UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Sysyphus - Pink Floyd 【和訳・解説】


Artist: Pink Floyd

Album: Ummagumma

Song Title: Sysyphus

概要

1969年発表の2枚組アルバム『ウマグマ(Ummagumma)』のスタジオ盤に収録された、キーボーディストのリチャード・ライトによる単独制作のインストゥルメンタル組曲である。ギリシャ神話における「シーシュポスの岩(永遠に山頂へ大岩を押し上げる苦行)」をモチーフに、メロトロンの荘厳な響き、ピアノの内部奏法(弦を直接弾く・叩くなど)による前衛音楽、そして不協和音が交錯するミュジーク・コンクレートを展開している。ポップ・ソングの形式を完全に解体し、アルベール・カミュの実存主義にも通じる「無意味な徒労の反復」という根源的な苦悩を前衛的な音響空間として構築した、ライトの実験精神と孤独な哲学が結実した特異な傑作だ。

和訳

[Part I: 0:00-1:07]
[第1部:0:00-1:07]
※冒頭から響き渡るティンパニの連打とメロトロンの荘厳かつ不穏なコード進行は、神々から永遠の罰を下されたシーシュポスの絶望的な運命の幕開けを告げている。巨大な岩を前にした人間の無力さと、神話的なスケールの重圧が、クラシックの交響曲を思わせる重厚なアプローチで音響化されている。

[Instrumental]
※本楽曲には言語による歌詞は存在しない。シド・バレットという絶対的なソングライターの喪失後、メンバー4人がそれぞれLPの半面ずつを単独で制作するという特異なルールの下、ライトは言葉を完全に排除し、純粋な音響構築のみで人間の実存的なテーマを描き出す道を選んだ。

[Part II: 1:07-4:37]
[第2部:1:07-4:37]
※穏やかで叙情的なピアノの独奏から一転し、不協和音とピアノの内部奏法(鍵盤ではなく弦を直接弾いたり叩いたりする前衛的な手法)による混沌としたアヴァンギャルド空間へと突入する。巨大な岩を山頂へと押し上げるシーシュポスの肉体的な苦痛、筋肉の軋み、そして不条理な徒労に対する精神の悲鳴が生々しく表現されている。

[Instrumental]
※ジョン・ケージやカールハインツ・シュトックハウゼンといった現代音楽・前衛音楽からの強い影響が窺えるパート。ロック・バンドのキーボーディストという枠を越え、空間そのものを異化しようとするライトの狂気じみた実験性が剥き出しになっている。

[Part III: 4:37-6:26]
[第3部:4:37-6:26]
※突如として挿入されるテープの逆回転や、鳥のさえずりのような不可解なノイズ・コラージュ。シュルレアリスム的なこのパートは、疲労の極致にあるシーシュポスの脳内に渦巻く狂気や幻覚を暗示している。論理的な「言葉」の代わりに「狂気の音響化」という新たな表現手法を手に入れたことを裏付ける、恐ろしいまでのトリップ感覚である。

[Instrumental]
※現実世界から完全に遊離したインナースペースへの没入。このテープ・エフェクトやノイズによる無意識の表現は、のちのフロイドが社会の狂気やパラノイアを描き出す際の重要な音響的武器として洗練されていくことになる。

[Part IV: 6:26-13:25]
[第4部:6:26-13:25]
※メロトロンによる小鳥の鳴き声のような静寂の中から、やがて第1部の重厚なテーマが再び帰還する。これは、山頂まで押し上げた岩が再び下へと転がり落ち、同じ苦役をゼロから永遠に繰り返さなければならないという「無意味な徒労のサイクル」の決定的な表現である。

[Instrumental]
※ライトが一人きりのスタジオ作業で構築したこの冷酷な神話空間は、やがてロジャー・ウォーターズの強迫観念と結びつき、歴史的名盤『狂気(The Dark Side of the Moon)』における「逃れられない日常の反復」や「システムへの隷属」という社会的テーマへと引き継がれていく。ピンク・フロイドの実存主義的な哲学の萌芽が、この長大なインストゥルメンタルの奥底に沈殿しているのだ。

 

Sysyphus, Pt. 1

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Sysyphus, Pt. 2

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Sysyphus, Pt. 3

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Sysyphus, Pt. 4

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