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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Sheep - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Animals

Song Title: Sheep

概要

1977年の社会風刺アルバム『アニマルズ(Animals)』のコンセプトを締めくくる大作であり、ジョージ・オーウェルの『動物農場』における「無知で盲目的な大衆」を象徴する楽曲である。権力者(豚)や執行者(犬)に搾取されていることに気づかず、平和な牧草地で微かな違和感のみを抱えながら生きる大衆の姿が描かれる。中盤では旧約聖書の「詩篇第23篇」をブラックユーモアを交えてパロディ化したヴォコーダーの朗読が挿入され、宗教や為政者による洗脳の恐怖を表現している。終盤では羊たちが突如として狂気的な反乱を起こし「犬」を打ち倒すものの、それが真の解放なのか、新たな支配のサイクルの始まりに過ぎないのかという不気味な余韻を残し、プログレッシブ・ロック屈指のアグレッシブなカタルシスへと到達する傑作である。

和訳

[Intro]
Sheep bleating
(羊の鳴き声)
※のどかな牧草地の風景音だが、迫り来る屠殺の気配に気づいていない無知な大衆(羊)の平和ボケした状況を示している。

[Verse 1]
Harmlessly passing your time in the grassland away
牧草地で、何の害も及ぼさずにただ時間をやり過ごしている。
※「harmlessly(無害に)」は、体制にとって一切の脅威とならない、思考停止した従順な一般大衆の姿である。

Only dimly aware of a certain unease in the air
空気中に漂うある種の違和感に、ただぼんやりと気づいているだけだ。
※搾取されていることに対する漠然とした不安。しかし、自ら行動を起こして真実を確かめようとはしない大衆の無関心さを突いている。

[Chorus]
You better watch out
気をつけた方がいい。

There may be dogs about
辺りには犬たちがうろついているかもしれないぞ。
※アルバムの序盤で描かれた、権力の手先として羊を監視・搾取する資本主義の執行者(犬)たちの影。

I've looked over Jordan, and I have seen
私はヨルダン川の向こう岸を見渡し、そして見てしまったのだ。
※「ヨルダン川」は聖書において「約束の地」へ至る境界線、あるいは死のメタファー。「死の向こう側(あるいは社会の真実)」を見てしまった先覚者の視点。

Things are not what they seem
物事は、決して見かけ通りではないということを。
※平和な社会(牧草地)が、実は巧妙に作られた搾取のシステム(屠殺場)であるという真実の暴露。

[Verse 2]
What do you get for pretending the danger's not real?
危険など存在しないふりをしたところで、一体何が手に入るというのか?

Meek and obedient, you follow the leader
大人しく、従順に、君たちは指導者の後をついていく。
※「the leader」は政治家や資本家(豚)を指す。自ら考えることを放棄した大衆の群集心理と全体主義への痛烈な批判。

Down well trodden corridors into the valley of steel
踏みならされた通路を下り、鋼鉄の谷底へと。
※「鋼鉄の谷」は屠殺場、あるいは巨大な資本主義の産業システムそのもの。抵抗せずに自ら死地(搾取される場所)へ赴く大衆の哀れな末路である。

[Chorus]
What a surprise!
なんという驚きだろう!

A look of terminal shock in your eyes
君たちの目には、絶望的なショックの色が浮かんでいる。
※屠殺される直前になって初めて真実に気づいた大衆の、手遅れとなった恐怖の表情。

Now things are really what they seem
今や物事は、まさにその見かけ通りの現実となった。
※隠されていた暴力(屠殺)が剥き出しになった瞬間。

No, this is no bad dream
いや、これは悪い夢なんかじゃないのだ。

[Interlude]
(Stone, stone, stone, stone)
(石に、石に、石に、石に……)
※楽曲「Dogs」でも使われた「Stone(石)」のリフレイン。重圧、死、そして社会の底辺へと引きずり込まれる虚無の象徴である。

(Stone, stone, stone, stone)
(石に、石に、石に、石に……)

(Stone, stone)
(石に、石に……)

[Instrumental Break]
※不穏なベースラインとキーボードが、迫り来る死の恐怖と、その後に芽生える狂気的な反乱の予兆を音響化していく。

[Bridge]
sheep bleating
(羊の鳴き声)

