Artist: Kendrick Lamar
Album: To Pimp a Butterfly
Song Title: Hood Politics
概要
本作は、ケンドリック・ラマーがコンプトンのストリートで培った価値観と、ラップ業界やアメリカ社会に蔓延する「ポリティクス(政治・しがらみ)」を比較し、その本質的な類似性を鋭く突いた痛烈な楽曲である。国家の中枢である民主党と共和党の対立を、コンプトンの二大ギャングであるクリップスとブラッズになぞらえた「Demo-Crips and Re-Blood-icans」というパンチラインはヒップホップ史に残る名言だ。さらに、Big Seanの楽曲「Control」でシーン全体に宣戦布告した自身のヴァースが業界に与えた波紋や、Snoop DoggやJay-Zらとのエピソードを交え、名声を得て「新たな戦争」に巻き込まれていくラッパーとしての葛藤をSufjan Stevensの美しいサンプリング・ビートに乗せてシニカルに描いている。
和訳
[Intro: Dr. Dre]
K-Dot, pick up the phone, nigga
K-Dot、電話に出ろよ、ニガ。
Every time I call, it's going to voicemail
俺が電話するたび、毎回留守電になりやがる。
Don't tell me they got you on some weirdo rap shit, nigga
お前が何か変なラップに手を出してるなんて言わないでくれよ、ニガ。
No socks and skinny jeans and shit, ha
靴下も履かずにスキニージーンズとか穿いてさ、ハハ。
※当時流行していたヒップスター的なラッパーのファッションを揶揄している。西海岸のレジェンドDr. DreがK-Dot(ケンドリックの旧名)に対して、ストリートのルーツを見失っていないか確認するスキット。
Ha-ha-ha-ha-ha-ha-ha-ha-ha-ha-haha
ハハハハハハ。
Call me on Shaniqua's phone!
シャニクアの電話から折り返せよ!
※Shaniquaは典型的な黒人女性の名前。ゲットーの日常的な空気感を演出している。
[Chorus: Kendrick Lamar]
I been A-1 since day one, you niggas boo-boo
俺は最初からA-1(最高級)だ、お前らはブーブー(クソ)だぜ。
※A-1=最上級。boo-boo=「ウンコ」や「失敗」を意味する幼児語であり、フェイクなラッパーたちを子供扱いして見下している。
Your home boy, your block that you're from, boo-boo
お前のダチも、お前の地元(ブロック)も、ブーブーだ。
Lil' hoes you went to school with, boo-boo
お前と同じ学校に通ってたビッチどもも、ブーブーだ。
Baby mama and your new bitch, boo-boo
お前の子供の母親も、新しい女も、ブーブーだ。
We was in the hood, fourteen with the deuce-deuce
俺たちはフッドにいて、14歳で22口径の銃(deuce-deuce)を持ってた。
Fourteen years later, going hard like we used to
それから14年後、今でも昔みたいにハードにカマしてるぜ。
※14歳から14年後、つまり当時28歳のケンドリックが現在もストリートのメンタリティを保持していることを示している。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
※On the dead homies=西海岸ギャングが使う、自身の言葉が真実であることを示す誓いのフレーズ。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
[Verse 1: Kendrick Lamar]
I don't give a fuck about no politics in rap, my nigga
ラップゲームのポリティクス(政治・しがらみ)なんて知ったこっちゃねえよ、マイ・ニガ。
Our lil' homie Stunna Deuce ain't never comin' back, my nigga
俺たちの可愛いダチ、スタナ・デュースはもう二度と帰ってこねえんだ、マイ・ニガ。
※Stunna Deuceは亡くなった地元の友人。業界のしがらみよりも、ストリートで仲間を失った現実の方が彼にとっては重い。
So you better go hard every time you jump on wax, my nigga
だからお前は、ワックス(レコード・録音)に向かう時は毎回全力でカマさなきゃならねえんだよ。
