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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

One Of My Turns - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: The Wall

Song Title: One Of My Turns

概要

1979年の大作『ザ・ウォール(The Wall)』に収録された、主人公「ピンク」の精神的崩壊(狂気の発作)を克明に描いた楽曲。前曲「Young Lust」の終盤で妻の不倫を知り絶望した彼が、ホテルに連れ込んだグルーピーの前で突如として破壊衝動を爆発させる姿を描いている。前半の静謐でメランコリックな独白から一転、後半ではスタジアム・ロックの狂騒と暴力性が剥き出しになる劇的な構成が特徴だ。愛の死滅と完全な疎外感を背景に、ロック・スターの典型的な奇行(ホテルの部屋の破壊)を、悲痛なトラウマと孤独の産物として再定義したロジャー・ウォーターズの冷徹な心理描写が光る重要なトラックである。

和訳

[Intro]
“Oh my God! What a fabulous room! Are all these your guitars?”
「まあ、なんて素敵な部屋なの! これ全部あなたのギター?」

(“I'm sorry sir, I didn't mean to startle you”)
(「申し訳ありません、驚かせるつもりはなかったのですが」)
※( )内は背後で流れるテレビの音声。外界から完全に心を閉ざしたピンクは、グルーピーのはしゃぐ声を無視してテレビを見つめ続けている。

“God! This place is bigger than our apartment!”
「すごい! 私たちのアパートよりずっと広いわ!」

(“Let me know when you're entering a room”)
(「部屋に入るときは知らせてくれたまえ」)

(“Yes, sir”)
(「はい、かしこまりました」)

“Um, can I get a drink of water?”
「あの、お水をもらってもいい?」

(“I was wondering about”)
(「私はね、〜について考えていたんだ」)

“You want some, huh?”
「あなたも飲む?」

(“Yes”)
(「ええ」)

“Oh, wow! Hey, look at this tub! Wanna take a bath?”
「わあ、すごい! ねぇ、このバスタブ見てよ! 一緒にお風呂に入らない?」
※物質的な豊かさ(巨大な部屋やバスタブ)にはしゃぐ無邪気なグルーピーの姿が、ピンクの抱える底知れぬ虚無感との残酷なコントラストを描き出している。

(“I'll have to find out from Mrs. Bancroft what time she wants to meet us for her main”)
(「バンクロフト夫人に、メインディッシュの件で何時にお会いしたいか確認しなければ」)

“What are you watching?”
「何を見てるの?」

(“If you'll just let me know as soon as you can, Mrs. Bancroft… Mrs. Bancroft”)
(「できるだけ早く知らせていただければ、バンクロフト夫人…バンクロフト夫人」)

“Hello?”
「ねえ、聞いてる?」

(“I don't understand”)
(「私には理解できません」)
※テレビのセリフのサンプリングだが、ピンクと妻(あるいはピンクと外界)の間の「決定的な断絶」を暗喩する見事なダブルミーニングとなっている。

“Are you feeling okay?”
「ねえ、気分でも悪いの?」

[Verse 1: Roger Waters]
Day after day, love turns grey
来る日も来る日も、愛は灰色に色褪せていく。

Like the skin of the dying man
まるで、死にゆく男の皮膚のように。
※前曲で妻の裏切りを知った絶望。愛という感情が完全に死滅していく様を生々しく表現している。

And night after night, we pretend it's all right
そして夜毎、僕たちは何事もないかのように振る舞い続ける。

But I have grown older, and you have grown colder
だが僕は歳を取り、君はひたすら冷たくなっていった。

And nothing is very much fun anymore
そして今や、何ひとつとして楽しいことなんて残っちゃいない。

And I can feel one of my turns coming on
そして僕は感じる。僕のあの「発作」が、また始まろうとしているのを。
※「turn」は突然の気分や態度の変化。ここでは蓄積されたストレスによる突発的な狂気や破壊衝動(発作)を意味する。

I feel cold as a razor blade, tight as a tourniquet
剃刀の刃のように冷たく、止血帯のようにきつく締め付けられ。

Dry as a funeral drum
葬送の太鼓のように、完全に乾き切っているんだ。
※極限の緊張状態と、感情が枯渇してしまった感覚。ここで突如としてシンセサイザーとバンドの轟音が炸裂し、楽曲は暴力的な後半へと突入する。

[Verse 2: Roger Waters]
Run to the bedroom, in the suitcase on the left
ベッドルームへ逃げ込みな、左側のスーツケースの中に。

You'll find my favourite axe
俺の「お気に入りの斧」が入ってるぜ。
※「axe(斧)」はギタリストが自分のギターを指すスラングだが、ここでは文字通り「部屋を破壊するための凶器」としてのダブルミーニング。ピンクの狂気がついに物理的な暴力として爆発した瞬間だ。

Don't look so frightened, this is just a passing phase
そんなに怯えた顔をするなよ、ただの通りすがりの段階(フェーズ)さ。

One of my bad days
俺の「ちょっとついてない日」の一つに過ぎない。

Would you like to watch TV? Or get between the sheets?
テレビでも見るか? それともシーツの間に潜り込むか?

Or contemplate the silent freeway?
それとも、静まり返った高速道路を黙って見つめるか?
※窓から高速道路へ身を投げる(自殺する)ことへの仄めかし。

Would you like something to eat? Would you like to learn to fly?
何か食うか? それとも「空の飛び方」を教えてやろうか?

Would you? Would you like to see me try?
どうだ? 俺が飛ぼうとするのを見てみたいか?

Ah, no!
ああ、嫌だ!
※ピンクの自傷的で狂気じみた行動に対する、グルーピーの悲鳴(あるいはピンク自身の内なる絶叫)。

[Instrumental Break]
※ロックスターによるホテルの部屋の破壊(テレビを窓から投げ捨てるなどの奇行)が、ノイジーなギターと強烈なビートによって音響化される。

[Outro: Roger Waters]
Would you like to call the cops?
サツでも呼ぶか?

Do you think it's time I stopped?
そろそろ俺がやめるべき時間だと思うか?

Why are you running away?
なぜ、逃げていくんだ?
※狂気を爆発させた直後に残る、圧倒的な虚無と孤独。誰かに自分を止めてほしかった(愛してほしかった)にもかかわらず、その暴力性ゆえに他者を完全に遠ざけてしまうという、「壁」の内部における最大のジレンマである。

 

One of My Turns

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