Artist: Pink Floyd
Album: The Wall
Song Title: Another Brick In The Wall (part I)
概要
1979年発表の2枚組ロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』に収録された、主人公「ピンク」の心に精神的な壁(The Wall)を築く最初の契機を描いた重要な楽曲である。ロジャー・ウォーターズの父親エリック・フレッチャー・ウォーターズは、彼が生後わずか5ヶ月の時に第二次世界大戦のアンツィオの戦いで戦死した。この取り返しのつかない「父親の不在」というパーソナルな喪失感が、本作の核となっている。デヴィッド・ギルモアによるディレイを深くかけた冷徹で反復的なギター・カッティングは、埋まることのない虚無感と、これから積み上げられていく孤独のレンガの重みを見事に音響化している。プログレッシブ・ロックのコンセプト・アルバムにおける、最も悲痛で静かなるトラウマの宣言だ。
和訳
[Verse]
Daddy's flown across the ocean
パパは海を越えて、遠くへ飛んでいってしまった。
※「海を越えて」は第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線への出征を指す。同時に、二度と帰らぬ人となった死の暗喩でもある。
Leaving just a memory
残されたのは、ただの記憶と。
A snapshot in the family album
家族のアルバムに挟まれた、たった一枚のスナップ写真だけ。
※父親の温もりを知らず、紙焼きの二次元の姿としてしか父親を認識できないという、ウォーターズの根源的な欠落感が痛切に表現されている。
Daddy, what else did you leave for me?
パパ、あなたは僕に、他に何を残してくれたというの?
Daddy, what'd you leave behind for me?
ねえパパ、僕の元に何を置き去りにしていったの?
※悲痛な呼びかけ。残されたのは誇り高き英雄の記憶ではなく、孤独、戦争への怒り、そして人生に対する圧倒的な恐怖だけであったという事実の突きつけである。
[Chorus]
All in all, it was just a brick in the wall
結局のところ、それは壁を構成するただのレンガの一つに過ぎなかった。
※「壁(the wall)」は、外界の苦痛から自己を隔離するために主人公が心の中に築き上げる絶対的な防壁。父親の死という巨大な悲劇すらも、その壁を高くするための「一つのレンガ」に変換されてしまうという、恐るべき自己防衛のメカニズムの始まりである。
All in all, it was all just bricks in the wall
結局のところ、すべては壁の中に埋め込まれたレンガに過ぎなかったのだ。
[Instrumental Break]
[インストゥルメンタル・ブレイク]
※ギルモアの冷たく鋭いギターと、ウォーターズの重いベースが交錯する。心の中に最初のレンガが置かれ、さらに次々と積み上げられていくような、淡々とした絶望感が表現されている。
[Outro]
Hey!
ヘイ!
Children playing
(子供たちの遊ぶ声)
※無邪気な子供たちの声がフェードインしてくる。これは、主人公ピンクが父親の不在というトラウマを抱えたまま成長し、やがて学校という新たな社会システム(抑圧)に直面する時期へと移行したことを示している。
