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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Astronomy Domine (Live) - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: Ummagumma

Song Title: Astronomy Domine (Live)

概要

1969年発表の2枚組アルバム『ウマグマ(Ummagumma)』のライブ盤冒頭を飾る、初期ピンク・フロイドを代表するスペース・ロックの傑作である。オリジナルはシド・バレットが作詞・作曲し、1967年のデビュー作『夜明けの口笛吹き(The Piper at the Gates of Dawn)』に収録された。本作のライブ・バージョンでは、シド脱退後に加入したデヴィッド・ギルモアとリチャード・ライトがボーカルを分け合い、よりヘヴィで長尺なプログレッシブ・ロックへと進化を遂げている。宇宙空間の冷たさとLSDによる幻覚体験(インナースペース)が交錯するシドの天才的な言語感覚を、残されたメンバーたちが暴力的なまでの音響空間として再構築した、バンドの過渡期を象徴する歴史的録音である。

和訳

[Instruemntal Intro]
※重苦しいベースラインと不穏なギター、そしてモールス信号のようなオルガンが、これから始まる未知の領域(宇宙、あるいは狂気)への冷酷な旅の幕開けを告げる。

[Verse 1]
Lime and limpid green, a second scene
ライム色、そして澄み切った緑色。第二の場面が幕を開ける。
※極彩色の氾濫は、LSDによる共感覚的な幻覚(トリップ)の始まりを意味する。同時に、シド・バレット不在の「第二幕(a second scene)」を歩み始めたピンク・フロイド自身の状況とも奇妙にシンクロして響く。

A fight between the blue you once knew
君がかつて知っていた、青色との間での争い。
※「かつて知っていた青(現実、理性、あるいは過去の記憶)」と「新たな色彩(狂気や幻覚)」のせめぎ合い。自我が徐々に崩壊し、塗り替えられていく過程の恐怖を描写している。

Floating down, the sound resounds
下へと漂い落ちていく。その音が鳴り響く。

Around the icy waters underground
地下深くを流れる、氷のように冷たい水脈の周りで。
※「地下の冷たい水脈」は、人間の無意識の深層や死の世界を暗示する。宇宙(アウター・スペース)へ向かっているはずの視点が、極めて内省的な精神の深淵(インナー・スペース)へと転落していく点が、シド・バレットの詞作の恐ろしくも特異な点である。

Jupiter and Saturn, Oberon, Miranda and Titania
木星、土星、オベロン、ミランダ、そしてタイタニア。
※オベロン、ミランダ、タイタニアは天王星の衛星群。同時にシェイクスピアの『真夏の夜の夢』や『テンペスト』に登場する妖精たちの名前でもある。天文学的なスケールと、文学的で童話的な幻想が混然一体となっている。

Neptune, Titan, stars can frighten
海王星、タイタン。星々は、時に人を恐怖に陥れるのだ。
※広大な宇宙(あるいは肥大化した狂気)の前における人間の絶対的な孤独感。「stars can frighten(星々は人を怯えさせる)」という一節に、未知の領域へと踏み込んでしまったシドの根源的な恐怖が痛切に表出している。

[Verse 1]
Lime and limpid green, a second scene
ライム色、そして澄み切った緑色。第二の場面が幕を開ける。

A fight between the blue you once knew
君がかつて知っていた、青色との間での争い。

Floating down, the sound resounds
下へと漂い落ちていく。その音が鳴り響く。

Around the icy waters underground
地下深くを流れる、氷のように冷たい水脈の周りで。

Jupiter and Saturn, Oberon, Miranda and Titania
木星、土星、オベロン、ミランダ、そしてタイタニア。

Neptune, Titan, stars can frighten
海王星、タイタン。星々は、時に人を恐怖に陥れるのだ。
※同じ歌詞の反復は、呪文やマントラのように聴く者の意識を催眠状態へと誘い、さらに深い幻覚の底へと引きずり込んでいく。

[Instrumental Break: 2:40 - 7:18]
[インストゥルメンタル・ブレイク:2:40 - 7:18]
※約5分間に及ぶ圧倒的なインプロビゼーション(即興演奏)。リチャード・ライトの呪術的なオルガンと、デヴィッド・ギルモアの凶暴なスライド・ギターが空間を切り裂き、ロジャー・ウォーターズとニック・メイソンのリズム隊が破壊的なグルーヴを生み出す。シド・バレットのポップなサイケデリアを、より建築的でヘヴィな「プログレッシブ・ロック」へと変貌させた、残された4人の強烈な自己主張が刻まれている。

[Verse 2]
Blinding signs flap
目を射るようなサインが、バタバタと瞬く。

Flicker, flicker, flicker blam, pow, pow
チカチカ、チカチカ、チカチカ、ドカン、バキューン、バキューン。
※コミック雑誌の擬音語(オノマトペ)の直接的な引用。強烈な幻覚のフラッシュバックや、情報の過負荷によって脳内がショートしていく様を暴力的に表現している。

Stairway scare, Dan Darе, who's there?
階段の恐怖。ダン・デアよ、そこにいるのは誰だい?
※「ダン・デア」は1950年代のイギリスのSFコミック『イーグル』の主人公。幼少期の無邪気な宇宙への憧れ(ダン・デア)が、大人になった現在のドラッグによるパラノイア(階段の恐怖)へと変質してしまった悲哀が込められている。

[Outro]
Lime and limpid green, thе sounds around
ライム色、そして澄み切った緑色。音が鳴り響く。

The icy waters under
氷のように冷たい水の下で。

Lime and limpid green, the sounds around
ライム色、そして澄み切った緑色。音が鳴り響く。

The icy waters underground
地下深くを流れる、氷のように冷たい水脈の周りで。
※幻覚の世界から現実(地上)へ帰還することなく、永遠に地下水脈(狂気の深淵)を漂い続けるかのようにフェードアウトしていく。シド・バレットの悲劇的な運命を予見していたかのような、冷酷で美しいエンディングである。

 

Astronomy Domine (Live)

Astronomy Domine (Live)

  • ピンク・フロイド
  • ロック
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