Artist: Pink Floyd
Album: More
Song Title: A Spanish Piece
概要
1969年発表の映画サウンドトラック『モア(More)』に収録された、デヴィッド・ギルモアのフラメンコ・ギター独奏と、彼自身の戯れ言のような台詞で構成された約1分間の小品である。映画の舞台であるスペイン(イビザ島)の土着的な空気を演出する一方で、テキーラを呷りながらステレオタイプな「メキシコ人/スペイン人」の悪漢を演じるギルモアの独白は、異国でドラッグに溺れ堕落していく映画の主人公たちの現実逃避と滑稽さをシニカルに浮き彫りにしている。ピンク・フロイドのディスコグラフィにおいては異色のコミック・ソング的アプローチだが、その根底には当時のヒッピー・カルチャーが抱えていた異文化の安直な消費や、享楽主義に対する冷ややかな視線が垣間見える。
和訳
Pass the tequila, Manuel
テキーラを回してくれ、マヌエル。
※映画の舞台であるイビザ島(スペイン)の空気を演出するステレオタイプな台詞。異国情緒を消費しながらドラッグやアルコールに溺れていくヒッピーたちの安直な享楽主義をシニカルに表現している。
glug, snort
(ゴクゴク、鼻を鳴らす音)
※酒を煽り、ドラッグ(コカインなど)を吸引するような生々しい擬音。映画『モア』の主題である薬物依存の退廃的な日常が、ブラックユーモアを交えて音響化されている。
Listen, gringo, laugh at my lisp and I kill you
よく聞け、グリンゴ(よそ者)。俺の舌足らずな喋り方を笑ったら、殺すぞ。
※「グリンゴ」は中南米における白人(よそ者)への蔑称。麻薬によるパラノイア(被害妄想)と、ヒッピー・カルチャーの裏側に潜む暴力性が、三流映画の悪役のような滑稽なトーンで演じられている。
I think
たぶんな。
※前段の凶暴な殺害予告を台無しにする、ひどく間の抜けた一言。薬物による酩酊で思考が定まらず、自らの言葉にすら責任を持てない主人公の空虚な自我を痛烈に皮肉っている。
Ah, this Spanish music
ああ、このスペインの音楽よ。
It sets my soul on fire
俺の魂に火を点けやがる。
※デヴィッド・ギルモア自身の見事なフラメンコ・ギターをバックに語られる台詞。異文化の表層だけを消費し「魂が燃える」と錯覚する、当時のフラワームーブメントの軽薄さへの冷ややかな自己言及とも受け取れる。
Lovely señorita
愛しのセニョリータ。
Your eyes are like stars
君の瞳は星のよう。
Your teeth are like pearls
君の歯は真珠のよう。
Your ruby lips
そして、ルビーのようなその唇……。
※陳腐でクリシェ(常套句)に満ちた愛の言葉の羅列。もはや真実のコミュニケーションは失われ、空虚な言葉のパッチワークしか紡ぎ出せなくなった人間の悲喜劇として、滑稽で不気味な余韻を残したまま楽曲は途切れる。
