Artist: Kendrick Lamar
Album: To Pimp a Butterfly
Song Title: Institutionalized
概要
本作は、ヒップホップの名盤『To Pimp a Butterfly』に収録され、ゲットーの環境によって形成された「制度化(Institutionalized)された精神」をテーマにした楽曲である。ケンドリック・ラマーが地元の友人たちを煌びやかなBETアワードに連れて行った際、友人たちが豪華なジュエリーを身につけたラッパーたちを「歩く標的(強盗のカモ)」としか見られなかったという実体験に基づいている。Snoop Doggをストーリーテラーに迎え、どれだけ富や名声を得て環境が変わっても、貧困街で染み付いたサバイバル精神や価値観からは簡単に抜け出せないという黒人社会の根深い呪縛と葛藤を、冷徹かつアイロニカルに描き出している。
和訳
[Part I]
[Intro: Kendrick Lamar]
What money got to do with it
金が何の関係があるんだ?
When I don't know the full definition of a rap image?
俺が「ラップのイメージ」の真の定義すら分かっちゃいねえ時に。
I'm trapped inside the ghetto and I ain't proud to admit it
俺はゲットーの中に囚われてる。それを認めるのは誇れねえがな。
Institutionalized, I keep runnin' back for a visit, hol' up
完全に「制度化」されちまって、何度もそこ(ゲットー)へ戻っちまう。待てよ。
※Institutionalized=刑務所などの施設や環境に長く居すぎた結果、その外の世界で適応できなくなる精神状態のこと。ここでは「ゲットーの価値観」から抜け出せない呪縛を指す。
Get it back
取り戻すぞ。
I said I'm trapped inside the ghetto and I ain't proud to admit it
言ったろ、俺はゲットーの中に囚われてる。それを認めるのは誇れねえ。
Institutionalized, I could still kill me a nigga, so what?
制度化されてるんだよ。今でも人を殺せるかもしれないぜ、だから何だ?
[Interlude: Anna Wise & Bilal]
If I was the president
もし私が大統領なら。
I'd pay my mama's rent
ママの家賃を払ってあげるのに。
Free my homies and them
ダチやあいつらを刑務所から解放して。
Bulletproof my Chevy doors
シボレーのドアを防弾仕様にするわ。
Lay in the White House and get high, Lord
ホワイトハウスで寝転がってハイになるのさ、神様。
Whoever thought?
誰が想像した?
Master, take the chains off me!
ご主人様、私から鎖を外して!
※ゲットーの住民が描く極端な夢と、根底にある奴隷制の記憶(Master, chains)を対比させ、アメリカ社会の構造的欠陥を突いている。
[Part II]
[Intro: Taz Arnold]
Zoom, zoom, zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム、ズーム、ズーム……
Zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム。
Zoom, zoom, zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム、ズーム、ズーム……
Zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム。
Zoom, zoom, zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム、ズーム、ズーム……
Zoom, zoom, zoom
ズーム、ズーム、ズーム。
Zoom, zoom, zoom, shit
ズーム、ズーム、ズーム、クソが。
[Verse 1: Kendrick Lamar]
Life, can be like, a box of chocolate
人生ってのは、箱入りのチョコレートみたいなもんだ。
※映画『フォレスト・ガンプ』の名台詞「開けてみるまで中身は分からない」からの引用。
Quid pro quo, somethin' for somethin', that's the obvious
見返り(Quid pro quo)、何かを得るには何かを差し出す、当たり前のことさ。
Oh shit, flow's so sick, don't you swallow it
ヤバいだろ、俺のフロウは病的にヤバい(病気だ)、飲み込むんじゃねえぞ。
Bitin' my style, you're salmonella poison positive
俺のスタイルをパクる(噛む)から、サルモネラ菌の陽性になっちまうんだ。
※Bite(スタイルをパクる / 噛む)と、生のものを食べて食中毒(サルモネラ菌)になることを掛けた高度な言葉遊び。
I can just alleviate the rap industry politics
俺ならラップ業界のポリティクス(しがらみ)なんて簡単に軽減できる。
Milk the game up, never lactose intolerant
このゲームを搾り取ってやる。俺は乳糖不耐症なんかじゃねえからな。
