Artist: Pink Floyd
Album: Meddle
Song Title: Seamus
概要
1971年発表の歴史的アルバム『おせっかい(Meddle)』に収録された、デヴィッド・ギルモアのペンによる牧歌的なアコースティック・ブルースである。タイトルの「シーマス」とは、ハンブル・パイのスティーヴ・マリオットの愛犬の名前。ギルモアが彼から犬を預かっていた際、ブルースのギターに合わせて遠吠えする習性を面白がって録音したという特異な制作背景を持つ。次曲に控える23分超の歴史的大作「Echoes」の直前に配置された本作は、過度な緊張感を解きほぐす意図的な息抜き(コミック・リリーフ)として機能している。プログレッシブ・ロックの巨星へと変貌していく直前のフロイドが残した、日常音の導入(ミュージック・コンクレート)とブルース・ルーツへの回帰が同居する、素朴でユーモラスな小品だ。
和訳
[Intro]
dog howling
(犬の遠吠え)
※スティーヴ・マリオットの愛犬シーマスの鳴き声。音楽の枠組みに動物の生音を取り込むこの無邪気な手法は、後年のアルバム『アニマルズ(Animals)』における犬や豚の鳴き声の導入という、極めて冷徹で社会風刺的なコンセプトへの布石としても興味深い。
[Verse]
I was in the kitchen
俺はキッチンにいた。
Seamus, that's the dog, was outside
シーマス、そう、あの犬は外にいたんだ。
※前作『原子心母』収録の「Alan's Psychedelic Breakfast」に続く、日常的でパーソナルな空間(キッチン)の描写。狂気や疎外感といった巨大なテーマを背負う以前の、等身大のブルース・マンとしてのギルモアの飾らない姿がある。
Well, I was in the kitchen
ああ、俺はキッチンにいてね。
Seamus, my old hound, was outside, mmm
俺の古い猟犬シーマスは、外にいたんだ。
※実際の飼い主はマリオットであるが、ここでは伝統的なデルタ・ブルースの定型句(盲目のブルース・マンと古い猟犬との孤独な生活)をなぞるように、ルーツ・ミュージックへのオマージュとして歌われている。
Well you know, the sun sinks slowly
なあ、分かるだろう。太陽がゆっくりと沈んでいく。
※「沈みゆく太陽」は、同作の「A Pillow of Winds」や前作の「Fat Old Sun」にも通じる、フロイド的なメランコリーと時間の無情な経過を象徴するモチーフである。
But my old hound dog sat right down and cried
それでも俺の古い猟犬は、そこに座り込んで吠え続けたのさ。
※犬の遠吠え(cried)とブルースにおける人間の悲哀(cry)を掛けた表現。次曲「Echoes」で描かれる深海のような絶対的孤独へと潜っていく前の、地上における最後の穏やかな夕暮れのスケッチである。
[Outro]
dog howling
(犬の遠吠え)
※素朴なブルース・セッションが終わりを告げる。この犬の鳴き声の余韻の中でレコードを裏返せば、いよいよピンク・フロイドの真骨頂である壮大な音響空間「Echoes」が幕を開ける。日常の光景から深淵なるインナースペースへの境界線を告げる、番犬の声のように響いている。
