Artist: Pink Floyd
Album: Animals
Song Title: Pigs (Three Different Ones)
概要
1977年の傑作アルバム『アニマルズ(Animals)』の中核を成す、社会の最上層で権力を振るう「豚(支配階級)」たちへの強烈な怒りと嫌悪を叩きつけた楽曲である。ジョージ・オーウェルの『動物農場』を下敷きに、ロジャー・ウォーターズは本作で3種類の具体的な「豚」(冷酷な資本家、権力にしがみつく政治家、そして偽善的な道徳主義者メアリー・ホワイトハウス)を名指しで痛烈に批判している。ファンキーでありながら陰湿に脈打つベースラインと、デヴィッド・ギルモアがトークボックス(トーキング・モジュレーター)を用いて奏でる「豚の鳴き声」のようなギター・ソロは、権力者たちの滑稽さと醜悪さを見事に音響化している。プログレッシブ・ロックにおける最も過激でシニカルな社会風刺の一つだ。
和訳
[Intro]
pig snorting
(豚の鳴き声)
※前曲「Dogs」の悲劇的な結末から一転、支配階級である「豚」のグロテスクで傲慢な鳴き声が、冷酷な資本主義社会の頂点からの視点への切り替わりを告げる。
[Verse 1]
Big man, pig man, haha, charade, you are, woo!
大物ぶった男、豚野郎、ハハハ、お前はただの滑稽な茶番劇だ。
※「Big man」は富と権力を独占する資本家や企業トップを指す。「charade(見え透いた偽装、茶番)」という言葉で、彼らの権威が虚構に過ぎないことを嘲笑している。
You well-heeled big wheel, haha, charade, you are
金に物を言わせる大物気取りめ、ハハハ、お前は本当に茶番さ。
※「well-heeled」は裕福な、「big wheel」は重要人物(大物)を意味するスラング。資本主義の頂点に立つ者へのあからさまな侮蔑である。
And when your hand is on your heart
そして、お前が胸に手を当てて誠実さを装う時。
※愛国心や道徳心、あるいは真摯さをアピールする政治家や資本家の偽善的なポーズを指す。
[Pre-Chorus]
You're nearly a good laugh, almost a joker
お前はもう少しでいい笑いぐさだ、まるで道化師そのものさ。
With your head down in the pig bin, saying, "Keep on digging"
豚の餌箱に頭を突っ込んだまま、「もっと掘り続けろ」と命令している。
※「pig bin(残飯入れ)」は強欲さのメタファー。自らは貪欲に富を貪りながら、下の階級(犬や羊)には過酷な労働(digging)を強いる資本家の醜悪な姿を描写している。
Pig stain on your fat chin, what do you hope to find
その太った顎に豚のシミをくっつけて、一体何を見つけようって言うんだ?
Down in the pig mine?
その豚の炭鉱の底深くで。
※「pig mine(豚の鉱山)」は、どこまでも利益を追求し続ける資本主義の底なしの搾取構造を暗喩している。
[Chorus]
You're nearly a laugh
お前はほとんど笑い話だ。
You're nearly a laugh, but you're really a cry
笑っちまうほど滑稽だが、その実態は泣きたくなるほど悲惨(cry)なのさ。
※支配層の愚かさは喜劇的ですらあるが、それが現実社会に引き起こす苦痛(貧困や分断)を思えば、とても笑い事では済まされないというウォーターズの冷徹な結論。
(Animals)
(動物たちよ)
[Verse 2]
Bus stop rat bag, haha, charade, you are
バス停の嫌なババア、ハハハ、お前は茶番だ。
※「bus stop rat bag」は特定の政治家(当時の野党党首であり、後に強権的な新自由主義を推し進めるマーガレット・サッチャーという説が有力)を暗に指しているとされる。
You fucked up, old hag, haha, charade, you are
イカれたクソ婆ァ、ハハハ、お前は本当に茶番さ。
※「old hag(醜い老婆)」という直接的で極めて攻撃的な言葉選びに、ウォーターズの反権威・反保守主義的な怒りが爆発している。
You radiate cold shafts of broken glass
お前は、粉々に砕けたガラスのような冷たい光線を放っている。
※冷酷で血の通っていない政策や、人間性を欠いた鋭い視線を「砕けたガラス」に喩えている。
[Pre-Chorus]
