Artist: Pink Floyd
Album: Wish You Were Here
Song Title: Shine On You Crazy Diamond (Pts. 6-9)
概要
1975年の傑作アルバム『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』のラストを飾る、9部構成の巨大な組曲の後半(パート6〜9)である。前半(パート1〜5)で提示されたかつてのリーダー、シド・バレットへの哀悼と音楽産業批判を受け継ぎつつ、本作ではさらに深い「彼との完全なる決別と和解」、そして「同じ狂気(影)を共有する自己」への向き合いが描かれている。特筆すべきは、リチャード・ライトによるパート9のアウトロである。初期ピンク・フロイドを象徴するシドの楽曲「See Emily Play」のメロディがシンセサイザーで密やかに奏でられ、失われた天才への永遠の敬意と別れを告げて静かに幕を閉じる。プログレッシブ・ロックにおける最も感動的で完璧なアルバムのエンディングだ。
和訳
[Part VI: 0:00-4:38]
[Instrumental]
※風の音からフェードインするベースラインと、リチャード・ライトの重厚なシンセサイザー、そしてデヴィッド・ギルモアのブルージーなスライド・ギター。前半の「狂気への転落」から一転し、どこか未来へ向かうような力強いファンク・ビート(パート6)が、バンドがシドの不在を乗り越えて進んでいく決意を感じさせる。
[Part VII: 4:38-6:02]
[Verse 1: Roger Waters, Roger Waters & Richard Wright]
Nobody knows where you are
今や君がどこにいるのか、誰にも分からない。
How near or how far
どれほど近くにいるのか、あるいはどれほど遠くへ行ってしまったのか。
※精神を病み、音楽業界から完全に姿を消してしまったシド・バレットの実生活への言及。物理的な距離だけでなく、精神的な断絶(狂気の世界への隠遁)に対する途方もない喪失感が漂う。
[Refrain: Roger Waters & David Gilmour, David Gilmour]
Shine on (Shine on), you crazy diamond (You crazy diamond)
輝き続けろ、狂ったダイヤモンドよ。
[Verse 2: Roger Waters, Roger Waters & Richard Wright]
Pile on many more layers
さらに多くの層を、その上に積み重ねていくんだ。
※「layers(層)」は、歳月や、世間から身を隠すための防御壁、あるいは自己を覆い隠す狂気のベールのこと。
And I'll be joining you there
そうすれば、僕もそこへ君に加わることになるだろう。
※ウォーターズの恐るべき告白。社会的な成功や防衛本能によって自分自身も分厚い「疎外感の壁(layers)」を築きつつあり、最終的にはシドと同じ「狂気(あるいは完全な孤立)」の世界へ至るだろうという予感。のちの『ザ・ウォール』へと直接繋がる、極めて重要なテーゼである。
[Refrain: Roger Waters & David Gilmour, David Gilmour]
Shine on (Shine on), you crazy diamond (You crazy diamond)
輝き続けろ、狂ったダイヤモンドよ。
[Chorus: Roger Waters]
And we'll bask in the shadow of yesterday's triumph
そして僕たちは、昨日の勝利の影の中で、共にまどろむのだ。
※「昨日の勝利」とは初期フロイドの成功や前作『狂気』の大ヒットのこと。しかしそれはすでに「影(過去の残り香)」に過ぎず、莫大な成功を得た現在ですら、彼らはシド・バレットというかつての太陽が落とした影の中から抜け出せずにいるという呪縛の表れである。
And sail on the steel breeze
冷たい鋼鉄の風に乗って、船を出そう。
※「鋼鉄の風」は前半(パート1〜5)からの反復。無慈悲な資本主義や社会のシステムという向かい風の中を、それでも生きていくという悲壮な決意。
Come on, you boy child, you winner and loser
さあ来い、永遠の少年よ、勝者であり、敗者である男よ。
※純粋な心を失わなかった少年(boy child)。音楽史に名を刻んだ勝者でありながら、精神と人生を破壊された敗者でもあるシドの矛盾した存在そのものを全肯定している。
Come on, you miner for truth and delusion, and shine
さあ来い、真理と妄想を掘り起こす坑夫よ。そして輝くんだ。
※「真理と妄想(truth and delusion)」。LSDやサイケデリックな探求によって宇宙の真理を掘り当てようとし、結果として妄想の泥沼に沈んだシドの姿。狂気の淵まで潜っていった彼の勇気と犠牲を讃え、最後にもう一度「輝け」と祈る、ウォーターズの最大の賛歌である。
[Part VIII: 6:02-9:03]
[Instrumental]
※ファンキーでアグレッシブなセッションへと突入する。バンドの演奏がシドへの追悼をエネルギーに変換し、ピンク・フロイドという巨大なマシーンが前へ進んでいく強靭なグルーヴを生み出している。
[Part IX: 9:03-12:27]
[Instrumental]
※アルバムの真のエンディング。激しいセッションから一転し、リチャード・ライトのキーボードを中心とした静謐でクラシカルな葬送曲へと移行する。アウトロの最後の最後、消え入るようなシンセサイザーのメロディが、シドが書いた初期の代表曲「See Emily Play」のフレーズを密やかに奏でる。これはライトからシドへの個人的かつ最大の敬意であり、二度と戻らない友への究極の「さよなら」である。この美しい余韻とともに、フロイド史に残る大傑作アルバムは静かに幕を閉じる。
