Artist: Pink Floyd
Album: The Wall
Song Title: Goodbye Cruel World
概要
1979年発表の2枚組ロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』の第1部(アナログ盤1枚目)のラストを飾る、静寂と狂気が入り交じる短いエピローグである。前曲「Another Brick In The Wall (part 3)」で外界とのあらゆる繋がりを拒絶した主人公「ピンク」が、ついに心の中の「壁」の最後の一隙間を塞ぎ、完全なる引きこもり(社会的な死)を迎える瞬間を描いている。リチャード・ライトによる単調で冷たいシンセサイザーのベースラインと、ロジャー・ウォーターズの感情を削ぎ落とした囁くようなボーカルのみで構成された極限のミニマリズムが特徴だ。外界(残酷な世界)への決別という恐るべき決断を不気味なほどの平穏さで音響化した、プログレッシブ・ロック史上最も冷酷で決定的な幕引きの一つである。
和訳
[Verse: Roger Waters]
Goodbye, cruel world, I'm leaving you today
さようなら、この残酷な世界よ。今日、僕は君の元を去る。
※「残酷な世界(cruel world)」とは、主人公にトラウマを与え続けた戦争、学校、母親、妻、そして自分を消費する大衆など、外界のすべてのシステムを指す。これは肉体的な自殺の遺書ではなく、「壁」の完成による「精神的・社会的な死(完全なる隔離)」の宣言である。
Goodbye, goodbye, goodbye
さようなら、さようなら、さようなら。
Goodbye, all you people, there's nothing you can say
さようなら、すべての人々よ。君たちが何を言おうと無駄だ。
※「すべての人々(all you people)」と呼びかけることで、他者からの同情、干渉、あるいは説得の余地すらも完全に切り捨てている。自ら進んで孤独という名の牢獄へと入っていく絶望的な諦念が表現されている。
To make me change my mind, goodbye
僕の決意を変えることなんて、もはや誰にもできはしない。さようなら。
※最後の「goodbye」という呟きと共に、壁の最後のレンガがはめ込まれるように音楽は唐突に途切れる。外界からの光も音も完全に遮断され、主人公は自らの内面世界という暗黒の底へと沈んでいく。
