質的な恐怖を描いている。

 

In the Flesh (Remastered)

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