You're nearly a good laugh, almost worth a quick grin
お前はもう少しでいい笑いぐさだ、一瞬ニヤリと笑ってやるくらいの価値はある。
You like the feel of steel, you're hot stuff with a hatpin
お前は冷たい鋼鉄の感触がお気に入りだ。ハットピンを持たせれば大したタマさ。
※「steel(鋼鉄)」や「hatpin(ハットピン=女性の帽子留め)」は、隠し持った権力という名の凶器、あるいは強権的な政治手法の隠喩。サッチャーの異名「鉄の女(Iron Lady)」を想起させる。
And good fun with a handgun
拳銃を持たせれば、さぞかし愉快なことだろうよ。
※権力者が軍事力(handgun)や他国の命をゲームのように弄ぶことへの痛烈な皮肉。
[Chorus]
You're nearly a laugh
お前はほとんど笑い話だ。
You're nearly a laugh, but you're really a cry
笑っちまうほど滑稽だが、お前がもたらす現実は泣きたくなるほど悲惨なのさ。
[Instrumental Break]
pig snorting
(豚の鳴き声)
※ギルモアがトークボックス(トーキング・モジュレーター)を使用してギターで表現した豚の鳴き声。人間性を失い完全に獣と化した権力者の醜悪さを、コミカルかつグロテスクに音響化している。
[Verse 3]
Hey you, Whitehouse, haha, charade, you are
おいあんた、ホワイトハウス、ハハハ、お前は茶番だ。
※「Whitehouse」とはアメリカ大統領府のことではなく、当時のイギリスでテレビやメディアの「道徳的浄化」を強硬に訴えていた保守的活動家、メアリー・ホワイトハウスのこと。表現の自由を弾圧する偽善的な道徳家に対する、名指しでの徹底的な糾弾である。
You house-proud town mouse, haha, charade you are
家を自慢げに見せびらかす町のネズミめ、ハハハ、お前は本当に茶番さ。
※「town mouse(町のネズミ)」はイソップ寓話からの引用。安全で保守的な価値観(持ち家や体裁)に守られながら、高所から他者を裁く俗物性を皮肉っている。
You're trying to keep our feelings off the street
お前は、俺たちの感情をストリートから排除しようと躍起になっている。
※検閲や道徳的抑圧によって、若者の怒りやロックンロールの衝動(feelings)を社会から締め出そうとする保守派の動きへの反発。
[Pre-Chorus]
You're nearly a real treat, all tight lips and cold feet
お前はもう少しで最高の見世物だ。唇を固く結び、冷たく怯え切ってな。
※「tight lips」はヒステリックで融通の利かない道徳家の表情を、「cold feet」は本当は現実社会の自由な変化に恐れおののいている臆病さを表している。
And do you feel abused? Huh, huh, huh, huh, huh, huh, you!
それで、お前は自分が虐げられているとでも感じているのか? ハハハハ、お前が!
※自ら他者を攻撃・検閲しておきながら、いざ反発されると被害者ぶるという、保守的道徳家の特権意識と自己矛盾に対する強烈な嘲笑。
Gotta stem the evil tide and keep it all on the inside
「邪悪な潮流を食い止め、すべてを内側に閉じ込めておかなければならない」ってか。
※彼女たちの掲げる「道徳的な浄化(性の隠蔽や暴力表現の排除)」の滑稽さを代弁している。臭いものに蓋をして、人間の本性(inside)を無理やり抑圧することの異常性を告発している。
[Chorus]
Mary, you're nearly a treat
メアリー、お前はほとんど見世物だ。
※ここで明確に「Mary(メアリー・ホワイトハウス)」とファーストネームで呼び捨てにし、彼女の権威を完全に引きずり下ろしている。
Mary, you're nearly a treat, but you're really a cry
メアリー、笑っちまうほど滑稽だが、お前がやっていることは泣きたくなるほど悲惨なのさ。
[Guitar Solo]
※デヴィッド・ギルモアによる怒りとカタルシスに満ちた長尺の力強いギター・ソロ。抑圧的な「豚」たちに対する労働者階級(あるいは羊たち)の鬱屈したエネルギーが、最後には圧倒的なロックのダイナミズムとして爆発し、フェードアウトしていく。
