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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Fearless - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Meddle

Song Title: Fearless

概要

1971年発表のアルバム『おせっかい(Meddle)』に収録された、デヴィッド・ギルモアとロジャー・ウォーターズの共作による楽曲である。ギルモアのオープンGチューニングを用いた牧歌的で力強いアコースティック・ギターのリフを軸に、社会の抑圧や権威に対する個人の「恐れなき(Fearless)」抵抗と孤高の歩みを描いている。歌詞に登場する「群衆に立ち向かう愚か者」は、権力者を嘲笑うシェイクスピア的な道化であると同時に、音楽業界のシステムから逸脱していったシド・バレットの姿とも重なる。また、楽曲の終盤にはリヴァプールFCのサポーター(コップ)がスタジアムで大合唱する「You'll Never Walk Alone」のフィールド・レコーディングが挿入されており、個人の孤独な闘いと、群衆の集団的な熱狂がシュルレアリスム的に交錯する、フロイドならではの多層的な傑作である。

和訳

[Verse 1]
You say the hill’s too steep to climb
君は、この丘は登るには急すぎると言う。

Chiding
僕を窘(たしな)めるようにね。

You say you’d like to see me try
僕が挑戦するのを、高みの見物といきたいらしい。

Climbing
この丘を登っていく姿を。

You pick the place and I’ll choose the time
君が場所を選べばいい、僕が時間を決めるから。
※「急な丘」は、常識や社会の規範に抗うことの困難さのメタファー。周囲の冷笑や引き止め(Chiding)に対し、決して迎合せず自らの意志で戦いの舞台を設定する個人の決意が示されている。

[Chorus]
And I'll climb the hill in my own way
そして僕は、僕自身のやり方でこの丘を登る。

Just wait a while for the right day
ふさわしい日が来るのを、もう少し待っていてくれ。

And as I rise above the tree line and the clouds
森林限界と雲を越え、高く昇っていく時。

I look down, hear the sound of the things you said today
眼下を見下ろし、今日君が口にした言葉の響きを聞くのだ。
※「森林限界と雲を越える」は、凡庸な大衆社会(雲の下)のノイズから完全に離脱し、孤高の境地へと到達することの暗喩。そこから見下ろすことで、かつての批判者の言葉がいかに矮小であったかを悟るのである。

[Verse 2]
Fearlessly the idiot faced the crowd
恐れることなく、その愚か者は群衆の前に立ち塞がった。

Smiling
微笑みを浮かべて。
※「愚か者(idiot)」は、タロットカードの「愚者」やシェイクスピアの道化のように、真理を見抜いているからこそ社会から狂人扱いされる存在。シド・バレットの無垢な狂気や、大衆に迎合しないアーティストの姿とも重なる。

Merciless the magistrate turns ’round
冷酷な判事が振り返る。

Frowning
不快げに眉をひそめて。
※「判事(magistrate)」は、社会のルールやシステムを押し付ける絶対的な権力・権威の象徴。のちの『ザ・ウォール』に登場する独裁的な裁判官(The Judge)のプロトタイプとも言える。

And who’s the fool who wears the crown?
一体、王冠を被っている愚か者は誰なんだ?
※権力者こそが真の愚か者であるという、ウォーターズの痛烈な反権威主義のメッセージ。社会の押し付けるヒエラルキーを根本から否定している。

[Chorus]
And go down in your own way
さあ、君自身のやり方で下っていくがいい。

And every day is the right day
どの一日だって、ふさわしい日なのだから。

And as you rise above the fear-lines in his brow
奴の額に刻まれた恐怖のシワを見下ろすほど、高く昇る時。
※「fear-lines(恐怖のシワ)」。権力者(判事)が不快げに眉をひそめるのは、実は彼ら自身が未知の存在やコントロールできない個人の自由を「恐れている」からだという鋭い人間観察である。

You look down, hear the sound of the faces in the crowd
君は眼下を見下ろし、群衆の顔が発するざわめきを聞くのだ。

[Outro]
Walk on, walk on, with hope in your heart
歩き続けろ、歩き続けろ、心に希望を抱いて。

And you'll never walk alone
君は決して、一人で歩くわけじゃない。

You'll never walk alone
君は決して一人じゃないんだ。
※ここから、ミュージカル『回転木馬』の劇中歌であり、イングランドのサッカークラブ・リヴァプールFCのアンセム「You'll Never Walk Alone」の大合唱フェードインしてくる。

Walk on, walk on, with hope in your heart
歩き続けろ、歩き続けろ、心に希望を抱いて。

And you'll never walk alone
君は決して、一人で歩くわけじゃない。

You'll never walk alone [cheering]
君は決して一人じゃないんだ。(大歓声)

Liverpool! [clapping] Liverpool! [clapping, cheering]
リヴァプール!(手拍子) リヴァプール!(手拍子と大歓声)

Liverpool! Liverpool! Liverpool! Liverpool! Liverpool! Liverpool! Liverpool! Liverpool!
リヴァプール!リヴァプール!……
※スタジアムのゴール裏(コップ)の熱狂的なフィールド・レコーディング。個人の孤独な闘いと高みへの到達を描いた楽曲の結末に、この究極の「集団的熱狂(トライブ)」を持ってきた意図は極めてアイロニカルである。これは個人の孤独を癒やす大衆の温かい連帯とも取れるが、同時に「孤高の境地に達しても、眼下には決して相容れない群衆の狂騒が広がっている」という、逃れられない疎外感の提示とも解釈できる。

 

Fearless

Fearless

  • ピンク・フロイド
  • ロック
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