※Milk(金を搾り取る / 牛乳)と、lactose intolerant(乳糖不耐症で牛乳を飲めない=搾取できない)を掛けたパンチライン。
The last remainder of real shit, you know the obvious
俺は「本物」の最後の生き残りだ、見りゃ分かんだろ。
Me, scholarship? No, streets put me through colleges
俺が奨学金をもらったかって?いや、ストリートが俺を大学に通わせてくれたんだ。
Be all you can be, true, but the problem is
「なれる最高の自分になれ」、それは真実だ。でも問題なのは、
Dream only a dream if work don't follow it
行動が伴わなきゃ、夢はただの夢で終わっちまうってことだ。
Remind me of the homies that used to know me, now follow this
昔からのダチのことを思い出すよ、まあ聞いてくれ。
I'll tell you my hypothesis, I'm probably just way too loyal
俺の仮説を教えてやる。たぶん俺は、地元に義理堅すぎるんだ。
K Dizzle will do it for you, my niggas think I'm a god
「K Dizzle(俺)がなんとかしてくれる」、ダチどもは俺を神かなんかだと思ってる。
※K Dizzle=ケンドリック・ラマーの愛称の一つ。
Truthfully all of 'em spoiled, usually, you're never charged
正直言って、あいつらは甘やかされすぎだ。普通ならタダじゃ済まねえぞ。
But somethin' came over you once I took you to them fuckin' BET Awards
でも、あのクソみたいなBETアワードにお前らを連れて行ったら、何かが憑りついちまった。
You lookin' at artistses like they're harvestses
お前ら、他のアーティストたちを「収穫物(獲物)」みたいに見てたよな。
So many Rollies around you and you want all of 'em
周りにはロレックスがうじゃうじゃいて、お前らはそれを全部欲しがってた。
Somebody told me you thinkin' 'bout snatchin' jewelry
誰かが教えてくれたぜ、お前がジュエリーを強奪しようと考えてるってな。
I should've listened when my grandmama said to me:
おばあちゃんが俺に言った時、言うことを聞いとくべきだったんだ。
[Chorus: Bilal]
"Shit don't change until you get up and wash yo' ass, nigga
「立ち上がって自分のケツを洗う(クリーンになる)まで、何も変わりゃしないんだよ」
※wash yo' ass=単に体を洗うという意味ではなく、環境が変わっても自分自身の「精神や態度(ゲットーの価値観)」を洗い流さなければ、真の意味で人生は好転しないという祖母からの教訓。
Shit don't change until you get up and wash yo' ass, boy
「立ち上がって自分のケツを洗うまで、何も変わりゃしないんだよ、坊や」
Shit don't change until you get up and wash yo' ass, nigga
「立ち上がって自分のケツを洗うまで、何も変わりゃしないんだよ」
Oh now, slow down"
「ほら、落ち着きなさい」
[Bridge: Snoop Dogg]
And once upon a time, in a city so divine
むかしむかし、とても神聖な街で。
※西海岸のレジェンドSnoop Doggが、おとぎ話のナレーターのような口調で語る。
Called West Side Compton, there stood a little nigga
ウェストサイド・コンプトンと呼ばれるその場所に、一人の小さな少年が立っていた。
He was five-foot somethin', God bless the kid
身長は5フィートちょい。神様、その子に祝福を。
※小柄なケンドリック・ラマー自身を指している。
Took his homies to the show and this is what they said:
彼はダチたちをショー(授賞式)に連れて行ったんだが、あいつらはこう言ったのさ。
[Verse 2: Kendrick Lamar]
"Fuck am I 'posed to do when I'm lookin' at walkin' licks?
「歩くカモ(標的)を目の前にして、俺にどうしろってんだ?」
※ここからKendrickは、授賞式に来た「フッドの友人」の視点に切り替わってラップする。walkin' licks=強盗しやすい相手、歩く金づる。
The constant big money talk 'bout the mansion and foreign whips
「豪邸だの外国製の高級車だの、デカい金の話ばっかりしやがってよ」
The private jets and passport, presidential glass floor
「プライベートジェットにパスポート、大統領クラスのガラスの床だと?」
Gold bottles, gold models, givin' up the ass for
「金のボトルに、ケツを差し出すゴージャスなモデルたち」
Instagram flicks, suckin' dick, fuck is this?
