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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Childhood's End - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Obscured by Clouds

Song Title: Childhood's End

概要

1972年発表のアルバム『雲の影(Obscured by Clouds)』に収録された、デヴィッド・ギルモアの単独作詞・作曲による楽曲である。タイトルはアーサー・C・クラークの同名SF小説(『幼年期の終り』)から採られており、無垢な少年時代の喪失と過酷な現実への直面、そして人間の死すべき運命という哲学的なテーマを描き出している。特筆すべきは、本作がシド・バレット脱退後、長きにわたりロジャー・ウォーターズが作詞の主導権を握る中で、ギルモアが単独で作詞を手がけた最後の楽曲(1987年の『鬱』まで)であるという点だ。刻むようなベースラインと時計の秒針を思わせるリズム、そして「時間」と「死」を俯瞰する冷徹な視点は、次作『狂気(The Dark Side of the Moon)』における歴史的名曲「Time」の音楽的・テーマ的なプロトタイプとして、フロイド史において極めて重要な位置を占めている。

和訳

[Instrumental Intro]
※重く刻まれるリズムは、否応なしに進んでいく「時間」の歩みや、迫り来る過酷な現実へのカウントダウンを暗示している。

[Verse 1]
You shout in your sleep
君は眠りの中で叫び声を上げる。
※無意識下で抑圧された恐怖や罪悪感の表出。

Perhaps the price is just too steep
おそらく、その代償はあまりにも高すぎたのだろう。
※大人になること(あるいは資本主義社会で成功を収めること)の代償としての、精神的な無垢さ(イノセンス)の喪失。

Is your conscience at rest
君の良心は、安らぎを得ているだろうか。

If once put to the test?
もし一度でも、試練に晒されたとしたら?
※過酷な現実社会において、道徳や良心を保ち続けることの困難さを突きつけている。

You awake with a start
君はハッと目を覚ます。

To just the beating of your heart
自らの心臓の鼓動だけを感じながら。
※次作『狂気』のオープニングを飾る「心音」のモチーフがすでにここに現れている。生の確認であると同時に、死に向かって時を刻む時計のようでもある。

Just one man beneath the sky
この空の下にいる、ただ一人の人間。

Just two ears, just two eyes
ただ二つの耳と、ただ二つの目を持った。
※大いなる宇宙や自然(空)の前に置かれた、人間の圧倒的な矮小化と孤独の実存的表現。

[Verse 2]
You set sail across the sea
君は海を越えて船出する。

Of long past thoughts and memories
遠い過去の思考と記憶の海を。

Childhood’s end, your fantasies
幼年期の終わり。君の幻想は、

Merge with harsh realities
過酷な現実と混ざり合っていく。
※アーサー・C・クラークのSF小説『幼年期の終り』からの引用。人類の進化や、個人の成長過程における「イノセンスの喪失」というフロイドの永遠のテーマ。

And then as the sail is hoist
そして、帆が巻き上げられる時。

You find your eyes are growing moist
君は自らの瞳が、涙で潤んでいくのに気づく。

And all the fears never voiced
そして、決して口に出されることのなかったすべての恐怖が、

Say you have to make your final choice
君に「最後の選択」を下さなければならないと告げるのだ。
※後戻りのできない大人への通過儀礼。自分の生き方(あるいは死に方)を自らで決断しなければならないという重圧。

[Guitar Solo]
※ギルモアによるエモーショナルで切り裂くようなギターソロ。若さと無垢さへの決別、そして避けられない死(終焉)に向かっていく焦燥感が表現されている。この鋭いトーンとリズムのアプローチは、「Time」のギターソロへの直接的な架け橋である。

[Verse 3]
Who are you and who am I
君は誰で、僕は誰なんだろうか。

To say we know the reason why?
僕たちが「その理由を知っている」だなんて、どの口が言えるというのか?
※世界の不条理や人間の運命に対する、絶対的な不可知論。

Some are born, some men die
ある者は生まれ、ある者は死んでいく。

Beneath one infinite sky
ただ一つの、無限の空の下で。

There’ll be war, there’ll be peace
戦争が起こることもあれば、平和が訪れることもあるだろう。

But everything one day will cease
しかし、いつの日かすべては終わりを迎えるのだ。
※万物は流転し、最終的には無に帰すという虚無主義的かつ達観した視点。

All the iron turned to rust
すべての鉄は錆へと変わり。

All the proud men turned to dust
誇り高き男たちもすべて、ただの塵となる。
※人間の文明(鉄)や傲慢さ(誇り)も、時間の前では無力であるという冷徹な真理。

And so all things, time will mend
だから、すべてのことは時間が解決してくれる。

So this song will end
だから、この歌もここで終わるのだ。
※「Time(時間)」というキーワードが明確に提示され、楽曲自体が唐突にメタ的な視点で終わりを告げる。この「時間による終焉と風化」というテーマは、次作『狂気』においてアルバム全体を支配する巨大な強迫観念へと発展していく。

 

Childhood's End

Childhood's End

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