Artist: Kendrick Lamar
Album: To Pimp a Butterfly
Song Title: For Sale? (Interlude)
概要
本作は、アルバム序盤に収録された「For Free? (Interlude)」と明確に対をなす重要な楽曲である。「For Free?」では搾取されることへの怒りと自身の価値を主張していたのに対し、「For Sale?」では「ルーシー(Lucy=悪魔ルシファーの愛称)」と名乗る存在からの甘く危険な誘惑が描かれる。ルーシーは資本主義、物質主義、そして音楽業界そのものの暗喩であり、富や名声と引き換えにアーティストに魂の契約(For Sale)を迫ってくる。浮遊感のあるジャズとネオソウルが融合したサウンドは、誘惑の心地よさとそれに抗えない人間の弱さを表現しており、ケンドリックの抱える葛藤と精神的危機を浮き彫りにした極めてコンセプチュアルな一曲だ。
和訳
[Intro: Bilal]
Oh, oh, oh, oh, oh, oh
オー、オー、オー……
Oh (Doodle-doodle-ooh, woo-do-woo) We-ooh
オー……ウィーオー。
Oh, oh, oh, oh, oh, oh
オー、オー、オー……
Breathing
(荒い息遣い)
What's wrong, nigga?
どうしたんだよ、ニガ?
I thought you was keeping it gangsta
お前はギャングスタを貫いてると思ってたぜ。
I thought this what you wanted
これが別にお前の望んでたことだろ。
They say if you scared, go to church
ビビったんなら「教会に行け」ってよく言うよな。
※Ice Cubeの有名なパンチライン「If you scared, go to church(ビビッてるなら教会にでも行ってろ)」からの引用。
But remember, he knows the Bible too
だが覚えとけ、奴(悪魔)だって聖書のことは知ってんだぜ。
※どんなに神に救いを求めても、悪魔(誘惑)は巧みにその隙を突いてくるという絶望的な事実を示唆している。
[Chorus: Kendrick Lamar, Preston Harris & SZA]
Now, baby, when I get you, get you, get you, get you
なあベイビー、俺がお前を手に入れたらよ。
I'ma go hit the throttle with you
お前と一緒にスロットルを全開にしてやる。
Smokin', lokin', pokin' that deja 'til I'm idle with you
ハッパを吸って、イカれて、ダラダラするまでお前と一緒にキメまくるんだ。
※lokin'=クレイジーになること(Loco)。deja=マリファナを指すスラング。
'Cause I want you
だってお前が欲しいからさ。
Now, baby, when I'm ridin' here, I'm ridin' dirty
なあベイビー、俺がここをドライブする時は、いつでも違法なモン(クスリや銃)を積んでるぜ。
※ridin' dirty=車に違法薬物や銃器を積んで運転している状態。Chamillionaireのヒット曲「Ridin'」でもおなじみの表現。
Registration is out of service
車の登録証だって期限切れだ。
Smokin', lokin', drinkin' that potion, you can see me swervin'
ハッパ吸って、イカれて、あの魔法の薬(シロップ)を飲んで、フラフラ蛇行してんのが分かるだろ。
※potion=紫色の咳止めシロップ(リーン)を魔法の薬に例えている。
'Cause I want you
だってお前が欲しいからさ。
I want you more than you know
お前が思ってる以上に、俺はお前が欲しいんだ。
[Verse 1: Kendrick Lamar & Taz Arnold]
I remember you took me to the mall last week, baby
先週、お前が俺をショッピングモールに連れて行ってくれたのを覚えてるぜ、ベイビー。
※「お前」とはルーシー(悪魔・資本主義)のこと。「Wesley's Theory」でUncle Sam(アメリカ)が「ショッピングモールに住んでもいいぞ」と誘惑したラインとリンクしている。
You looked me in my eyes about four, five times
お前は4、5回、俺の目をじっと見つめてきた。
'Til I was hypnotized, then you clarified
俺がすっかり催眠術にかかるまでな。それからお前ははっきりと言った。
That I want you
俺はお前が欲しいんだって。
You said Sherane ain't got nothin' on Lucy
「シェレーンなんてルーシーの足元にも及ばないわ」ってお前は言ったよな。
※Sherane=ケンドリックの前作『good kid, m.A.A.d city』に登場した初恋の相手であり、トラブルの原因となった女性。ルーシーの誘惑がそれ以上に強力であることを示している。
I said, "You crazy?"
