Artist: Nas
Album: Illmatic
Song Title: Life’s a Bitch
概要
ヒップホップ界の聖典『Illmatic』(1994年)に収録された、90年代東海岸を代表する名曲の一つである。The Gap Bandの「Yearning for Your Love」をサンプリングしたL.E.S.によるメロウなビートに乗せ、ゲットーの虚無感と「いつ命を落とすか分からない」という死生観をテーマにしている。特筆すべきは、当時無名だった客演のAZによる伝説的なヴァースだ。彼はこの1曲で圧倒的な存在感を示し、後にメジャー契約を勝ち取った。Nas自身のヴァースでは、死と隣り合わせの危険な環境で20歳の誕生日を迎えられたことへの感謝と、刹那的に生きた若き日の過ちからの精神的な成熟が綴られている。アウトロではNasの実父であるジャズ・ミュージシャンのオル・ダラが哀愁漂うコルネットを吹き、過酷なストリートの現実に詩的な余韻を与えている。
和訳
[Intro: AZ & Nas]
Ayo, what's up, what's up?
おい、調子はどうだ?
Let's keep it real, son, count this money
リアルに行こうぜ、兄弟。この金を数えるぞ。
You know what I'm sayin'? (Yeah, yeah)
言ってる意味わかるか?(あぁ、あぁ)
Ayo, put the Grants over there in the safe
おい、グランツ(50ドル札)はそっちの金庫に入れとけ。
※Grants=ユリシーズ・S・グラントが描かれた50ドル札。イントロのスキット「The Genesis」から続く、稼いだ金を仕分けするストリートハスラーの日常的な光景だ。
You know what I'm sayin'?
わかるだろ?
'Cause we spendin' these Jacksons (Yeah, yeah)
俺らが普段使うのは、このジャクソンズ(20ドル札)だからな。(あぁ)
※Jacksons=アンドリュー・ジャクソンが描かれた20ドル札。
The Washingtons go to wifey, you know how that go
ワシントンズ(1ドル札)は嫁に渡すんだ、いつものやり方だろ。
※Washingtons=ジョージ・ワシントンが描かれた1ドル札。高額紙幣は貯め込み、小額紙幣は日常の雑費やパートナーに渡すというリアルな金銭感覚を示している。
I'm sayin' that's what this is all about, right?
つまり、すべてはこれ(金)のためってことだろ?
Clothes, bankrolls, and hoes
服、札束、そして女たちのためにな。
You know what I'm sayin'?
言ってることわかるか?
Yo, then what, man, what?!
なぁ、じゃあどうするんだよ、え!?
[Verse 1: AZ]
Visualizin' the realism of life in actuality
現実世界における「リアルな人生」ってやつを思い描いてみろよ。
Fuck who's the baddest, a person's status depends on salary
誰が一番ヤバい(ワルい)かなんて関係ねぇ、人間の価値は稼いだ金で決まるんだ。
And my mentality is money-orientated
だから俺のメンタリティは完全に金中心(マネー・オリエンテッド)さ。
I'm destined to live the dream for all my peeps who never made it
俺は、成功できずに散っていった仲間たちの分まで「夢」を生きる運命なんだよ。
'Cause yeah, we were beginners in the hood as Five Percenters
あぁ、俺らも最初はフッドの駆け出しで、ファイブ・パーセンターズの教えを信じてた。
※Five Percenters=1960年代にNYで設立された黒人イスラム教の分派。当時のNYヒップホップシーンに多大な影響を与えた思想である。
But somethin' must've got in us, 'cause all of us turned to sinners
でも何かが俺らを狂わせたんだ、だって全員が罪人(シナー)になっちまったからな。
Now some restin' in peace and some are sittin' in San Quentin
今じゃ安らかに眠ってる(死んだ)奴らもいれば、サン・クエンティン刑務所にぶち込まれてる奴らもいる。
※San Quentin=カリフォルニア州にある悪名高い重警備刑務所。AZはNY出身だが、韻を踏むためと、刑務所の過酷さを象徴するために名前を挙げている。
Others, such as myself, are tryin' to carry on tradition
そして俺みたいな残された連中は、この伝統(ストリートの生き様)を引き継ごうとしてるんだ。
Keepin' this Schweppervescence street ghetto essence inside us
このシュウェップスみたいに弾ける、ストリートのゲットー・エッセンスを腹の中に保ちながらな。
※Schweppervescence=炭酸飲料ブランド「Schweppes(シュウェップス)」の炭酸の弾ける様を表す造語。ストリートの刺激的で弾けるようなヴァイブスを炭酸に例えた、AZ特有の高度なワードプレイである。
'Cause it provides us with the proper insight to guide us
そいつが俺らを導く、正しい洞察力(インサイト)を与えてくれるからな。
Even though we know, somehow we all gotta go
いつか必ず、どうにかして俺らも死ぬ(逝く)運命だって分かってるけどよ。
