Artist: Pink Floyd
Album: More
Song Title: Dramatic Theme
概要
1969年発表の映画サウンドトラック『モア(More)』の終盤に配置された、緊迫感と悲劇性を孕むインストゥルメンタル楽曲である。ロジャー・ウォーターズの反復的で重苦しいベースラインを軸に、リチャード・ライトの不穏なオルガンとデヴィッド・ギルモアの鋭く泣き叫ぶようなエレクトリック・ギターが交錯する。映画の主題である「ヒッピー・カルチャーの崩壊」と「ヘロイン依存による主人公の破滅」という決定的な局面に寄り添うサウンドスケープだ。シド・バレット脱退後のバンドが、映像と密接に結びついた「空間構築的な音響」という新たなアイデンティティを完全に手中に収め、後の大作主義へと向かう過渡期の重要な記録である。
和訳
[Instrumental]
※本楽曲には言語を用いた歌詞は存在しない。「Dramatic Theme(劇的な主題)」と名付けられたこの楽曲は、映画『モア』における主人公の悲劇的な結末(ヘロインの過剰摂取による死)を暗示する、重苦しくもエモーショナルな音響空間である。同じフレーズを冷徹に反復するロジャー・ウォーターズのベースが「逃れられない破滅の運命」を刻み、その上で泣き叫ぶデヴィッド・ギルモアのギターは、自我を失っていく人間の断末魔のようだ。言葉というコミュニケーション・ツールを放棄し、音の重なりだけで絶望や狂気の深淵を描き出すこのシネマティックな手法は、シド・バレットという言葉の魔術師を失ったピンク・フロイドが手にした新たな武器であり、後の『狂気(The Dark Side of the Moon)』や『ザ・ウォール(The Wall)』におけるドラマティックな音響構築の確かな原点として響いている。