Fuck what they talkin' 'bout, your shit is where it's at, my nigga
奴らが何を言おうがクソくらえだ、お前の音楽こそが本物(最前線)なんだぜ。
Came in this game, you stuck your fangs in this game
このゲームに参入して、お前はこのゲームに牙を突き立てた。
You wore no chain in this game, your hood, your name in this game
お前はこのゲームでチェーン(宝石)なんか着けず、ただ地元(フッド)と自分の名前だけを背負ってきた。
Now you double up, time to bubble up the bread and huddle up
今じゃ倍賭けだ、金(ブレッド)を稼いで、仲間と集まる時が来たぜ。
Stickin' to the scripts, now, here, if them Benjamins go cuddle up
台本(計画)通りに進めろ。さあ、ここで100ドル札(ベンジャミン)が寄り添ってくるならな。
Skip, hop, drip, drop
スキップして、ホップして、滴り落ちる。
Flip, flop with the white tube sock
白いチューブソックスを履いて、フリップフロップ(サンダル)を鳴らす。
※LAのギャングやチカーノの典型的なリラックスしたスタイル(靴下にサンダル)の描写。
It goes, "Sherm sticks, burn this"
そいつはこう言う、「シャーム・スティックだ、これに火をつけな」ってな。
※Sherm stick=PCP(エンジェルダスト)などの薬物を浸したタバコやマリファナ。
That's what the product smell like when the chemicals mix
化学物質が混ざり合った時、その製品(プロダクト)はそういう匂いがするのさ。
50-nigga salute, out the Compton zoo, with the extras
コンプトンの動物園から抜け出した50人のニガの敬礼、さらにエキストラ付きだ。
El Co's, Monte Carlos, Road Kings, and dressers
エルカミーノ、モンテカルロ、ロードキングにドレッサー(カスタムバイク)。
※西海岸のストリートで愛されるクラシックカーやハーレーダビッドソンの車種。
Rip Ridaz, P-Funkers, Mexicans, they fuck with you
クリップスも、ブラッズも、メキシコ系も、お前を認めてるぜ。
※Rip Ridaz=Crips系のギャング。P-Funkers=Piru Bloods系のギャング。対立するギャングや人種を超えてケンドリックが支持されていることを示す。
Asians, they fuck with you, nobody can fuck with you
アジア系もお前を認めてる。誰も、お前には敵わねえよ。
[Chorus: Kendrick Lamar]
I been A-1 since day one, you niggas boo-boo
俺は最初からA-1だ、お前らはブーブーだぜ。
Your homeboy, your block that you're from, boo-boo
お前のダチも、お前の地元も、ブーブーだ。
Lil' hoes you went to school with, boo-boo
お前と同じ学校に通ってたビッチどもも、ブーブーだ。
Baby mama and your new bitch, boo-boo
お前の子供の母親も、新しい女も、ブーブーだ。
We was in the hood, fourteen with the deuce-deuce
俺たちはフッドにいて、14歳で22口径の銃を持てた。
Fourteen years later, going hard like we used to
それから14年後、今でも昔みたいにハードにカマしてるぜ。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
[Verse 2: Kendrick Lamar]
Hopped out the Caddy, just got my dick sucked
キャデラックから飛び降りたところだ、ちょうどフェラされた後にな。
The little homies called and said, "The enemies done cliqued up"
年下のダチから電話があって、「敵同士が手を組みやがった」って言ってきた。
Oh, yeah? Puto want to squabble with mi barrio?
あぁ、そうかよ?あのクソ野郎(Puto)が、俺のシマ(mi barrio)と揉めたいってのか?
