Artist: Pink Floyd
Album: The Piper at the Gates of Dawn
Song Title: Pow R. Toc H.
概要
1967年のデビュー作『夜明けの口笛吹き(The Piper at the Gates of Dawn)』に収録された、バンドの実験精神と混沌が色濃く反映されたアヴァンギャルドなインストゥルメンタル楽曲である。タイトルは、イギリスの軍隊向け休養施設をルーツに持つキリスト教系の慈善団体「Toc H(トック・エイチ)」と、「Power(力)」の略記と推測される「Pow R.」を組み合わせた暗号的なものだ。シド・バレットとロジャー・ウォーターズによる、密林の猿や鳥のような異様なヴォイス・パフォーマンスと狂気じみた叫び声が空間を支配している。後の『ウマグマ』における極限の音響実験や、『狂気』へと至る「人間の内なる狂気と野生の表出」というピンク・フロイド特有のサウンドスケープの原点として、ロック史においても極めて重要な位置を占める一曲である。
和訳
[Instrumental and Screams]
※本楽曲には明確な言語を用いた歌詞が存在せず、シド・バレットとロジャー・ウォーターズによるジャングルを思わせる奇声、動物的なノイズ、そして言語化される前の原初的な叫びが中心となっている。理性や文明、あるいは道徳を象徴する慈善団体の名(Toc H)を冠しながらも、その内実は理性のタガが外れ、人間の奥底に潜む「狂気」や「野生」が剥き出しになった音響空間である。言葉という論理的なコミュニケーション・ツールを放棄し、本能的な叫びへと退行していくこのアプローチは、やがて言葉を失い精神の深淵へと沈んでいくシド・バレット自身の未来を無意識に暗示した、不気味かつ予言的なメタファーとして響く。
