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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Album Intro - Nas 【和訳・解説】

Artist: Nas

Album: It Was Written

Song Title: Album Intro

概要

Nasの2ndアルバム『It Was Written』(1996年)の幕開けを飾る本作は、アメリカにおける黒人の歴史的抑圧と、現代のストリートやラップゲームにおけるルール(掟)を対比させる重厚なスキットだ。前半では奴隷制時代の生々しい逃亡劇をドラマティックに描き、後半ではスタジオでの盟友AZとの会話へと切り替わる。改刷されたばかりの新100ドル札の偽物っぽさや、ジョーカーを含んだトランプのデッキを比喩に用いながら、フェイクが蔓延する当時のヒップホップ・シーンに警鐘を鳴らしている。最終的に自身の名「Nas」がコーランで「人々」を意味するという教えに触れ、本作の成功と自身の存在が「すでに書かれていた運命(It Was Written)」であることを力強く宣言する、極めて啓蒙的でコンセプチュアルなイントロダクションである。

和訳

[Various Speakers & Nas]
"Hey Nas, hey hey boy, you see what they done did to Jimmy and Lee?"
「おいNas、なぁ、あいつらがジミーとリーに何をしやがったか見たか?」

"Mmmhmm. Damn, man"
「あぁ。クソッ、ふざけんなよ」

"I can't take it man"
「もう耐えられねぇよ」

"Sho' can't"
「全くだぜ」

"You think this is gonna eva' change?"
「こんな状況、いつか変わる日が来ると思うか?」

"Man, damn this place, man! Damn these chains! These damn chitlins every damn night"
「あぁ、こんな場所クソ食らえだ!この鎖も呪われてしまえ!毎晩毎晩クソみたいなチトリンズばっかり食わされやがって」
※chitlins=豚の腸(モツ)を煮込んだソウルフード。奴隷制時代に白人農場主が食べない廃棄部位を黒人奴隷に与えていた歴史的背景があり、ここでは奴隷としての惨めな境遇の象徴として使われている。

"This cotton"
「この綿花摘みもだ」

"Shit!"
「クソッ!」

"I can't take it man"
「もう限界だ」

"Harriett done left the night befo'. It's time we go"
「ハリエットは昨日の夜に発った。俺たちも行く時間だ」
※Harriett=ハリエット・タブマン(Harriet Tubman)のこと。19世紀に「地下鉄道(Underground Railroad)」と呼ばれる逃亡ルートを用いて多くの黒人奴隷を北部へと導いた伝説的な女性指導者。

"Ain't no place for black folk here. Man, promise land callin' me man"
「ここに黒人の居場所なんてねぇ。約束の地が俺を呼んでるんだ」

"It's callin' me too"
「俺のことも呼んでるぜ」

"It's time we go"
「もう行くぞ」

"Yeah, I'm wichou!"
「あぁ、俺も一緒に行く!」

"Hey man, hey damn these chains, man. Damn you master, you ain't my master, man!
「おい、この鎖め。マスター(白人の主人)の野郎もクソ食らえだ、お前なんか俺の主人じゃねぇ!」

"You ain't nothin', you ain't nothin'"
「お前なんざ何の価値もねぇ、カス野郎だ」

"Hey Bandit, Bandit, get the dogs! Get the hounds, we gonna"
「おいバンディット、バンディット、犬どもを連れてこい!猟犬を放て、これから」

"Have ourselves a hangin' tonight!"
「今夜は首吊り(絞首刑)祭りだ!」

[Nas & (AZ)]
1996!
1996年!

Back up in this nigga
またここ(シーン)に戻ってきたぜ。

The right way, though, you know?
しかも、正しいやり方でな、わかるだろ?

(Double-tre son, you know ain't nothin' coincidental or accidental, dunn)
(ダブル・トレイだ、兄弟。偶然や事故で起きたことなんて一つもねぇってこと、分かってんだろ)
※Double-tre=「33」を意味する。フリーメイソンリーにおける最高位(33階級)を指し、「究極の真理」や「神聖な知識」に達している状態を示唆する。dunnはNY(特にクイーンズ・ブリッジ周辺)特有の呼びかけのスラング。

No doubt!
間違いないぜ!

