Artist: Kendrick Lamar
Album: To Pimp a Butterfly
Song Title: Wesley’s Theory
概要
本作は、ヒップホップ史に残る名盤『To Pimp a Butterfly』のオープニングを飾る極めて重要な楽曲である。タイトルは、巨万の富を得ながらも脱税で実刑判決を受けた黒人俳優ウェズリー・スナイプスに由来する。スラム街という「サナギ(Cocoon)」から抜け出した才能ある黒人アーティスト(Butterfly)が、音楽業界や資本主義社会(Uncle Sam)にいかに搾取(Pimp)されるかを描いた痛烈なコンセプト・トラックだ。
楽曲はBoris Gardinerのサンプリングで幕を開け、P-Funkの創始者George ClintonやThundercatが参加し、ブラック・ミュージックの血脈を受け継ぐ濃厚なファンク・サウンドを展開している。Verse 1では大金を手にしたばかりの無知な若手ラッパーの傲慢さを、Verse 2では彼らに浪費を促し最終的に破滅へと追いやる「アンクル・サム(アメリカ合衆国政府)」の冷酷な視点を見事に演じ分けている。途中に挿入されるDr. Dreからの忠告も含め、エンターテインメント業界とアメリカの構造的な暗部を鋭くえぐる傑作である。
和訳
[Sample: Boris Gardiner]
Every nigga is a star, ayy, every nigga is a star
黒人は皆、輝く星なんだぜ。
※ジャマイカのレゲエ歌手Boris Gardinerの1973年の同名曲をサンプリング。蔑称である「nigga」という言葉を反転させ、黒人の自己肯定感と尊厳を歌ったメッセージだ。
Every nigga is a star, ayy, every nigga is a star
黒人は皆、輝く星なんだぜ。
Every nigga is a star, ayy
黒人は皆、輝く星なんだ。
Who will deny that you and I and every nigga is a star?
お前や俺、すべての黒人がスターだってことを、一体誰が否定できるっていうんだ?
[Intro: Josef Leimberg]
Hit me
カマしてくれ。
When the four corners of this cocoon collide
このサナギの四隅がぶつかり合う時。
※cocoon(サナギ)は、コンプトンなどのゲットー(貧困街)や、そこでの抑圧された環境の暗喩。
You'll slip through the cracks hopin' that you'll survive
お前は生き残ることを祈りながら、その隙間をすり抜けていく。
Gather your wit, take a deep look inside
知恵を振り絞り、自分の内側を深く見つめ直すんだ。
Are you really who they idolize?
お前は本当に、奴らが崇拝するような立派な人間なのか?
To Pimp a Butterfly
蝶(才能ある黒人)を搾取するために。
※アルバムのタイトルコール。Butterflyは成功した黒人アーティストを指し、それをPimp(搾取する、食い物にする)するエンタメ業界やアメリカ社会の構造を示唆している。
[Chorus: Kendrick Lamar]
At first, I did love you
最初は、マジで愛してたんだ。
But now I just wanna fuck
でも今は、ただヤリてぇだけさ。
※ヒップホップという音楽そのもの、あるいは「お金」を女性に擬人化している。純粋な愛情から、ただの欲求不満のはけ口(搾取の対象)へと変わってしまった関係性を表している。
Late nights thinkin' of you
夜更けまでお前のことを考えてた。
Until I get my nut
自分がイッちまう(満足する)までな。
Tossed and turned, lesson learned
ベッドで寝返りを打ちながら、教訓を得たぜ。
You was my first girlfriend
お前は俺の最初の彼女だったんだ。
Bridges burned, all across the board
あらゆる場所で橋を焼き払って(関係を断ち切って)きた。
Destroyed, but what for?
すべてぶっ壊してきたけど、一体何のためだったんだ?
[Verse 1: Kendrick Lamar]
When I get signed, homie, I'ma act a fool
契約金が入ったら、ホーミー、俺はバカやって暴れまくるぜ。
※Verse 1は、レコード会社と契約し急に大金を手にした若手ラッパーの、典型的でステレオタイプな思考を演じている。
Hit the dance floor, strobe lights in the room
ダンスフロアに飛び込んで、ストロボの光を浴びるんだ。
Snatch your little secretary bitch for the homies
お前のお上品な秘書のアバズレを、ダチのために掻っ攫ってやる。
Blue-eyed devil with a fat-ass monkey
青い目をした悪魔(白人女)の、デカいケツをな。
※Blue-eyed devilはマルコムXらが白人を指して使った言葉。白人社会への復讐心と同時に、白人女性への性的搾取をラップゲームの「トロフィー」として扱う歪んだ価値観を描写している。
I'ma buy a brand new Caddy on vogues
Vogueタイヤを履いたピカピカのキャデラックを買ってやる。
Trunk the hood up, two times, deuce-four
トランクとボンネットを跳ね上げて、24インチのリムで決めるぜ。
Platinum on everythin', platinum on weddin' ring
何もかもプラチナまみれだ、結婚指輪だってプラチナにしてやる。
Married to the game and a bad bitch chose
ラップゲームと結婚して、イイ女を選んだってわけさ。
When I get signed, homie, I'ma buy a strap
契約したらよぉ、銃だって買うぜ。
Straight from the CIA, set it on my lap
CIA直輸入のやつを、膝の上に置いて走るんだ。
※1980年代にCIAが黒人コミュニティにクラック・コカインや武器を蔓延させたという、イラン・コントラ事件に関連する陰謀論・都市伝説への言及。
Take a few M-16s to the hood
M-16ライフルをフッドに何丁か持ち込んでよ。
Pass 'em all out on the block, what's good?