The Lord is my shepherd
主は私の羊飼い。

I shall not want
私には乏しいことがない。

He makes me down to lie
主は私を横たわらせる。
※ここから旧約聖書の「詩篇第23篇(ダビデの賛歌)」のパロディが始まる。本来は神の加護を讃える美しい詩だが、ここでは宗教やイデオロギーがいかに大衆(羊)を洗脳し、体制に従順にさせているかという痛烈なブラックユーモアとなっている。

Through pastures green He leadeth me the silent waters by
緑の牧場を通って、静かなる水畔へと私を導かれる。

With bright knives, He releaseth my soul
そして輝くナイフで、主は私の魂を解放される。
※原典の「私の魂を生き返らせる」を「屠殺用のナイフで殺して魂を解放する」へと残酷に改変。神(あるいは為政者)による究極の搾取の正体。

He madeth me to hang on hooks in high places
主は私を、高い場所にあるフックに吊るし。

He converteth me to lamb cutlets
ラム・カツレツへと姿を変えさせるのだ。
※大衆が最終的に資本主義の「消費財(肉)」として文字通り食い物にされる凄惨な現実。

For lo, He hath great power and great hunger
見よ、主は偉大な力を持ち、そして大いなる飢えを抱えておられるのだから。

When cometh the day we lowly ones
我ら卑しき者たちが。

Through quiet reflection and great dedication
静かなる内省と、大いなる献身を通して。

Master the art of karate
空手の技を極めしその日が来たならば。
※「空手(karate)」という唐突なワード。抑圧されてきた大衆が密かに武力(暴力)を蓄え、突如として権力に牙を剥くことのコミカルかつ不気味な予言。

Lo, we shall rise up
見よ、我らは立ち上がり。

And then we'll make the bugger's eyes water
あのクソ野郎の目から、涙を流させてやろう。
※「bugger」は権力者や犬を指す。ついに羊たちによる血生臭い復讐劇が幕を開ける。

[Verse 3]
Bleating and babbling, we fell on his neck with a scream
メェメェと鳴きわめきながら、我々は悲鳴と共に奴の首へと襲いかかった。
※群衆の狂気。虐げられてきた羊たちが暴徒と化し、かつての支配者(犬)に噛みつくルサンチマンの爆発。

Ah, ha-ha-ha-ha
アハハハハ。

Wave upon wave of demented avengers
狂気を帯びた復讐者たちの波が次々と押し寄せ。

March cheerfully out of obscurity into the dream
日陰の存在から抜け出し、喜々として行進しながら、あの夢の境地へと向かっていく。
※「夢」とは革命の成就やユートピアのこと。しかし「demented(狂った)」という言葉が示すように、この反乱自体が新たな狂気であり、理性を失った暴力の連鎖に過ぎないことをウォーターズは冷徹に見透かしている。

[Chorus]
Have you heard the news?
ニュースを聞いたか?

The dogs are dead
犬どもは死んだ。
※暴動の果ての、革命の勝利宣言。

You better stay home and do as you're told
家の中に閉じこもり、言われた通りにしているんだな。
※ここが本楽曲の核心を突く最も恐ろしいフレーズ。支配者を打ち倒したはずの羊たちが、結局は新たな「支配者」となり、同胞に対して抑圧的な命令を下し始めている。「動物農場」の結末と同じく、革命は新たな独裁を産むだけだという絶望的なサイクルの提示である。

Get out of the road if you want to grow old
長生きしたけりゃ、道を開けな。
※革命後の新しい権力者(元・羊)が放つ暴力的な脅し口句。体制の転覆が真の自由をもたらさなかったという圧倒的な虚無感が残る。

[Instrumental Break]
※デヴィッド・ギルモアのアグレッシブなギターが炸裂し、重厚でカタルシスに満ちたアウトロへと展開する。大衆の革命の熱狂と、その裏にある狂騒を見事に音響化している。

[Outro]
Sheep bleating
(羊の鳴き声)
※フェードアウトしていくギターと交差するように、再び平和な羊の鳴き声と鳥のさえずりが戻ってくる。結局、彼らは新たな「羊(独裁者)」になっただけで、システムそのものは何も変わっていないという、アルバム最大の皮肉に満ちた円環構造である。

 

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