俺は「お前イカれてんのか?」って返したぜ。
Roses are red, violets are blue
バラは赤く、スミレは青い。
※英語圏の古典的な愛の詩の出だし。通常は「そして私はあなたを愛している」と続く。
But me and you both pushin' up daisies if I want you
でももし俺がお前を望んだら、俺たち2人ともヒナギクを押し上げることになる(死んじまう)んだ。
※pushin' up daisies=墓の下に埋まり、土からヒナギク(デイジー)を咲かせること。つまり「死ぬ」ことを意味するイディオム。悪魔の誘惑に乗れば破滅が待っているという自覚。
[Chorus: Kendrick Lamar & Preston Harris]
Now, baby, when I get you, get you, get you, get you
なあベイビー、俺がお前を手に入れたらよ。
I'ma go hit the throttle with you
お前と一緒にスロットルを全開にしてやる。
Smokin', lokin', pokin' that deja 'til I'm idle with you
ハッパを吸って、イカれて、ダラダラするまでお前と一緒にキメまくるんだ。
'Cause I want you
だってお前が欲しいからさ。
[Verse 2: Kendrick Lamar]
You said to me
お前は俺に言った。
You said your name was Lucy
自分の名前は「ルーシー」だってな。
I said, "Where's Ricardo?"
俺は聞いたぜ、「リカルドはどこだよ?」って。
※1950年代の大人気コメディ番組『アイ・ラブ・ルーシー』の主人公ルーシーと、その夫リッキー(リカルド)をいじったジョーク。
You said, "Oh no, not the show"
お前は「違うわよ、あのテレビ番組の話じゃないわ」って言った。
Then you spit a little rap to me like this
それから、お前はこんな風にちょっとしたラップをカマしてきたんだ。
※ここからケンドリックは「ルーシー(悪魔)」の視点に切り替わり、自身を誘惑する声を演じる。
When I turned twenty-six, I was like, "Oh shit"
俺が26歳になった時、俺は「マジかよ」ってなったぜ。
※ケンドリックが26歳の時、アルバム『good kid, m.A.A.d city』が大ヒットし、世界的な名声と巨万の富を得た時期を指す。
You said to me, I remember what you said too, you said
お前は俺に言った。なんて言ったか覚えてるぜ、お前はこう言ったんだ。
"My name is Lucy, Kendrick, you introduced me, Kendrick
「私の名前はルーシーよ、ケンドリック。あなたが私を招き入れたのよ、ケンドリック。
Usually I don't do this, but I see you and me, Kendrick
普段はこんなことしないんだけど、あなたと私なら上手くいくと思うの、ケンドリック。
Lucy give you no worries, Lucy got million stories
ルーシーはあなたに心配なんてさせない。ルーシーには数え切れないほどの物語(成功例)があるわ。
About these rappers that I came after when they was boring
つまらなかったラッパーたちを、私がどうやってビッグにしてきたかっていう話をね。
※多くのラッパーたちが名声(ルーシー)と引き換えに魂を売り、商業的な成功を収めてきた音楽業界の現実を語っている。
Lucy gon' fill your pockets
ルーシーがあなたのポケットを金で満たしてあげる。
Lucy gon' move your mama out of Compton
ルーシーがあなたのママをコンプトンから引っ越させてあげる。
Inside the gi-gantic mansion like I promised
約束通り、超巨大な豪邸にね。
Lucy just want your trust and loyalty, avoiding me?
ルーシーが欲しいのはあなたの信頼と忠誠心だけ。私を避けてるの?