ブロックの奴ら全員に配ってやる、調子はどうだ?ってな。
I'ma put the Compton swap meet by the White House
ホワイトハウスの隣にコンプトンのスワップミート(フリマ)を建ててやる。
※コンプトンの象徴である露店市場を政治の中枢に置くことで、ブラックカルチャーで白人社会の頂点を侵略するという野望を表している。
Republican run up, get socked out
共和党員が文句言ってきたら、ブン殴ってやるよ。
Hit the press with a Cuban link on my neck
首にはキューバンリンクの極太チェーンを巻いて、記者会見に出てやるぜ。
Uneducated, but I got a million-dollar check like that
無学だけどよ、俺はこうしてミリオンダラーの小切手を手にしたんだ。
[Refrain: Thundercat & George Clinton]
We should never gave
俺たちは決して与えるべきじゃなかった。
We should never gave niggas money
ニガ共に金なんて持たせるべきじゃなかったんだ。
※白人至上主義的な社会や特権階級の「本音」を代弁するパート。大金を手にした黒人が浪費で破滅していく様を嘲笑し、彼らの成功を望んでいない社会構造の冷酷さを表現している。
Go back home, money, go back home
金よ、元の場所(白人社会)へ帰れ。
We should never gave
俺たちは決して与えるべきじゃなかった。
We should never gave niggas money
ニガ共に金なんて持たせるべきじゃなかったんだ。
Go back home, money, go back home
金よ、元の場所へ帰れ。
(Everybody get out)
(全員出て行け)
[Chorus: Kendrick Lamar, Thundercat & George Clinton]
At first, I did love you (Love you)
最初は、マジで愛してたんだ。
But now I just wanna fuck (I just wanna fuck)
でも今は、ただヤリてぇだけさ。
Late nights thinkin' of you (Of you)
夜更けまでお前のことを考えてた。
Until I get my nut ('Til I get my nut)
自分がイッちまうまでな。
Tossed and turned, lesson learned
ベッドで寝返りを打ちながら、教訓を得たぜ。
You was my first girlfriend
お前は俺の最初の彼女だったんだ。
Bridges burned, all across the board (Across the board)
あらゆる場所で橋を焼き払ってきた。
Destroyed, but what for?
すべてぶっ壊してきたけど、一体何のためだったんだ?
[Break: Dr. Dre]
Yo, what's up? It's Dre
ヨー、調子はどうだ?ドレーだ。
Remember the first time you came out to the house?
初めて俺の家に来た時のこと、覚えてるか?
You said you wanted a spot like mine
お前は「俺もこんな家が欲しい」って言ってたよな。
But remember, anybody can get it
だが覚えとけ。手に入れるだけなら誰にだってできる。
The hard part is keepin' it, motherfucker
一番難しいのは、それを「維持すること」なんだよ、クソ野郎。
※西海岸の伝説的プロデューサーDr. Dre本人による留守電メッセージ。彼自身もかつてDeath Row Recordsなどで金と権利の搾取を経験しており、後輩であるKendrickに向けた重みのあるリアルな忠告。
[Verse 2: Kendrick Lamar]
What you want you? A house or a car?
お前は何が欲しいんだ?家か?それとも車か?
※ここからKendrickは「Uncle Sam(アメリカ合衆国政府・資本主義の象徴)」の視点に切り替わる。甘い言葉で若手アーティストを誘惑し始める。
Forty acres and a mule, a piano, a guitar?
40エーカーの土地とラバか?ピアノか、ギターか?
