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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Have A Cigar - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Wish You Were Here

Song Title: Have A Cigar

概要

1975年発表のアルバム『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』に収録された、音楽産業の強欲さと傲慢さを痛烈に風刺した楽曲である。前作『狂気(The Dark Side of the Moon)』の記録的な大成功によって莫大な富をもたらされたピンク・フロイドに対し、レコード会社の重役たちが手のひらを返してすり寄ってくる様が、極めて冷笑的かつコミカルに描かれている。特筆すべきは、同じスタジオで録音していたロイ・ハーパーがゲスト・ボーカルとして起用されている点だ。彼のふてぶてしくもシアトリカルな歌声は、アーティストの音楽性や内面には一切興味がなく、ただ利益(ボロ儲け)のみを追求する業界人の軽薄さを見事に体現している。「で、ピンクというのはどのメンバーのことだい?」という有名な一節は、彼らが実際に受けた無知な質問から引用されており、巨大化するビジネスと芸術の乖離、そして疎外感というアルバム全体のテーマを決定づける名曲である。

和訳

[Instrumental Intro]

※前曲「Welcome to the Machine」のインダストリアルなノイズから一転し、ファンキーで冷たいシンセサイザーとギターのカッティングが、レコード会社の煌びやかで虚飾に満ちたオフィス空間を連想させる。

[Verse 1: Roy Harper]
Come in here, dear boy, have a cigar
こっちへ入りなさい、親愛なる君。葉巻を一本どうだい。
※レコード会社の重役が、若く成功したアーティストをパターナリズム(温情主義)で丸め込もうとする典型的な姿。「葉巻(cigar)」は富と権力、そして資本主義的成功の傲慢な象徴である。

You're gonna go far, you're gonna fly high
君は遠くまで行くよ、高く飛び立つはずだ。

You're never gonna die
君は絶対に死ぬことなんてないさ。
※前作『狂気』で「時間と死」を重く扱ったバンドに対し、業界人が発する「スターとしての不滅(あるいは作品の永続的な売上)」という薄っぺらい称賛。

You're gonna make it if you try
挑戦しさえすれば、必ず成功を手にする。

They're gonna love you
大衆は君のことを愛してやまないだろうよ。

Well, I've always had a deep respect
実を言うと、私は常に深い敬意を抱いていたんだ。

And I mean that most sincerely
それはもう、心の底から誠実にね。
※金の匂いを嗅ぎつけた途端にすり寄ってくる、音楽業界の底なしの偽善と欺瞞。

The band is just fantastic
君たちのバンドは本当に素晴らしい。

That is really what I think
私が心からそう思っていることは、分かってくれるだろう。

Oh, by the way, which one's Pink?
ああ、ところで、ピンクというのはどのメンバーのことだい?
※ロック史に残る最も有名な皮肉の一節。バンドの音楽性を絶賛しながらも、バンド名(Pink Floydはブルースマンのピンク・アンダーソンとフロイド・カウンシルから取られたもの)の由来すら知らず、個人の名前だと勘違いしているという事実。芸術性への完全な無理解と無関心を暴き出している。

[Chorus: Roy Harper]
And did we tell you the name of the game, boy?
ところで、このゲームの名前を君に教えたっけな、坊や?

We call it riding the gravy train
我々はこれを「ボロ儲けの列車(グレイヴィー・トレイン)に乗る」と呼んでいるのさ。
※「gravy train」は濡れ手に粟のボロ儲けを意味するスラング。音楽表現やメッセージなど二の次であり、結局のところすべては資本主義におけるマネーゲームに過ぎないという冷酷な本音が露呈する。

[Verse 2: Roy Harper]
We're just knocked out
我々もすっかりノックアウトされちまったよ。

We heard about the sell-out
チケットが完全にソールドアウトしたって聞いたからね。
※音楽の質ではなく、商業的な成功(チケットの完売)のみが彼らにとっての唯一の評価基準である。

You gotta get an album out
早く次のアルバムを出してくれないか。

You owe it to the people
大衆に対して、君にはその義務があるんだ。
※「ファンが待っている」という大義名分を利用して、アーティストに新譜の大量生産を強要するレコード会社のプレッシャー。シド・バレットをすり減らしたのと同じ搾取の構造である。

We're so happy, we can hardly count
我々はもうハッピーすぎて、売上の計算すら追いつかないくらいさ。

Everybody else is just green
他の連中は皆、嫉妬で青ざめているよ。
※「green」は嫉妬(green with envy)を表すと同時に、ドル紙幣(グリーンバック)の色も暗喩しており、ウォーターズの冷徹な言葉遊びが光る。

Have you seen the chart?
君はチャートを見たかい?

It's a hell of a start
とんでもないスタートダッシュじゃないか。

It could be made into a monster
こいつは桁外れのモンスター(怪物)になるかもしれないぞ。
※「モンスター」は巨大なヒット作(『狂気』のこと)を指すが、同時に彼ら自身を呑み込んでいく音楽産業そのもの、あるいは制御不能となった狂気のメタファーとしても機能している。

If we all pull together as a team, oh
我々がチームとして、一緒に力を合わせさえすればな、ああ。
※搾取する側とされる側を「チーム」という言葉で誤魔化し、都合よくコントロールしようとするビジネスマンの常套句。

[Chorus: Roy Harper]
And did we tell you the name of the game, boy?
ところで、このゲームの名前を君に教えたっけな、坊や?

We call it riding the gravy train
我々はこれを「ボロ儲けの列車(グレイヴィー・トレイン)に乗る」と呼んでいるのさ。

[Guitar Solo Outro]
※デヴィッド・ギルモアによる、ブルージーで怒りに満ちたギター・ソロ。レコード会社の欺瞞に対する苛立ちや、自分たちも結局はそのシステムに組み込まれてしまったという自己嫌悪が、火花を散らすように表現されている。このソロは最終的にラジオのチューニング音のようなノイズに飲み込まれ、次曲「Wish You Were Here」へとシームレスに繋がっていく。

 

Have a Cigar

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