Artist: Pink Floyd
Album: More
Song Title: Main Theme
概要
1969年発表の映画サウンドトラック『モア(More)』に収録された、約5分半に及ぶ不穏でサイケデリックなインストゥルメンタル楽曲である。絶対的リーダーであったシド・バレットの脱退後、ピンク・フロイドが映像と結びついた「空間構築的サウンド(サウンドスケープ)」という新たなアイデンティティを確立していく過渡期を象徴する重要な一曲だ。ロジャー・ウォーターズの冷徹で反復的なベースラインと、リチャード・ライトによる前衛的なオルガンやテープ・エフェクトが絡み合い、麻薬に溺れていく若者たちの退廃と破滅への道程を見事に音響化している。このサウンドトラック制作で培われたアヴァンギャルドな実験精神と情景描写のスキルは、やがて歴史的名盤『狂気(The Dark Side of the Moon)』へと結実していくこととなる。
和訳
[Instrumental]
※本楽曲に言語による歌詞は存在しない。規則的で冷たいゴングの音色とベースラインで幕を開け、そこにファルフィッサ・オルガンやスライド・ギターが不気味に重なっていく。言葉を排除したこの長尺のサウンドスケープは、映画の舞台であるイビザ島の美しい自然風景の裏に潜む「麻薬(ヘロイン)の誘惑」と、徐々に正気を失っていく主人公の閉鎖的な内面世界(インナースペース)を克明に表現している。論理的なコミュニケーション・ツールである言語を必要としないこのアヴァンギャルドなアプローチは、シド・バレットという言葉の魔術師を失ったバンドが、音響そのもので人間の狂気や疎外感を描き出すという新たな武器を手に入れたことの力強い証明である。