※「40 acres and a mule」は、南北戦争後に解放奴隷に対して政府が約束したものの、結局反故にされた賠償策。白人社会が黒人を騙す常套句のメタファーとして機能している。
Anythin', see, my name is Uncle Sam, I'm your dog
何でも言ってくれ。ほら、俺はアンクル・サム、お前のダチだぜ。
Motherfucker, you can live at the mall
クソ野郎、ショッピングモールに住み着いたっていいんだぜ。
I know your kind (That's why I'm kind)
お前みたいなタイプのことはよく分かってる(だから俺は「親切」なのさ)。
Don't have receipts (Oh, man, that's fine)
領収書は持ってないって?(あぁ、そんなの気にすんな)。
Pay me later, wear those gators
支払いは後でいいから、そのワニ革の靴(ゲイター)を履きなよ。
Cliché? Then say, "Fuck your haters"
ありきたりだって?だったら「ヘイター共はクソくらえ」って叫べばいい。
I can see the baller in you, I can see the dollar in you
お前の中に成功者(ボーラー)の素質が見えるよ、お前がドル札に見えるぜ。
Little white lies, but it's no white-collar in you
ちょっとした「白い嘘(罪のない嘘)」さ。でもお前には「ホワイトカラー(知的労働者)」の素質はない。
※white lie(罪のない嘘)とwhite-collar(頭脳労働者)を掛けている。金融リテラシーのない黒人(ブルーカラー層)をカモにしている資本主義の残酷な本音を描写。
But it's whatever though because I'm still followin' you
まぁどうでもいいさ、俺はずっとお前を監視(フォロー)してるからな。
Because you make me live forever, baby
だって、お前らみたいな奴らが俺(資本主義)を永遠に生かしてくれるんだからよ、ベイビー。
Count it all together, baby
全部まとめて数えてみな、ベイビー。
Then hit the register and make me feel better, baby
そしてレジを叩いて、俺をいい気分にさせてくれよ。
Your horoscope is a Gemini, two sides
お前の星座は双子座、二面性があるよな。
※Kendrick自身が双子座(Gemini)生まれであることを指す。
So you better cop everything two times
だから何でも2つずつ買っちまった方がいいぜ。
Two coupes, two chains, two C-notes
2台のクーペ、2本のチェーン、2枚の100ドル札。
※ラッパーの2 Chainzのパロディも含みつつ、無駄な浪費を煽っている。C-noteは100ドル札のスラング。
Too much ain't enough, both we know
多すぎても足りないくらいだ、俺たちどっちも分かってるはずだぜ。
Christmas, tell 'em what's on your wish list
クリスマスだ、欲しいものリストを奴らに教えてやれよ。
Get it all, you deserve it, Kendrick
全部手に入れな、お前にはその価値があるんだぜ、ケンドリック。
And when you hit the White House, do you
そしてお前がホワイトハウスに乗り込む時、好きにやればいいさ。
But remember, you ain't pass economics in school
でも覚えとけよ、お前は学校で経済学のテストをパスしてねぇんだ。
And everything you buy, taxes will deny
お前が買うものすべて、税金(税務署)が持っていってやる。
I'll Wesley Snipe your ass before thirty-five (Yeah)
お前が35歳になる前に、「ウェズリー・スナイプス」にしてやるよ。
※曲のタイトルの回収。「Wesley Snipe」を動詞として使い、「脱税で刑務所にぶち込む」という意味を持たせている。金遣いの荒い黒人アーティストを合法的に破滅させるシステムの罠。
[Bridge: George Clinton & Kendrick Lamar]
Yeah, lookin' down, it's quite a drop (It's quite a drop, drop, drop)
あぁ、下を見下ろすと、かなりの急転落だな(真っ逆さまだ)。
Lookin' good when you're on top (We’re on top together)
頂上にいる時は気分がいいだろう(俺たちは一緒に頂点にいるんだ)。
You got a medal for us
お前は俺たちのためにメダルを手に入れたんだ。
Leavin' metaphors metaphysically in a state of euphoria
幸福感の中で、形而上学的にメタファーを残していく。
Look both ways before you cross my mind
俺の心を横切る前に、左右をよく確認しろよ。
[Refrain: Thundercat & George Clinton]
We should never gave
俺たちは決して与えるべきじゃなかった。
We should never gave niggas money
ニガ共に金なんて持たせるべきじゃなかったんだ。
Go back home, money, go back home
金よ、元の場所へ帰れ。
We should never gave
俺たちは決して与えるべきじゃなかった。
We should never gave niggas money
ニガ共に金なんて持たせるべきじゃなかったんだ。
Go back home, money, go back home
金よ、元の場所へ帰れ。
[Outro: Anna Wise & Whitney Alford]
Tax man comin', tax man comin'
税務署がやってくるぞ、徴税人がやってくる。
※無計画に浪費した結果、最終的にIRS(内国歳入庁)が金を回収しに来るというホラーのような結末。アーティストの金銭的破綻を暗示している。
Tax man comin', tax man comin'
税務署がやってくるぞ、徴税人がやってくる。
Tax man comin', tax man comin'
税務署がやってくるぞ、徴税人がやってくる。
Tax man comin', tax man comin'
税務署がやってくるぞ、徴税人がやってくる。
