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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Crying Song - Pink Floyd 【和訳・解説】

Artist: Pink Floyd

Album: More

Song Title: Crying Song

概要

1969年発表の映画サウンドトラック『モア(More)』に収録された、ロジャー・ウォーターズ作詞・作曲による静謐なフォーク・バラードである。映画の主題である若者のヒッピー・カルチャーとヘロイン依存の光と影を映し出すように、デヴィッド・ギルモアの気怠く夢遊病のようなボーカルと、リチャード・ライトのヴィブラフォンが幻想的でメランコリックな音像を構築している。極端に切り詰められたシンプルな反復詞は、ドラッグによる多幸感から高揚、そして虚無感へと至る逃れられない下降のサイクルを暗示している。結句に登場する「岩を転がす」という聖書的なモチーフは、重圧からの解放や再生への希求であると同時に、シド・バレットを失い手探りで進むバンド自身の重い足取りをも重層的に響かせる、過渡期の隠れた名曲である。

和訳

[Instrumental Intro]
※アコースティック・ギターのまどろむようなアルペジオとヴィブラフォンの響きが、ドラッグによる白昼夢の世界へとリスナーを静かに引き込んでいく。

[Verse 1]
We smile and smile
僕たちは微笑み、そしてただ微笑み続ける。

We smile and smile
ただひたすらに、微笑み続けるんだ。

Laughter echoes in your eyes
君の瞳の奥で、笑い声が虚しく木霊している。
※ドラッグの初期衝動がもたらす多幸感と、それに耽溺する若者たちの姿。しかし「瞳の奥の木霊」という表現には、心と肉体が少しずつ乖離していくような離人症的な空虚さがすでに漂っている。

[Verse 2]
We climb and climb
僕たちは登り、そして登り続ける。

We climb and climb
ただひたすらに、登り続ける。

Footfalls softly in the pines
松の木立の中を、静かな足音だけが響いていく。
※「登る(climb)」は精神的な高揚状態(ハイになること)のメタファーである。現実世界から遠ざかり、静寂に包まれた自然(内面世界=インナースペース)の深みへと迷い込んでいくプロセスを描写している。

[Verse 3]
We cry and cry
僕たちは泣き、そしてただ泣き続ける。

We cry and cry
ただひたすらに、泣き続けるんだ。

Sadness passes in a while
この悲しみも、やがては過ぎ去っていくのだろう。
※薬効が切れた後の激しいパラノイアや虚無感、あるいは映画『モア』で描かれる破滅的な結末への予感。一時的な悲しみ(in a while)であると自分に言い聞かせる姿が、逆に抜け出せない依存のサイクルを強調している。

[Verse 4]
We roll and roll
僕たちは転がり、そして転がり続ける。

We roll and roll
ただひたすらに、転がり続ける。

Help me roll away the stone
どうか、この重い岩を転がしのけるのを手伝ってくれ。
※「岩を転がしのける(roll away the stone)」は、新約聖書におけるキリストの復活(墓の入り口の巨大な岩をどけること)に由来する「再生」や「解放」のメタファー。同時に、シーシュポスの神話のように「無意味な徒労を繰り返す」という呪いも暗示する。狂気の淵へ沈んだシド・バレットという十字架を背負いながら、新たなアイデンティティを模索するピンク・フロイド自身の切実な祈りとも読み取れる。

[Instrumental Outro]
※ギルモアのエレクトリック・ギターによる抑制の効いたソロ。悲哀と諦念を抱えたまま、あてのない漂流を続けるようなフェードアウトは、1970年代のフロイドが確立する「音響による孤独のスケッチ」の原点と言える。

 

Crying Song

Crying Song

  • ピンク・フロイド
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes