Artist: Pink Floyd
Album: Wish You Were Here
Song Title: Welcome To The Machine
概要
1975年の名盤『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』に収録された、巨大な音楽産業(マシーン)の冷酷な搾取構造と、ロック・スターという偶像の虚構性を痛烈に告発したエレクトロニックな楽曲である。前曲「Shine On You Crazy Diamond」で哀悼されたシド・バレットを精神崩壊へと追い込み、さらには『狂気(The Dark Side of the Moon)』の歴史的成功によって現在のバンド自身をも呑み込もうとしている資本主義的システムの恐ろしさがテーマだ。リチャード・ライトが操るVCS3やミニモーグ・シンセサイザーの機械的で冷徹なパルス音が、個人のアイデンティティを画一化して消費する「工場」のような産業の無慈悲さを見事に音響化している。
和訳
[Instrumental Intro]
※機械の稼働音や工場のプレス機のようなインダストリアルなシンセサイザーのノイズが鳴り響く。人間性を完全に排除した「音楽産業」という巨大な自動装置の扉が開かれる、威圧的でディストピア的なオープニングである。
[Verse 1: David Gilmour]
Welcome my son
ようこそ、我が息子よ。
※「息子(son)」という親しげな呼称は、レコード会社の重役が若いミュージシャンをパターナリズム(温情主義)で丸め込み、搾取しようとする偽善的な態度を暗示している。
Welcome to the machine
この巨大な機械(マシーン)へようこそ。
※「マシーン」とは、アーティストの純粋な才能と魂を搾取し、画一的な商品として大量生産する音楽業界(ひいては資本主義システム全体)の冷酷なメタファーである。
Where have you been?
今までどこで何をしていたんだい?
It's all right, we know where you've been
いや、言わなくていい。お前がどこにいたかなんて、我々はすべてお見通しさ。
※プライバシーや個人の内面すらもシステムによって監視・管理されているという、全体主義的な恐怖。アーティストの過去や反抗心すらも、彼らにとっては計算済みのマーケティング要素に過ぎない。
You've been in the pipeline filling in time
お前はパイプラインの中にいて、無為に時間を潰してきたのだろう。
※「パイプライン」は、社会が用意した画一的な教育制度や規範のこと。マシーンの歯車となるための準備期間である。
Provided with toys and scouting for boys
与えられた玩具で遊び、ボーイスカウトの真似事なんかをしてな。
You bought a guitar to punish your ma
お前は母親への腹いせに、ギターを買い込んだ。
※ロックンロールの初期衝動である「親(権威)への反抗」や「怒り」すらも、システム側から見れば、よくある陳腐な若者のテンプレ(型)に過ぎないと一蹴している残酷なフレーズ。
You didn't like school and you know you're nobody's fool
学校が嫌いで、自分は誰の言いなりにもならない賢い人間だと思い上がっていたんだろう。
※若者特有の「自分は特別だ」という自意識。しかし、その反骨精神すらも音楽産業という機械にとっては、「反逆児というパッケージ」として消費するための極上の餌に過ぎない。
[Refrain]
So welcome to the machine
だからこそ、このマシーンへようこそ。
[Instrumental Break]
※アコースティック・ギターの冷たいカッティングとシンセサイザーが交錯し、後戻りのできないシステム内部へと引きずり込まれていくような閉塞感を描写している。
[Verse 2: David Gilmour]
Welcome my son
ようこそ、我が息子よ。
Welcome to the machine
このマシーンへようこそ。
What did you dream?
お前はどんな夢を見ていたんだい?
It's all right, we told you what to dream
いや、いいんだ。お前が見るべき夢は、我々がすでに教え込んであるからな。
※人間の最も自由で個人的なものであるはずの「夢(将来の希望や憧れ)」すらも、メディアや広告産業によってあらかじめ植え付けられたフェイク(偽物)であるという、戦慄の事実の突きつけ。
You dreamed of a big star
お前は、偉大なロックスターになることを夢見ていた。
He played a mean guitar
いかしたギターを弾き鳴らす男。
He always ate in the Steak Bar
いつも高級なステーキ・バーで食事をして。
He loved to drive in his Jaguar
自慢のジャガーを乗り回すことを愛するような男さ。
※「ステーキ」や「ジャガー」といった即物的な富の象徴。前作『狂気』の「Money」で批判した成金的なブルジョワジーの価値観を、無批判にロックの成功の証として受け入れてしまっている大衆と若きミュージシャンの浅薄さを皮肉っている。
[Refrain]
So welcome to the machine
だからこそ、このマシーンへようこそ。
[Synthesizer Solo]
※ライトによるミニモーグの唸るようなソロ。システムに完全に飲み込まれ、個人の自我が解体・吸収されていく過程の断末魔のように響き渡る。
[Outro]
(People talking and laughing)
(人々の話し声と笑い声)
※音楽業界のパーティーを思わせる、虚飾に満ちた喧騒。個人の芸術性や魂の叫び、あるいはシド・バレットのような悲劇すらも、こうした俗物的な社交の場でただのBGMや金儲けのネタ(消費財)として扱われていくという、絶望的でシニカルなエンディングである。