※Puto(クソ野郎)やmi barrio(私の地元)など、LAのチカーノ(メキシコ系)のスラングを交えている。
Oh, yeah? Tell 'em they can run it for the cardio
あぁ、そうかよ?有酸素運動(カーディオ)のために走らせてやれって奴らに伝えな。
※逃げ回ることになるぞ、という警告。
Oh, yeah? Everything is everything, it's scandalous
あぁ、そうかよ?何もかもがスキャンダラス(最悪の事態)だ。
Slow motion for the ambulance, the project filled with cameras
救急車がスローモーションでやって来る。団地(プロジェクト)はカメラでいっぱいだ。
The LAPD gamblin', scramblin', football numbers slanderin'
ロス市警(LAPD)はギャンブルみたいに動き回り、フットボールの背番号みたいな長い刑期をふっかけやがる。
※football numbers=フットボール選手の背番号のような大きな数字(数十年単位の重い懲役)を意味するスラング。
Niggas' names on paper—you snitched all summer
書類にニガたちの名前が載ってる——お前はひと夏中チクり(密告)やがったな。
Streets don't fail me now
ストリートよ、今こそ俺を裏切らないでくれ。
They tell me it's a new gang in town
街に新しいギャングが現れたって聞いたぜ。
From Compton to Congress
コンプトンから、議会(コングレス)にまでな。
Set-trippin' all around
あちこちで縄張り争い(セット・トリッピン)をしてやがる。
Ain't nothin' new but a flu of new Demo-Crips and Re-Blood-icans
目新しいことなんてねえ。新しい「デモ・クリップス(民主党+クリップス)」と「リ・ブラッディカンズ(共和党+ブラッズ)」のインフルエンザが蔓延してるだけさ。
※Democrats(民主党)とRepublicans(共和党)の政治的対立を、コンプトンのCripsとBloodsの血みどろのギャング抗争と同一視した歴史的なパンチライン。国家の中枢もストリートのギャングと本質は変わらないという強烈な皮肉。
Red state versus a blue state—which one you governin'?
赤い州(共和党/ブラッズ)対、青い州(民主党/クリップス)——お前はどっちを統治してんだ?
They give us guns and drugs, call us thugs, make it they promise to fuck with you
奴らは俺たちに銃とドラッグを与え、サグ(暴漢)と呼び、俺たちと関わることを公約にしやがる。
No condom, they fuck with you, Obama say, "What it do?"
コンドームなしで俺たちを犯し(搾取し)やがるんだ。オバマでさえ「調子はどうだ?」って言ってるぜ。
※政治家がゲットーの住民を食い物にしている状況。黒人初の大統領であるオバマでさえ、この巨大なポリティクスの構造の一部に過ぎないという虚無感。
[Interlude: Kendrick Lamar]
Obama say, "What it do?"
オバマが言う、「調子はどうだ?」
Obama say, "What it do?"
オバマが言う、「調子はどうだ?」
Obama say, "What it do?"
オバマが言う、「調子はどうだ?」
[Chorus: Kendrick Lamar]
I been A-1 since day one, you niggas boo-boo
俺は最初からA-1だ、お前らはブーブーだぜ。
Your homeboy, your block that you're from, boo-boo
お前のダチも、お前の地元も、ブーブーだ。
Lil' hoes you went to school with, boo-boo
お前と同じ学校に通ってたビッチどもも、ブーブーだ。
Baby mama and your new bitch, boo-boo
お前の子供の母親も、新しい女も、ブーブーだ。
We was in the hood, fourteen with the deuce-deuce
俺たちはフッドにいて、14歳で22口径の銃を持てた。
Fourteen years later, going hard like we used to
それから14年後、今でも昔みたいにハードにカマしてるぜ。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
On the dead homies
亡くなったダチに誓ってな。
[Verse 3: Kendrick Lamar]
Everybody want to talk about who this and who that
誰もが「あいつは誰だ」「こいつは誰だ」って語りたがる。
Who the realest and who wack, or who white or who black
誰が本物で誰がダサいか、誰が白人で誰が黒人かってな。
Critics want to mention that they miss when hip-hop was rappin'
評論家どもは「ヒップホップが純粋なラップだった頃が懐かしい」なんて言いたがる。
Motherfucker, if you did, then Killer Mike'd be platinum
クソ野郎、もし本当にそう思ってんなら、キラー・マイクがプラチナディスクになってるはずだろ。
※リリカルなラップを求めると口では言いながら、実際には社会派でスキルフルなKiller Mike(Run The Jewels)のようなラッパーがチャートを制覇していないという、リスナーやメディアの偽善を突いている。