It's not so easy, I'm at these functions accordingly
逃げるのはそう簡単じゃないわ、私はこういう場(業界のパーティーなど)には必ずいるんだから。
Kendrick, Lucy don't slack a minute, Lucy work harder
ケンドリック、ルーシーは1分たりとも休まない。ルーシーは誰よりも一生懸命働くの。
Lucy gon' call you even when Lucy know you love your father
あなたが神様(天の父)を愛してるって分かってても、ルーシーはあなたに電話をかけるわ。
I'm Lucy, I loosely heard prayers on your first album, truly
私はルーシー。あなたのファーストアルバムでの祈りも、なんとなく聞いてたわよ、本当にね。
※『good kid, m.A.A.d city』のスキットでケンドリックたちがキリスト教の祈りを捧げるシーンへの言及。悪魔はそんな祈りなど意に介していない。loosely(何となく)とLucyで踏韻している。
Lucy don't mind, 'cause at the end of the day, you'll pursue me
でもルーシーは気にしない。だって結局のところ、あなたは私を追い求めることになるんだから。
Lucy go get it, Lucy not timid, Lucy up front
ルーシーは獲物を逃さない。ルーシーは臆病じゃないし、いつも堂々としてる。
Lucy got paperwork on top of paperwork
ルーシーは書類の上にさらに書類を用意してるのよ。
※paperwork=レコード会社との契約書。アーティストを縛り付ける法的な束縛の暗喩。
I want you to know that Lucy got you
ルーシーがあなたを完全に捕まえたってこと、分かってほしいの。
All your life I watched you
あなたの人生を、私はずっと見守ってきたわ。
And now you all grown up to sign this contract, if that's possible"
そして今、あなたはこの契約書にサインできるほど大人になったってわけね、もし可能なら」
[Chorus: Kendrick Lamar & Preston Harris]
Get you, get you, get you, get you
お前を手に入れたらよ。
I'ma go hit the throttle with you
お前と一緒にスロットルを全開にしてやる。
Smokin', lokin', pokin' that deja 'til I'm idle with you
ハッパを吸って、イカれて、ダラダラするまでお前と一緒にキメまくるんだ。
'Cause I want you
だってお前が欲しいからさ。
Now, baby, when I'm ridin' here, I'm ridin' dirty
なあベイビー、俺がここをドライブする時は、いつでも違法なモンを積んでるぜ。
Registration is out of service
車の登録証だって期限切れだ。
Smokin', lokin', drinkin' that potion, you can see me swervin'
ハッパ吸って、イカれて、あの魔法の薬を飲んで、フラフラ蛇行してんのが分かるだろ。
'Cause I want you
だってお前が欲しいからさ。
[Outro: Bilal]
Oh, oh, oh, oh, oh, oh
オー、オー、オー……
Ooh (Woo, woo, woo, woo, woo, woo) We-ooh
オー……ウィーオー。
Oh, oh, oh, oh, oh, oh
オー、オー、オー……
Da-da-n-dee-dee-dee-ooh-n-die-ayy-ayy (Day-ayy)
ダダダ……
[Poem: Kendrick Lamar]
I remember you was conflicted
覚えてるよ、お前が葛藤し、
Misusing your influence, sometimes I did the same
自分の影響力を誤って使っていたことを。時々、俺も同じことをしちまった。
Abusing my power full of resentment
俺は恨みに満ちて、自分の権力を濫用した。
Resentment that turned into a deep depression
その恨みは、深い鬱病へと変わっていった。
Found myself screamin' in the hotel room
気がつけば、俺はホテルの部屋で絶叫していた。
I didn't wanna self destruct
俺は自己破壊なんかしたくなかった。
The evils of Lucy was all around me
ルーシー(悪魔)の邪悪な誘惑が、俺の周りを取り囲んでいた。
So I went runnin' for answers
だから俺は、答えを求めて走り出したんだ。
Until I came home
俺が「故郷」に帰り着くまでな。
※アルバムを通して語られる詩の続き。「Alright」の終わりに続く形で、彼がアメリカ(資本主義)の誘惑から逃れ、精神的なルーツである南アフリカへと向かう展開(次曲「Momma」)を示唆している。
