Artist: Kendrick Lamar
Album: To Pimp a Butterfly
Song Title: Momma
概要
本作は、名盤『To Pimp a Butterfly』の物語において大きな転換点となる重要な楽曲である。前曲「Alright」で絶望から立ち直ったケンドリックが、「答え」を求めて故郷(Momma)へ帰還する姿を描いている。ここで言う「故郷」とは、地元コンプトン、彼自身の内面、そして2014年に訪問し多大なインスピレーションを受けた祖先の地「南アフリカ」という三重のメタファーとなっている。Knxwledgeによる極上のサンプリング・ビートに乗せ、前半では成功を収め「すべてを知った」と驕る自身の姿を省み、後半ではアフリカで出会った自分そっくりの少年(ルーツの象徴)との対話を通して、真の無知を悟り自己探求へと向かう深い精神の旅が綴られている。
和訳
[Part I]
[Intro: Taz Arnold & Lalah Hathaway]
—that dream
——あの夢。
Oh, shit!
オー、シット!
I need that (So it seems)
俺にはあれが必要なんだ(どうやらそうみたいだね)。
I need that sloppy
あの泥臭くてドープなやつ(ビート)が必要なんだよ。
That sloppy (Yo, yo, yo, —that dream)
あの泥臭いやつがな(ヨー、ヨー、ヨー、——あの夢)。
Like a Chevy in quicksand
流砂にハマったシボレーみたいにな。
※Knxwledgeが提供した、重く引きずるような独特のグルーヴ感(Sloppy)を持つビートを表現している。
Yeah
イェー。
That sloppy (So it seems)
あの泥臭いやつさ(どうやらそうみたいだね)。
[Verse 1: Kendrick Lamar]
This feelin' is unmatched
この感覚は他じゃ味わえねえ。
This feelin' is brought to you by adrenaline and good rap
この感覚は、アドレナリンと極上のラップがもたらしてくれるんだ。
Black Pendleton ball cap (West, west, west)
黒いペンドルトンのベースボールキャップ(ウェスト、ウェスト、ウェスト)。
※ペンドルトンのシャツやアイテムは、西海岸のギャングスタ・カルチャーにおいて象徴的なファッションである。
We don't share the same synonym, fall back (West, west, west)
俺とお前じゃ同義語(レベル)にはなれねえ、すっこんでろ。(ウェスト、ウェスト、ウェスト)。
Been in it before internet had new acts
インターネットから新しい奴らが出てくる前から、俺はこのゲームにいたんだ。
Mimicking radio's nemesis made me wack (Ooh-ooh)
ラジオ受けするポップな奴らの真似事をしてた頃の俺は、マジでダサかったよ。
My innocence limited, the experience lacked
純粋さには限界があって、経験が足りなかったんだ。
Ten of us with no tentative tactic that cracked
俺たち10人は、突破口を開くような仮の戦術すら持ってなかった。
The mind of a literate writer, but I did it, in fact (Yeah)
文学的なライターの心境をな。でも実際、俺はやり遂げたんだ(イェー)。
You admitted it once I submitted it, wrapped in plastic
俺がプラスチック(CDケース)に包んで提出したら、お前らも認めたじゃねえか。
Remember scribblin', scratchin' diligent sentences backwards
勤勉な文章を後ろから書き殴って、何度も書き直してたのを覚えてるぜ。
Visiting freestyle cyphers for your reaction
お前らの反応を見たくて、フリースタイルのサイファーに顔を出してたこともな。
Now, I can live in a stadium, pack it the fastest
今じゃ俺はスタジアムに住めるくらいだ、最速で満員にしてみせるぜ。
Gamblin' Benjamin benefits, sinnin' in traffic
100ドル札(ベンジャミン)の利益を賭けて、渋滞の中で罪を犯す。
Spinnin' women in cartwheels, linen fabric on fashion
女たちを側転させて踊らせ、ファッションにはリネンの生地を纏う。
Winnin' in every decision, Kendrick is master that mastered it
あらゆる決断で勝利を掴む、ケンドリックはそれを極めたマスター(達人)さ。
Isn't it lovely how menaces turned attraction?
脅威だったものが、魅力に変わるってのは素晴らしいことだろ?
Pivotin' rappers, finish your fraction while writing blue magic
ラッパーどもを振り回し、極上のブツ(ブルー・マジック)を書きながら、お前らの取り分を終わらせてやる。
※blue magic=1970年代に流通した純度の高いヘロインの隠語であり、映画『アメリカン・ギャングスター』でも有名。ここではケンドリックの「中毒性の高いリリック」を指すメタファーである。
Thank God for rap
ラップの神様に感謝するぜ。
I would say it got me a plaque, but what's better than that?
ラップのおかげでプラチナの盾をもらえたって言いたいところだが、それよりも最高なのは何だと思う?
