Artist: Pink Floyd
Album: More
Song Title: More Blues
概要
1969年発表の映画サウンドトラック『モア(More)』に収録された、約2分半の短いインストゥルメンタル楽曲である。ピンク・フロイドとしては珍しい直球のスロー・ブルースであり、新加入のデヴィッド・ギルモアが根底に持つブルース・フィーリングが存分に発揮されている。映画の舞台であるイビザ島での退廃的なヒッピー生活や、ヘロインがもたらす気怠い酩酊感をそのまま音響化したようなルーズなジャム・セッションだ。シド・バレットという絶対的なソングライターを失ったバンドが、メンバー4人の生身のアンサンブルを通じて新たな音楽的アイデンティティを模索していた過渡期の生々しい記録であり、後の叙情的なギター・サウンドの原点とも言える小品である。
和訳
[Instrumental]
※本楽曲には言語による歌詞は存在しない。スローテンポで奏でられる気怠い12小節のブルース・ジャムは、映画『モア』におけるヘロインの酩酊感と、太陽の島で行き場を失っていく若者たちの虚無感を雄弁に物語っている。サイケデリック・ロックのアヴァンギャルドな文脈から登場したピンク・フロイドが、デヴィッド・ギルモアの加入によってブルースというルーツ・ミュージックの泥臭い肉体性を獲得し、それを単なる様式美としてではなく「退廃」や「喪失」を表現するためのサウンドスケープとして再解釈した瞬間である。言葉(論理)を排除したこのルーズなアンサンブルの中にこそ、シド・バレット脱退後の彼らが抱えていた重苦しい喪失感と、新たなバンドの再構築へ向けた手探りの歩みが静かに刻み込まれている。
