Artist: Pink Floyd
Album: Atom Heart Mother
Song Title: Summer ’68
概要
1970年発表のアルバム『原子心母(Atom Heart Mother)』に収録された、キーボーディストのリチャード・ライトが作詞・作曲・ボーカルを務めた名曲である。1968年の夏、ピンク・フロイドがアメリカ・ツアーを行っていた際に経験した、グルーピーとの一夜限りの関係と、その後に襲い来る強烈な虚無感がテーマとなっている。ビーチ・ボーイズを彷彿とさせる華やかなボーカル・ハーモニーや、クラシカルで壮大なブラス・セクションのアレンジとは裏腹に、歌詞はロック・スターという偶像として消費されることへの疎外感と、真のコミュニケーションが欠如した関係性への冷ややかな眼差しに満ちている。ロジャー・ウォーターズの冷徹な社会批判とは異なるアプローチながら、音楽業界のシステムに対する孤独と疲弊を描き出した、ライトの非凡なソングライティング能力が光る重要なトラックだ。
和訳
[Intro]
Doo-doo, doo-doo-doo
ドゥードゥー、ドゥードゥードゥー。
Doo-doo, doo-doo-doo
ドゥードゥー、ドゥードゥードゥー。
[Verse 1]
Would you like to say something before you leave?
部屋を出て行く前に、何か言いたいことでもあるのかい?
Perhaps you'd care to state exactly how you feel
君が今どんな気分なのか、正確に言葉にしてくれたっていいんだぜ。
※肉体的な関係を持ちながらも、精神的な繋がりが全くない相手に対する皮肉と虚無感。
We say goodbye before we've said hello
僕たちは「こんにちは」と挨拶を交わす前に、「さよなら」を告げている。
※グルーピーとのインスタントな関係性を鋭く突いた秀逸なフレーズ。互いの人間性を知る前に肉体を重ね、そのまま別れていく虚しさを表現している。
I hardly even like you, I shouldn't care at all
君のことなどろくに好きでもないし、気にかける筋合いなんて全くないはずなのに。
We met just six hours ago, the music was too loud
出会ったのはほんの6時間前、音楽があまりにもうるさすぎたんだ。
※ライブ終演後の狂騒的なバックステージの情景。大音量のロック・ミュージックが、真のコミュニケーションを阻害するノイズとして機能している。
From your bed I gained a day and lost a bloody year
君のベッドで一日を得た代償として、僕は忌々しい一年を失ってしまった気分さ。
※「lost a bloody year」は、一夜の享楽の後に押し寄せる圧倒的な精神的疲労と、寿命さえ縮むような虚無感のメタファーである。
And I would like to know
だからこそ、僕は知りたいのさ。
[Chorus]
How do you feel? (How do you feel, ahh)
君はどんな気分なんだ?(どんな気分なんだい)
How do you feel? (How do you feel, ahh)
君はどう感じているんだ?(どんな気分なんだい)
※表向きは相手の感情を尋ねているが、実際は何も感じていない自分自身への問いかけ(あるいは麻痺した感情の確認)である。
Ba, ba-ba-ba-ba
バ、ババババ。
Ba-ba-ba-ba, ba-ba-ba-ba-ba-ba
ババババ、ババババババ。
Ba-ba-ba
バババ。
[Brass Solo]
※クラシックの素養を持つライトらしい、壮麗でありながらどこか哀愁を帯びたブラス・アレンジ。ポップな曲調に潜む孤独感を劇的に引き立てている。
[Verse 2]
Not a single word was said, the night still hid our fears
言葉一つ交わすこともなく、夜の闇は依然として僕たちの恐怖を隠していた。
Occasionally you showed a smile, but what was the need?
時折君は微笑みを見せたが、そんなものに何の意味があったというんだ?
I felt the cold far too soon in a room of 95
華氏95度(摂氏35度)の熱気こもる部屋の中で、僕はあまりにも早く寒気を感じていた。
※真夏の密室での情事の最中(あるいは直後)に襲い来る、圧倒的な精神の冷え込み。他者と肌を合わせても決して埋まらない、絶対的な孤独を描写している。
My friends are lying in the sun, I wish that I was there
友人たちは陽光の下で寝そべっている。僕もそこに行けたらいいのに。
※「友人たち」は他のバンドメンバーや、普通の青春を謳歌する若者たちを指す。暗いホテルの部屋で虚無的な関係に溺れる自分自身に対する自己嫌悪と、健全な日常への逃避願望。
Tomorrow brings another town, another girl like you
明日になればまた別の街へ行き、そしてまた君のような別の女の子が現れる。
Have you time before you leave to greet another man?
君の方は、ここを出て行く前に別の男に挨拶する時間は残っているのかい?
※ツアーと共に繰り返される、没個性的な出会いと別れのサイクル。相手もまた自分を「数多くのロック・スターの一人」としてしか消費していないという、互いに空虚な搾取の構造をシニカルに指摘している。
Just you let me know
とにかく、僕に教えてくれよ。
[Chorus]
How do you feel? (How do you feel, ahh)
君はどんな気分なんだ?(どんな気分なんだい)
How do you feel? (How do you feel, ahh)
君はどう感じているんだ?(どんな気分なんだい)
Ba, ba-ba
バ、ババ。
Ba-ba-ba, ba-ba-ba-ba-ba-ba-da-ba-ba, ba
バババ、ババババババダババ、バ。
Ba-ba-ba-ba-ba-ba
ババババババ。
[Brass Solo]
[ブラス・ソロ]
[Bridge]
Goodbye to you
君にさよならを。
Charlotte Pringle's due
シャーロット・プリングルがやって来る時間だ。
※「シャーロット・プリングル」は当時のロンドンにあったブティックの洋服の名前、あるいは別の女性の仮名など諸説ある。いずれにせよ、「次から次へと消費される空虚なスケジュール」を象徴するフレーズである。
I've had enough
もう、うんざりなんだ。
For one day
今日という一日にはね。
※ロック・スターという偶像を演じることへの限界。この疲弊感は、やがてバンド全体を覆う巨大な疎外感のテーマ(『ザ・ウォール』など)へと繋がっていく。
Ha-ah
ハァー。
Ha-ah
ハァー。
[Instrumental Outro]
※華やかなコーラスとブラスがカオスに混ざり合いながらフェードアウトしていく。華やかなロック界の表層と、その裏に潜むどうしようもない虚無感を音響として見事に表現したエンディングである。
