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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Wot's... Uh The Deal - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Obscured by Clouds

Song Title: Wot's... Uh The Deal

概要

1972年発表のアルバム『雲の影(Obscured by Clouds)』(バルベ・シュローダー監督の映画『ラ・ヴァレ』サウンドトラック)に収録された、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアの共作によるアコースティック・ナンバーである。美しいメロディとは裏腹に、テーマは「老い」と「音楽産業における成功の虚無感」という、極めて現実的かつ内省的なものである。かつては成功(約束の地)を夢見て外側から覗き込んでいた若者が、莫大な富と名声を得て内側に入った途端、魂の熱(風)を失い、ただ年老いていく姿が冷徹に描かれている。次作『狂気(The Dark Side of the Moon)』や『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』で爆発する資本主義批判と、ロック・スターという偶像に対するウォーターズの強烈な自己嫌悪が、すでにこの牧歌的な楽曲の中に静かに、しかし確実に芽生えている。バンドの過渡期における精神的疲労を記録した隠れた名曲だ。

和訳

[Verse 1]
Heaven sent the promised land
天が遣わした、あの約束の地。
※「約束の地」は、音楽業界における絶対的な成功や名声、あるいは莫大な富の暗喩である。

Looks alright from where I stand
僕が立っているこの場所からは、悪くない眺めに見える。

'Cause I’m the man on the outside looking in
なぜなら僕は、外側から中を覗き込んでいるだけの男だから。
※まだ成功を手にしていない、野心と渇望に満ちた若き日のバンドの姿を描写している。

Waiting on the first step
踏み出すべき、最初の一歩を待ちわびている。

Show me where the key is kept
鍵がどこに隠されているのか、僕に教えてくれ。

Point me down the right line because it’s time
正しい道筋を指し示してくれ、もう時間が来ているんだ。
※次作『狂気』の「Time」にも通じる、若さゆえの焦燥感。自分たちの才能が消費期限を迎える前に、システム(音楽産業)の中心へと到達したいという強迫観念である。

[Chorus]
To let me in from the cold
この寒空の中から、僕を中へと入れてくれ。

Turn my lead into gold
僕の鉛を、黄金へと変えてくれ。
※錬金術のメタファー。己の苦悩や才能(鉛)を、莫大な富や成功(黄金)へと錬成させたいという野心、あるいは資本主義社会における芸術の商業化への渇望を示している。

'Cause there’s a chill wind blowing in my soul
なぜなら、僕の魂の中には冷たい風が吹き荒れていて。

And I think I’m growing old
自分でも、老いさらばえていくのを感じているから。
※20代後半にしてすでに「老い」と「魂の枯渇」を自覚しているウォーターズの実存的な恐怖。物理的な年齢ではなく、創作への純粋な衝動が摩耗していくことへの恐れだ。

[Verse 2]
Flash the readies
札束をちらつかせてみせろ。
※「readies」は現金を示すイギリスの俗語。純粋な芸術の追求から、金銭が絡むビジネスへと変質していく音楽業界のリアルで醜悪な描写である。

Wot’s… uh the deal?
いったい…何の取引だって言うんだ?
※タイトル回収。資本主義のシステム(契約や搾取)に巻き込まれていく戸惑いと、金銭で音楽を切り売りしていくことへのシニシズム。

Got to make it to the next meal
次の食事にありつくために、やり遂げなきゃならない。

Try to keep up with the turnin' of the wheel
絶え間なく回る車輪に、必死で食らいついていくんだ。
※「車輪(wheel)」は果てしないツアー生活や、資本主義の無慈悲な歯車の暗喩である。

Mile after mile (Mile after mile)
何マイルも、何マイルも。

Stone after stone (Stone after stone)
墓標のようなマイルストーンを、次から次へと通り過ぎて。

Turn to speak but you’re alone
誰かに話しかけようと振り返っても、君は一人ぼっち。

Million miles from home, you’re on your own
故郷から百万マイルも離れた場所で、君は完全に孤独なのさ。
※シド・バレットという精神的支柱を失い、見知らぬ異国(アメリカ・ツアーなど)で摩耗していくメンバーの圧倒的な疎外感と人間不信。

[Chorus]
So let me in from the cold
だから、この寒空の中から僕を中へと入れてくれ。

Turn my lead into gold
僕の鉛を、黄金へと変えてくれ。

'Cause there’s a chill wind blowing in my soul
なぜなら、僕の魂の中には冷たい風が吹き荒れていて。

And I think I’m growing old
自分でも、老いさらばえていくのを感じているから。

[Piano & Guitar Solos]
[ピアノ&ギター・ソロ]
※リチャード・ライトのメランコリックなピアノと、デヴィッド・ギルモアのブルージーなギターが交錯する。商業的成功の裏で失われていく純粋さへの哀歌のように、美しくも物悲しく響く。

[Verse 3]
Fire bright by candlelight
ろうそくの火のそばで、炎が明るく燃えている。

And her by my side
そして、僕のそばには彼女がいる。
※過酷なツアーを終え、成功を収めた結果として、安定した家庭や富(暖炉や恋人)を手に入れた現在の状況への転換。

And if she prefers we need never stir again
もし彼女が望むなら、僕らはもう二度と、あくせく動き回る必要なんてないのさ。

Someone sent the promised land
誰かが、あの約束の地を遣わしてくれた。

And I grabbed it with both hands
そして僕は、それを両手でしっかりと掴み取ったんだ。
※かつて切望していた「黄金(巨大な成功)」をついに手に入れたという事実。

Now, I'm the man on the inside looking out
今や僕は、内側から外を眺める男になってしまった。
※1番の歌詞「外から中を覗く男」との残酷な対比。目標を達成し「システムの内側(既得権益層)」に入った途端に訪れる、どうしようもない虚無感と停滞を表現している。

[Outro]
Hear me shout, “Come on in!"
僕が叫ぶのを聞いてくれ。「中へ入ってこいよ!」と。

"What’s the news and where ya been?”
「最近どうだい、今までどこをほっつき歩いてたんだ?」
※かつての自分のように、外で凍えている若き野心家たち(あるいはシド・バレットの幻影)に対する、安全地帯からの空虚で偽善的な呼びかけ。

'Cause there’s no wind left in my soul
なぜなら、僕の魂の中には、もう吹き荒れる風など残っていないのだから。
※野心や創作の衝動(冷たい風)が完全に消え去り、ロック・ミュージシャンとしての精神が死を迎えたことの冷酷な宣言である。

And I’ve grown old
そうして僕は、すっかり年老いてしまった。
※富と引き換えに魂を売り渡し、ただ老いていく自分自身への自己告発。この底知れぬ虚無感こそが、フロイドの最大の傑作群を生み出す起爆剤となっていく。

 

Wot's... Uh the Deal?

Wot's... Uh the Deal?

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