But as long as we leavin' thievin', we'll be leavin' with some kind of dough
でも泥棒家業(非合法なシノギ)を続ける限り、ある程度の金を持ったまま逝けるだろ。
So, until that day we expire and turn to vapors
だから、命が尽きて煙(蒸気)に変わるその日まで。
Me and my capers will be somewhere stackin' plenty papers
俺と仲間たち(ケイパーズ)は、どこかで山ほどの札束(ペーパー)を積み上げてるはずさ。
Keepin' it real, packin' steel, gettin' high
リアルを貫き、ハジキ(銃)を携帯し、ハイになりながらな。
'Cause life's a bitch and then you die
だって人生はクソったれで、最後には死ぬだけだからな。
[Chorus: AZ]
Life's a bitch and then you die, that's why we get high
人生はビッチ(最悪)で、あとは死ぬだけ。だから俺らはハイになるんだ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつ死に神がお迎えに来るか、誰にも分からねぇからな。
Life's a bitch and then you die, that's why we puff lye
人生はクソったれで、あとは死ぬだけ。だから俺らはライ(大麻)を吸い込むんだ。
※puff lye=大麻を吸うこと。lyeは本来アルカリ溶液などを指すが、ここでは強力なマリファナを意味するスラングとして使用されている。
'Cause you never know when you're gonna go
いつ死ぬかなんて、誰にも分からねぇからな。
Life's a bitch and then you die, that's why we get high
人生はビッチで、あとは死ぬだけ。だから俺らはハイになるんだ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつあの世行きになるか、分からねぇだろ。
Life's a bitch and then you die, that's why we puff lye
人生はクソったれで、あとは死ぬだけ。だから大麻を吹かすのさ。
[Verse 2: Nas]
I woke up early on my born day; I'm twenty, it's a blessin'
誕生日の朝、早く目が覚めた。俺もハタチになった、これは祝福(ブレッシン)だぜ。
※born day=誕生日。日常的に銃弾が飛び交い、若くして命を落とす者が多いクイーンズブリッジ団地において、20歳まで生き延びられたことは奇跡であり「祝福」であるという背景がある。
The essence of adolescence leaves my body, now I'm fresh and
思春期のガキっぽさが体から抜け落ちて、今の俺はフレッシュだ。
My physical frame is celebrated 'cause I made it
俺のこの身体そのものが称賛されるんだ、だってここまで生き延びたんだからな。
One quarter through life, some godly-like thing created
人生の4分の1を生き抜いた。神のような存在が俺を創り出したんだ。
※One quarter through life=人生を80年とした場合の4分の1(20歳)を指している。
Got rhymes 365 days annual, plus some
365日分のライムを持ってるぜ、いや、それ以上かもな。
Load up the mic and bust one, cuss while I pus from
マイクに弾を装填して一発かます。膿を出しながら悪態をついてやるよ。
※マイクを銃に見立て(Load up)、ライムを放つことを発砲(bust)に例えている。pus(膿)はゲットーでの辛い経験や精神的な痛みの隠喩である。
My skull, 'cause it's pain in my brain vein, money maintain
俺の頭蓋骨からな。脳の血管に痛みが走ってるんだ、金を稼ぎ続けないとってな。
Don't go against the grain, simple and plain
流れに逆らうな、シンプルで明白なことさ。
When I was young at this I used to do my thing hard
ラップを始めたばかりの若い頃は、無茶なマネ(犯罪)も激しくやってた。
Robbin' foreigners, take they wallets, they jewels and rip they green cards
外国人を襲って、財布や宝石を奪い、グリーンカード(永住権)を破り捨ててやったもんさ。
Dipped to the projects, flashin' my quick cash
急いでプロジェクト(団地)に戻り、手っ取り早く稼いだ金を見せびらかした。
And got my first piece of ass, smokin' blunts with hash
そうして初めて女を抱いて、ハッシュ(大麻樹脂)入りのブラントを吸ったんだ。
Now it's all about cash in abundance
だが今じゃ、有り余るほどのキャッシュ(金)を稼ぐことがすべてだ。
Niggas I used to run with is rich or doin' years in the hundreds
昔つるんでた仲間たちは、金持ちになったか、何百年って懲役を食らってるかのどっちかだ。
I switched my motto; instead of sayin', "Fuck tomorrow!"
