Artist: Pink Floyd
Album: A Saucerful of Secrets
Song Title: See-Saw
概要
1968年発表の第2作『神秘(A Saucerful of Secrets)』に収録された、キーボーディストのリチャード・ライトによる作詞・作曲・ボーカル曲である。表面的には兄と妹がシーソーで遊ぶ幼少期の牧歌的な情景を描いているが、その底流には「時間の残酷な経過」と「取り戻せない喪失」という重いテーマが横たわっている。シーソーの上下運動は、無垢な子供時代からの精神的な成長(上昇)と、狂気や死への転落(下降)のメタファーとして機能している。ライト自身はこの曲を過小評価していたが、メロトロンやヴィブラフォンを駆使した浮遊感のあるサイケデリックな音像は、シド・バレットというかつての無邪気な遊び仲間(兄弟)が精神の深淵へと沈み、もはやここにはいない(he's not there)というバンドの悲痛な現実を静かに、そして残酷に映し出している。
和訳
[Verse 1]
Marigolds are very much in love
マリーゴールドの花たちは、深く愛し合っている。
※「マリーゴールド」は太陽や生命の象徴であるが、同時に「絶望」や「悲哀」という花言葉も併せ持つ。幼少期の輝かしい記憶の中に、すでに暗い影が落ちていることを暗示している。
But he doesn’t mind
だが、彼はそんなこと気にしちゃいない。
Picking up his sister, he makes his way into the see-saw land
妹を抱き上げ、彼はシーソーの国へと向かっていく。
All the way she smiles
道すがら、彼女はずっと微笑んでいる。
[Refrain]
She goes up while he goes down
彼女がふわりと宙へ浮かぶ時、彼は下へと沈んでいく。
Down
深く、下へ。
※物理的なシーソーの動きであると同時に、社会へ適応し成長していく者(上昇)と、狂気や孤独の世界へと落ちていく者(下降=シド・バレットの暗喩)の決定的な運命の分岐を表している。
[Verse 2]
Sits on a stick in the river
川の中の棒切れの上に座り込み。
Laughter in his sleep
眠りの中で笑い声を立てている。
※現実世界から乖離し、夢や幻覚(インナースペース)の中でしか安らぎを得られなくなった精神状態の描写である。
Sister’s throwing stones, hoping for a hit
妹は石を投げ、それが当たるのを願っている。
※外界(妹)からのコミュニケーションの試み(石を投げる)だが、その意志が彼に届くことはない。
He doesn’t know so then
その時、彼は何も分かっていなかったのさ。
[Refrain]
She goes up while he goes down
彼女がふわりと宙へ浮かぶ時、彼は下へと沈んでいく。
Down
深く、下へ。
[Chorus]
Another time (Ah-ah)
また別の時間。(アー、アー)
Another day (Ah-ah)
また別の一日。(アー、アー)
A brother’s way to leave (Ahh-ah)
それが、兄貴の去り方だったんだ。(アー、アー)
※家族(あるいは初期バンドという疑似家族)からの離脱。シドがバンドから徐々にフェードアウトしていった痛ましい記憶と重なる。
Another time (Ah-ah)
また別の時間。(アー、アー)
Another day
また別の一日。
[Verse 3]
She’ll be selling plastic flowers
彼女はプラスチックの花を売るようになるだろう。
※成長した妹の姿。自然の「マリーゴールド」から人工的な「プラスチックの花」への変化は、無垢な幼少期の喪失と、冷徹な資本主義社会(フェイクな大人の世界)への適応を強烈に皮肉っている。
On a Sunday afternoon
ある日曜日の午後に。
Picking up weeds, she hasn’t got the time to care
雑草を抜きながら、彼女には気にかけている暇なんてない。
All can see, he’s not there
誰の目にも明らかだ。彼はもう、そこにはいない。
※「he's not there」は、シド・バレットの完全な不在の宣言である。現実社会に忙殺される者と、精神の彼方へ消え去った者との決定的な断絶が描かれている。
[Refrain]
She grows up for another man
彼女は別の男のために、大人になっていく。
※ここで歌詞が「goes up(上がる)」から「grows up(成長する)」に変化している。シーソーの遊びは決定的な終わりを告げた。
And he’s down
そして彼は、底へと沈みきってしまった。
[Chorus]
Another time (Ah-ah)
また別の時間。(アー、アー)
Another day (Ah-ah)
また別の一日。(アー、アー)
A brother’s way to leave (Ahh-ah)
それが、兄貴の去り方だったんだ。(アー、アー)
Another time (Ah-ah)
また別の時間。(アー、アー)
Another day
また別の一日。
Another time (Ah-ah)
また別の時間。(アー、アー)
Another day (Ah-ah)
また別の一日。(アー、アー)
A brother’s way to leave (Ahh-ah)
それが、兄貴の去り方だったんだ。(アー、アー)
(Ahh-ah, ahh-ah)
(アー、アー、アー、アー)