Y'all priorities fucked up, put energy in wrong shit
お前らの優先順位は狂ってる。間違ったクソみたいなことにエネルギーを注いでるんだ。
Hennessy and Crown Vic, my memory been gone since
ヘネシーを飲んで、クラウン・ビクトリア(警察車両)に乗せられて以来、俺の記憶は飛んじまってる。
Don't ask about no camera blocking at award shows
授賞式でカメラを遮ったこととかなんて、聞いてくんな。
No, don't ask about my bitch, no, don't ask about my foes
いや、俺の女のことも、俺の敵のことも聞いてくんな。
'Less you askin' me about power, yeah, I got a lot of it
「権力」について聞きたいってんなら別だ。あぁ、俺はそれをたっぷり持ってるぜ。
I'm the only nigga next to Snoop that can push the button
スヌープの次に「ボタンを押せる(暴動を起こせる)」ニガは、俺しかいねえんだ。
※西海岸のレジェンドSnoop Doggに次ぐ絶対的な影響力を持ち、一声かければストリートを動かせるという強気なボースト。
Had the Coast on standby
西海岸(コースト)をスタンバイさせてたのさ。
"K. Dot, what up? I heard they opened up Pandora's box"
「K. Dot、調子はどうだ?奴らがパンドラの箱を開けちまったって聞いたぜ」
I box 'em all in, by a landslide
俺が奴ら全員を箱に閉じ込めてやったよ、圧倒的な差(地滑り的勝利)でな。
※Big Seanの「Control」という楽曲にケンドリックが客演し、同世代のトップラッパー全員に宣戦布告してシーンを激震させた事件(パンドラの箱)への言及。
Nah, homie, we too sensitive, it spill out to the streets
いや、ホーミー、俺たちは敏感すぎるんだ。それがストリートにまで溢れ出ちまう。
I make the call and get the Coast involved, then history repeats
俺が電話一本入れりゃ、西海岸全体が巻き込まれ、また歴史(東西抗争など)が繰り返される。
But I resolved inside that private hall while sitting down with Jay
でも俺は、ジェイ(Jay-Z)と一緒に座って、あのプライベートな空間で心を決めたんだ。
He said, "It's funny how one verse can fuck up the game"
彼は言ったよ、「たった一つのヴァースが、このゲーム全体をめちゃくちゃにしちまうなんて、笑えるよな」って。
※Jay-Zが「Control」のヴァースの余波についてケンドリックに語った実話。権力と影響力(ポリティクス)の恐ろしさを示している。
[Chorus: Kendrick Lamar]
I been A-1 since day one, you niggas boo-boo
俺は最初からA-1だ、お前らはブーブーだぜ。
[Poem: Kendrick Lamar]
I remember you was conflicted
覚えてるよ、お前が葛藤し、
Misusing your influence
自分の影響力を誤って使っていたことを。
Sometimes I did the same
時々、俺も同じことをしちまった。
Abusing my power full of resentment
俺は恨みに満ちて、自分の権力を濫用した。
Resentment that turned into a deep depression
その恨みは、深い鬱病へと変わっていった。
Found myself screaming in a hotel room
気がつけば、俺はホテルの部屋で絶叫していた。
I didn't want to self-destruct
俺は自己破壊なんかしたくなかった。
The evils of Lucy was all around me
ルーシー(悪魔)の邪悪な誘惑が、俺の周りを取り囲んでいた。
So I went running for answers
だから俺は、答えを求めて走り出したんだ。
Until I came home
俺が「故郷」に帰り着くまでな。
But that didn't stop survivor's guilt
だが、それでも「サバイバーズ・ギルト(生き残った者の罪悪感)」が消えることはなかった。
Going back and forth
行ったり来たりしながら。
Trying to convince myself the stripes I earned
自分がストリートで稼いできた「階級章(ストライプ)」を、自分自身に納得させようとした。
Or maybe how A-1 my foundation was
あるいは、自分の土台がいかに「A-1(最高級)」であるかってことをな。
But while my loved ones was fighting a continuous war
でも、俺の愛する者たちが、終わりのない戦争(ストリートの抗争)を戦っている間に。
Back in the city
故郷の街ではな。
I was entering a new one
俺は、新しい戦争(音楽業界のポリティクス)に足を踏み入れていたんだ。
※アルバムを通して朗読される詩。ストリートの抗争(Hood Politics)から逃れて成功を掴んだはずが、ラップ業界やアメリカ社会という「新たな戦争(Politics)」に巻き込まれていたことに気づくケンドリックの絶望と真理の探求を描いている。