(You know how it's goin' down, man)
(どういう事態になってるか、分かってるよな)

It was all written
すべては初めから書かれていた(運命だった)のさ。
※It was all written=アルバムのタイトル『It Was Written』の伏線回収。彼らの成功が偶然ではなく、あらかじめ定められた神の意思や運命であるという強い確信を示している。

(No question, I'm sayin' man, I mean, how we playin' man)
(疑いの余地はねぇよ。つまりさ、俺たちがどうこのゲームをプレイするかだ)

(You know what I'm sayin', they dealt us in, son)
(わかるだろ、あいつらは俺たちにカードを配りやがったんだよ、兄弟)

(They playin' with a 54 deck, you see with the jokers in and everything, you know what I'm saying?)
(あいつらは54枚のデッキでプレイしてる。ジョーカーまで混ぜて、何でもありなんだ、言ってることわかるか?)
※54 deck=ジョーカー2枚を含んだトランプのデッキ。システムや音楽業界(あるいはフェイクなラッパーたち)が、不正なルールやイカサマを用いてストリートを支配しようとしていることを暗示している。

Son, I'm playin' with the 52
兄弟、俺は52枚のデッキで勝負してるぜ。
※playin' with the 52=ジョーカー(イカサマやズル)を抜きにした正規の52枚のデッキ。Nasがラップゲームにおいて、ギミックに頼らず「本物(リアル)」のやり方で正々堂々と勝負している姿勢を表している。

(You wanna stress on how I used to play, that's how I playin')
(昔の俺がどうやってたかを強調したいなら、まさにその通りにやってるぜ)

But, yo, they takin' us into this next millennium, right now
だがよ、あいつら俺たちを次のミレニアム(2000年代)へと引き摺り込もうとしてるんだ、今まさに。

(I'm sayin' law, you know what I'm sayin' we gotta lay the law)
(俺が言いたいのは『掟』だ。俺たちでルールを敷かなきゃならねぇんだよ)

(Cause without law ain't no order, you know what I'm sayin')
(だって、掟がなきゃ秩序なんて生まれねぇからな、言ってる意味わかるか?)

(That's why these cats are slippin' through, you know what I'm sayin? They got the rules missin' though)
(だからあんなハンパな奴らがすり抜けて来ちまうんだ。あいつらにはルールってものが欠けてるんだよ)
※these cats=シーンにはびこるフェイクなラッパーたちや新参者のこと。ヒップホップ本来の「掟(リアルさやリリシズム)」を無視して成功しようとする者たちを批判している。

True
その通りだ。

(Yo, word up, though, you know what I mean?)
(だろ、マジな話さ、俺の言いたいことわかるだろ?)

Son, these niggas look faker than the new hundred dollars, son
兄弟、あいつらときたら、新しい100ドル札よりもフェイク(偽物)に見えるぜ。

(Yeah, you see that they look Monopoly money, right?)
(あぁ、見たかよ。まるでモノポリーのお金みたいだよな?)
※new hundred dollars / Monopoly money=1996年当時のアメリカでは、偽造防止のために100ドル紙幣のデザインが刷新され、ベンジャミン・フランクリンの肖像画が大きく拡大された。それが当時の人々には不自然でおもちゃの「モノポリー紙幣」のように見えたことを、シーンの「フェイクな連中」に掛けて揶揄している。

Word, with the big ass face on it
全くだ。あのデカすぎる顔が描かれたやつな。

(Yo, what I'm sayin', we see through all that, though)
(よぉ、俺が言いたいのは、俺たちにはそんなもん全てお見通しだってことさ)

(You know what I'm sayin?)
(言ってることわかるか?)

No question
間違いないね。

(All eyes seein', son, you know it was written, no question)
(すべてを見通す目だ、兄弟。これはあらかじめ書かれた運命なんだよ、疑いようがねぇ)
※All eyes seein'=「万物を見通す目(プロビデンスの目)」。1ドル紙幣の裏に描かれているシンボルでもあり、神の全知全能性やフリーメイソンリーの象徴。前述の「Double-tre(33階級)」や紙幣の話題とリンクしたメタファー。

Yo, no doubt. In the Qu'ran it says Nas, the men
あぁ、間違いない。コーランには「Nas」は「人々(男たち)」だと書かれているんだ。

Nesa's the woman, you know? It was written
「Nesa(ニサー)」は「女」だ、知ってたか? 初めからそう書かれていたのさ。
※Nas / Nesa=イスラム教の聖典コーラン(クルアーン)の章名。第114章「アン・ナース(An-Nas)」はアラビア語で「人々(人類)」を意味し、第4章「アン・ニサー(An-Nisa)」は「婦人」を意味する。Nasは自身の名前が神聖な書物に記された普遍的な意味を持つことを示し、存在そのものが「運命づけられたもの(It was written)」であると結論づけている。