「インスタ用の写真撮って、男に媚び売って、なんだこのクソみたいな状況は?」
One more sucker wavin' with a flashy wrist
「また一人、派手な時計を巻いた手首を振ってるマヌケがいやがる」
My defense mechanism tell me to get him
「俺の防衛本能が『あいつをヤれ』って告げてんだ」
※ゲットーで生き残るために培われた「奪われる前に奪え」というサバイバル本能が、華やかな場でも発動してしまう様子。
Quickly because he got it
「手っ取り早くな、だってあいつは持ってんだから」
It's a recession, then why the fuck he at King of Diamonds?
「不景気だってのに、なんであいつはKing of Diamonds(ストリップクラブ)にいるんだ?」
※King of Diamondsはマイアミにある超高級ストリップクラブ。
No more livin' poor, meet my four-four
「貧乏暮らしはもうご免だ。俺の44口径に挨拶しな」
When I see 'em, put the per diem on the floor
「あいつらを見つけたら、日当(あり金)を全部床に置かせてやる」
Now Kendrick, know they're your co-workers
「なあケンドリック、こいつらがお前の仕事仲間だってことは分かってるぜ」
But it's gon' take a lot 'fore this pistol go cold turkey
「だがな、この銃の禁断症状(撃ちたい衝動)を抑え込むには、かなり無理があるってもんだ」
※cold turkey=薬物などの依存を急に断ち切ること。銃に依存した生活(Institutionalized)から急には抜け出せないことを示している。
Now I can watch his watch on the TV and be okay
「テレビ越しにあいつの時計を見てる分には、平気でいられる」
But see I'm on the clock once that watch landin' in LA
「だがな、その時計がLA(地元)に上陸した瞬間から、俺は『勤務時間中(狙うモード)』になるんだよ」
※watch(時計)とon the clock(勤務中=強盗の機会を伺っている)を掛けた表現。
Remember steal from the rich and givin' it back to the poor?
「金持ちから盗んで、貧乏人に分け与える(ロビンフッドの精神)っての覚えてるか?」
Well, that's me at these awards"
「まあ、この授賞式での俺がまさにそれ(ロビンフッド)ってわけさ」
I guess my grandmama was warnin' a boy
(ケンドリックの視点に戻る)俺のおばあちゃんは、少年に警告してたんだろうな。
She said
彼女はこう言ったんだ。
[Chorus: Bilal]
"Shit don't change until you get up and wash yo' ass, nigga
「立ち上がって自分のケツを洗う(クリーンになる)まで、何も変わりゃしないんだよ」
Shit don't change until you get up and wash yo' ass, boy
「立ち上がって自分のケツを洗うまで、何も変わりゃしないんだよ、坊や」
Shit don't change until you get up and wash yo' ass, nigga
「立ち上がって自分のケツを洗うまで、何も変わりゃしないんだよ」
Oh now, slow down"
「ほら、落ち着きなさい」
[Outro: Snoop Dogg]
And once upon a time, in a city so divine
むかしむかし、とても神聖な街で。
Called West Side Compton, there stood a little nigga
ウェストサイド・コンプトンと呼ばれるその場所に、一人の小さな少年が立っていた。
He was five-foot something, dazed and confused
身長は5フィートちょい、彼は呆然とし、混乱していた。
Talented but still under the neighborhood ruse
才能に溢れていたが、未だにフッド(地元)のルールの呪縛から抜け出せずにいたのさ。
You can take your boy out the hood
「少年をフッドから連れ出すことはできる」
But you can't take the hood out the homie
「だが、少年の心の中からフッドを取り除くことはできない」
※ストリートの有名な格言。環境を変えても精神がInstitutionalized(制度化)されている限り、根本的な解決にはならないという曲のテーマの結論。
Took his show money, stashed it in the mozey wozey
彼はショーのギャラを受け取り、モージー・ウォージー(隠し場所)にしまい込んだ。
Hollywood's nervous
ハリウッドは怯えてるぜ。
Fuck you, goodnight, thank you much for your service
クソ食らえ、おやすみ。お前らのサービスには感謝してるぜ。