The fact it brought me back home
それは、ラップが俺を「家(故郷)」に連れ帰ってくれたって事実さ。
[Chorus: Lalah Hathway & Taz Arnold]
We been waitin' for you
私たちは、あなたをずっと待っていたわ。
※ここでの声は「アフリカ(母なる大地)」や「コンプトン(地元)」の象徴であり、迷えるケンドリックの帰還を歓迎している。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
[Verse 2: Kendrick Lamar]
I know everything
俺はすべてを知っている。
※ここから、富と名声を得たことで「自分はこの世のすべてを理解した」と錯覚している傲慢なケンドリックの視点になる。
I know everything, know myself
俺はすべてを知ってる、自分自身のことも分かってる。
I know morality, spirituality, good and bad health
道徳心も、精神性も、健康と不健康の違いだって知ってるさ。
I know fatality might haunt you
死の運命がつきまとうかもしれないってことも知ってる。
I know everything
俺はすべてを知っている。
I know Compton, I know street shit,I know shit that's conscious
コンプトンのことも、ストリートのヤバい事情も、コンシャス(意識高い)な物事も知ってる。
I know everything, I know lawyers, advertisement and sponsors
俺はすべてを知ってる。弁護士のことも、広告やスポンサーの仕組みだって分かってるぜ。
I know wisdom, I know bad religion, I know good karma
知恵も知ってる、悪い宗教も知ってるし、良いカルマのことも知ってる。
I know everything, I know history
俺はすべてを知ってる、歴史だって知ってるさ。
I know the universe works mentally
宇宙が精神的な力で動いてるってことも分かってる。
I know the perks of bullshit isn't meant for me
クソみたいな特権は、俺には向いてないってことも知ってるよ。
I know everything, I know cars, clothes, hoes, and money
俺はすべてを知ってる。車も、服も、ビッチどもも、金のことだってな。
I know loyalty, I know respect, I know those that's ornery
忠誠心も、リスペクトも知ってるし、厄介な連中のことも分かってる。
I know everything, the highs, the lows, the groupies, the junkies
俺はすべてを知ってる。頂点も、どん底も、グルーピーも、ジャンキーのこともな。
I know if I'm generous at heart, I don't need recognition
心から寛大であれば、他人からの承認なんて必要ないってことも知ってる。
The way I'm rewarded—well, that's God's decision
俺がどう報われるか——まあ、それは神の決めることさ。
I know you know that line's for Compton School District
あぁ、今のラインが「コンプトンの学区(学校)」に寄付したことへの言及だって、お前らも分かってるだろ。
Just give it to the kids, don’t gossip 'bout how it was distributed
ただ子供たちに与えればいいんだ、どう分配されたかなんて噂話をするんじゃねえ。
I know how people work
俺は人間の心理(働き)を知ってる。
I know the price of life, I'm knowin' how much it’s worth
命の代償も知ってるし、それがどれだけの価値を持つかも分かってる。
I know what I know, and I know it well not to ever forget
俺は自分の知っていることを知っているし、それを決して忘れないようにしっかりと理解してるんだ。
Until I realized I didn’t know shit, the day I came home
俺が「家に帰ってきたあの日」、自分がマジで何も知らなかったってことに気づくまではな。
※ソクラテスの「無知の知」を体現するライン。故郷(アフリカ)に帰り、己の知識が資本主義や西洋的な価値観に偏った表面的なものであったと悟る瞬間。
[Chorus: Lalah Hathway & Taz Arnold]
We been waitin' for you
私たちは、あなたをずっと待っていたわ。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
Waitin' for you
あなたを待っていたの。
[Verse 3: Kendrick Lamar]
I met a little boy that resembled my features
俺は、自分と顔立ちの似た小さな男の子に出会ったんだ。
※ケンドリックが2014年に南アフリカを訪れた際の実体験に基づく。この少年は、アフリカのルーツそのものであり、同時に「無垢だった頃のケンドリック自身」のメタファーでもある。
Nappy afro, gap in his smile, hand-me-down sneakers
チリチリのアフロヘアで、笑うとすきっ歯が見えて、お下がりのスニーカーを履いていた。
Bounced through the crowd
人混みの中を飛び跳ねて。
Run a number on man and woman that crossed him
すれ違う大人たちを手玉に取って(騙して)遊んでたよ。
Sun beamin' on his beady beads, exhausted
強い日差しが彼の編み込みのビーズに照りつけ、彼は疲れ切っていた。
Tossin' footballs with his ashy, black ankles
カサカサに乾燥した黒い足首を見せながら、アメフトのボールを投げていた。
Breakin' new laws, mama passed on home trainin'
新しいルールを破りながらな。ママが家庭のしつけを伝授してくれたんだろう。
He looked at me and said, "Kendrick, you do know my language