俺は座右の銘を変えたんだ。「明日なんてクソくらえ!」って言う代わりにさ。
※自暴自棄に刹那的な生き方をしていた過去からの、精神的な成長と成熟を示している。
That buck that bought a bottle could've struck the lotto
酒のボトルを買うのに使ったその1ドル(バック)で、ロト(宝くじ)を当てられたかもしれないってな。
※刹那的な快楽(酒)に金を使うのではなく、わずかな可能性であっても未来(ロト)に投資するという、将来への希望を見出した心境の変化を表現している。
Once I stood on the block, loose cracks produce stacks
かつてブロック(街角)に立って、バラ売りのクラックで札束(スタック)を作ったもんだ。
I cooked up and cut small pieces to get my loot back
コカインを炙って細かく切り分け、失った金(ルート)を取り戻した。
Time is illmatic, keep static like wool fabric
時間は「イルマティック(最高にヤバい)」だ。ウールの生地みたいに静電気(スタティック)を起こし続けろ。
※illmatic=「ill(ヤバい)」と「matic(~のようなもの)」を合わせたNasの造語。staticには「静電気」と「揉め事・緊張感」のダブルミーニングがあり、ストリートでのヒリヒリした緊張感を保ち続けろという意味が含まれる。
Pack a 4-matic to crack your whole cabbage
お前のキャベツ(頭)をカチ割るために、4マティック(銃)を忍ばせておくんだ。
※4-matic=45口径のオートマチック銃などを示すスラング。cabbage=「頭(脳天)」を指すスラング。最後までストリートの鋭さを失わないパンチラインで締めくくっている。
[Chorus: AZ]
Life's a bitch and then you die, that's why we get high
人生はビッチ(最悪)で、あとは死ぬだけ。だから俺らはハイになるんだ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつ死に神がお迎えに来るか、誰にも分からねぇからな。
Life's a bitch and then you die, that's why we puff lye
人生はクソったれで、あとは死ぬだけ。だから俺らはライ(大麻)を吸い込むんだ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつ死ぬかなんて、誰にも分からねぇからな。
Life's a bitch and then you die, that's why we get high
人生はビッチで、あとは死ぬだけ。だから俺らはハイになるんだ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつあの世行きになるか、分からねぇだろ。
Life's a bitch and then you die, that's why we puff lye
人生はクソったれで、あとは死ぬだけ。だから大麻を吹かすのさ。
'Cause you never know when you're gonna go
いつ死ぬかなんて、分からねぇからな。
Life's a bitch and then you die
人生はビッチで、あとは死ぬだけさ。
[Trumpet Outro: Olu Dara]
(コルネットのアウトロ)
※Nasの実父であり、著名なジャズ・ミュージシャンであるOlu Dara(オル・ダラ)によるコルネット(トランペットの一種)のソロ演奏。ストリートの過酷さと「Life's a bitch」という虚無感を包み込むような、哀愁に満ちたジャズの音色が楽曲の最後を美しく飾っている。
