Artist: Pink Floyd
Album: Ummagumma
Song Title: Set the Controls for the Heart of the Sun (Live)
概要
1969年発表の2枚組アルバム『ウマグマ(Ummagumma)』のライブ盤に収録された、ロジャー・ウォーターズ作による初期スペース・ロックの到達点である。スタジオ版(『神秘』収録)の冷ややかな虚無感を拡張し、ライブならではの呪術的で暴力的なインプロビゼーションを加えた本作は、シド・バレットを失った後のバンドが「音響空間の構築」という新たなアイデンティティを確立した歴史的証明だ。唐代の中国詩を引用した文学的な歌詞が、リチャード・ライトの中東風オルガンとニック・メイソンのトライバルなドラムと交錯し、太陽(絶対的な真理や狂気)へと向かって自ら破滅していくイカロス的な逃避行を、恐ろしいほどの没入感で描き出している。
和訳
[Verse 1]
Little by little the night turns around
少しずつ、夜が反転していく。
※唐代の詩人・李賀の詩からの引用とされる。闇(狂気や無意識)から光(現実)への移り変わり、あるいはその逆への不可逆的な進行を暗示している。
Counting the leaves which tremble at dawn
夜明けに震える葉の数を数えながら。
※極度の集中や強迫観念の表れ。トリップ状態(LSDの幻覚作用)における微細な自然現象への異常なまでの没入を示している。
Lotuses lean on each other in yearning
蓮の花は、切望の中で互いに寄りかかり合う。
※蓮は東洋思想において泥中から咲く悟りや純潔の象徴。シド・バレットという精神的支柱を失い、救済を求めるように互いに依存し合うバンドメンバーたちの孤独な連帯を隠喩している。
Under the eaves the swallow is resting
軒下では、ツバメが羽を休めている。
※静寂と仮初めの安息。やがて始まる狂気と破滅への壮絶な旅立ちを前にした、「嵐の前の静けさ」である。
[Refrain]
Set the controls for the heart of the sun
太陽の中心へと、操縦桿を合わせろ。
※本作の核心となるフレーズ。絶対的な真理(光)への到達願望と、それに伴う自己破滅(イカロス的な焼死)のダブルミーニングである。シド・バレットが自ら突き進んでしまった狂気の深淵への道程そのものとも解釈できる。
[Verse 2]
Over the mountain watching the watcher
山を越え、監視する者を見つめ返す。
※李商隠の詩からの引用。自己と他者、あるいは内面と外界の境界が曖昧になるサイケデリックなパラノイア(監視社会への強迫観念)の萌芽が、ウォーターズの詞作に早くも現れている。
Breaking the darkness, waking the grapevine
闇を打ち破り、ブドウの蔓を目覚めさせる。
One inch of love is one inch of shadow
一寸の愛は、一寸の影となる。
※愛という光が強ければ強いほど、喪失や絶望という影も濃くなるという東洋的な陰陽思想。シドに対する深い愛情が、そのまま彼を失った際の癒えないトラウマ(影)となった史実と重なる。
Love is the shadow that ripens the wine
愛とは、ワインを熟成させる影なのだ。
※苦悩や喪失(影)こそが、表現(ワイン=音楽)を深めるというウォーターズの冷徹な芸術至上主義が垣間見える。ライブ盤特有の重厚な音響が、この残酷な真理を一層引き立てている。
[Refrain]
Sеt the controls for the heart of thе sun
太陽の中心へと、操縦桿を合わせろ。
[Interlude]
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
※ライブ版における最大の聴きどころである。マントラのような呪術的な反復に乗せて、リチャード・ライトの中東風のオルガンとニック・メイソンのトライバルなドラムが暴れ狂う。理性や言語を完全に放棄し、聴く者を催眠状態へと誘い、精神の深淵へと引きずり込んでいく狂気のインプロビゼーションだ。
[Verse 3]
Witness the man who raves at the wall
壁に向かって狂ったように叫ぶ男を、とくと見よ。
※「壁(the wall)」という言葉がフロイドの楽曲に登場する極めて重要な瞬間。他者とのコミュニケーションを絶ち、自閉的な狂気の世界(壁の内側)で叫び続ける男の姿は、後年の歴史的名盤『ザ・ウォール(The Wall)』のコンセプトを完全に予見している。
Making the shape of his question to Heaven
天への問いかけを、その身で形作りながら。
Whether the sun will fall in the evening
夕暮れになれば、本当に太陽は沈むのかと。
※自然の摂理すら疑い始めるほどの精神の混乱。絶対的なもの(太陽=シドの才能や存在)がいずれ失われることへの恐怖と絶望である。
Will he remember the lesson of giving?
彼は、与えることの教訓を覚えているだろうか?
※才能を搾取されるアーティストの悲哀、あるいは音楽や愛を与えすぎた結果として空っぽになってしまったシド・バレットへの哀悼の意である。
[Refrain]
Set the controls for the heart of the sun
太陽の中心へと、操縦桿を合わせろ。
[Outro]
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
The heart of the sun, the heart of the sun
太陽の中心へ、太陽の中心へ……
※宇宙の果てへと消えていくようなエンディング。バンドがシドという太陽を失い、新たな暗黒の宇宙空間(ウォーターズ主導のプログレッシブ・ロック路線)を漂い始めたことを暗示するとともに、ライブ盤ならではの圧倒的な狂気の余韻を残して曲は幕を閉じる。