彼は俺を見て、こう言ったんだ。「ケンドリック、君は本当は僕の言葉(ルーツ)を知ってるんだよ。
You just forgot because of what public schools had painted"
ただ、公立学校が塗り固めた歴史(白人視点の教育)のせいで忘れちゃっただけさ」ってな。
※アメリカの教育システムが、黒人の真の歴史やアフリカのアイデンティティを奪い去ってしまった事実に対する鋭い批判。
Oh, I forgot, "Don't Kill My Vibe," that's right, you're famous
「あぁ、忘れてた。『Bitch, Don't Kill My Vibe』だっけ、そうだね、君は有名人だった。
I used to watch on Channel 5, TV was taken
昔は5チャンネルで見てたけど、今はテレビを没収されちゃってさ。
But never mind, you're here right now, don't you mistake it
でも気にするなよ、君は今ここにいる。それを勘違いしちゃダメだ。
It's just a new trip, take a glimpse of your family ancestor
これはただの新しい旅さ。君の家族の祖先(ルーツ)を垣間見ていきなよ。
Make a new list of everything you thought was progress
君がこれまで『進歩(成功)』だと思っていたもののリストを、新しく作り直すんだ。
And that was bullshit, I know your life is full of turmoil
そんなものは全部クソ(幻想)だったのさ。君の人生が混乱に満ちていることは分かってる。
Spoiled by fantasies of who you are, I feel bad for you
自分が何者であるかという幻想に甘やかされて、僕は君のことが気の毒に思えるよ。
※富や名声によって作られた「ラップスターとしてのKendrick Lamar」という虚像に対する、ルーツからの警告。
I can attempt to enlighten you without frightenin' you
君を怖がらせずに、啓蒙(本当のことを教える)することだってできる。
If you resist, I'll back off quick, go catch a flight or two
もし君が拒むなら、すぐに引き下がって、飛行機に乗って帰るよ。
But if you pick destiny over rest-in-peace
でも、もし君が『安らかな死(妥協・破滅)』よりも『本当の運命』を選ぶなら。
Then be an advocate, tell your homies, especially
その時は代弁者になってくれ。君のダチどもに、特に伝えてほしいんだ。
To come back home"
『故郷(ルーツ)へ帰ってこい』ってな」
[Part II]
[Interlude]
This is a world premiere (This is a world premiere)
これはワールド・プレミア(世界初公開)だ。
This is a world premiere (This is a world premiere)
これはワールド・プレミアだ。
This is a world premiere
これはワールド・プレミアだ。
[Refrain: Kendrick Lamar]
I been lookin' for you my whole life, an appetite
俺は生涯ずっと「お前」を探し求めてきた、渇望しながら。
※「you(お前)」は、心の平安、真理、神、あるいは「真の自分自身」を指す。
For the feeling I can barely describe, where you reside?
言葉じゃ到底言い表せないこの感覚を求めて。お前はどこにいるんだ?
Is it in a woman, is it in money or mankind?
それは女の中にあるのか?金の中か?それとも人類の中にあるのか?
I been lookin' for you my whole life, an appetite
俺は生涯ずっと「お前」を探し求めてきた、渇望しながら。
For the feeling I can barely describe, where you reside?
言葉じゃ到底言い表せないこの感覚を求めて。お前はどこにいるんだ?
Is it in a woman, is it in money, or mankind?
それは女の中にあるのか?金の中か?それとも人類の中にあるのか?
Tell me something, think I'm losing my mind, ah!
何か教えてくれよ、頭がおかしくなりそうなんだ、あぁ!
[Outro: Kendrick Lamar]
I say, where you at? From the front to the back
なぁ、どこにいるんだ?前から後ろまで探してるぜ。
I'm lookin' for you, I react only when you react
お前を探してるんだ。お前が反応した時にだけ、俺も反応できる。
Ah, I thought I found you, back in the ghetto
あぁ、ゲットーの奥深くで、お前を見つけたと思ったこともあった。
When I was seventeen with the .38 special
俺が17歳で、38口径の拳銃(スペシャル)を持ってた頃にな。
Maybe you're in a dollar bill, maybe you're not real
もしかしてお前はドル紙幣の中にいるのか?それとも本当は存在しないのか?
Maybe only the wealthy get to know how you feel
もしかすると、お前の感覚は金持ちにしか分からない特権なのか?
Maybe I'm paranoid, ha, maybe I don't need you anyway
たぶん俺は被害妄想(パラノイド)になってるんだな、ハハ、もしかしたらお前なんて必要ないのかもな。
Don't lie to me, I'm suicidal anyway
嘘はつかないでくれ、どっちみち俺には自殺願望があるんだから。
I can be your advocate
俺がお前の代弁者(アドボケイト)になってやるよ。
I can preach for you if you tell me what the matter is
何が問題(真理)なのか教えてくれりゃ、俺がお前の代わりに説教(ラップ)してやるからさ。
※少年から「代弁者になれ」と言われたケンドリックが、見えない「真理」に向かって語りかけるシーンで幕を閉じる。
