Artist: Nas
Album: Illmatic
Song Title: N.Y. State of Mind
概要
Nasのデビューアルバム『Illmatic』(1994年)に収録された、ヒップホップ屈指のクラシック・トラックである。プロデューサーのDJ Premierによる重厚なピアノのループと硬いドラムの上で、Nasは地元クイーンズブリッジ・プロジェクトの過酷な現実やストリートの情景を、まるで映画のワンシーンのように写実的かつ冷徹に描写している。「I never sleep, 'cause sleep is the cousin of death(俺は決して眠らない、睡眠は死の従兄弟だからだ)」というパンチラインはヒップホップ史上最も有名なフレーズの一つであり、90年代ニューヨークのヒリヒリとした空気感とサバイバル精神を見事にパッケージングした金字塔的作品だ。
和訳
[Intro]
Yeah, yeah
イェー、イェー。
Ayo, Black—it's time, word (Word, it's time, man)
おい、ブラック。時間だぜ、マジで。(マジだ、時間だな)
Yeah, it's time, man (Aight, man, begin)
あぁ、時間だぜ。(よし、始めよう)
Yeah—straight out the fuckin' dungeons of rap
イェー、ラップのクソったれな地下牢から直送だ。
Where fake niggas don't make it back
フェイクな奴らは生きて帰れない場所からな。
I don't know how to start this shit, yo—now;
どうやって始めればいいか分からねぇよ。よし、行くぞ。
※このイントロは、DJ Premierのビートに合わせてNasがブースに入り、一発録りでレコーディングを始めた際の実際のやり取りである。
[Verse 1]
Rappers: I monkey-flip 'em with the funky rhythm I be kickin'
ラッパーどもを、俺が蹴り出すファンキーなリズムでモンキー・フリップ(投げ飛ばす)してやるよ。
※monkey-flip=プロレスや格闘技の投げ技。自らのフロウの圧倒的な威力を格闘技に例えている。
Musician, inflictin' composition of pain
俺はミュージシャン、痛みのコンポジション(楽曲・構成)を刻み込むんだ。
I'm like Scarface sniffin' cocaine
コカインを吸うスカーフェイスみてぇにな。
※映画『スカーフェイス』の主人公トニー・モンタナが、終盤で大量のコカインを吸って暴走するアイコニックなシーンへの言及。圧倒的な無双状態を表している。
Holdin' an M16, see, with the pen I'm extreme
M16(ライフル)を構えるように、俺はペンを持つと過激なんだよ。
Now, bullet holes left in my peepholes
今じゃ、ドアの覗き穴(ピーホール)には弾痕が残ってる。
※クイーンズブリッジの日常的な銃撃戦の生々しさを、ドアの覗き穴に残る弾痕というディテールで表現している。
I'm suited up with street clothes
俺はストリートの服で武装してるぜ。
Hand me a .9 and I'll defeat foes
9ミリ口径を渡してくれりゃ、敵をぶっ倒してやるよ。
Y'all know my steelo, with or without the airplay
ラジオのエアプレイがあろうがなかろうが、俺のスタイル(スティーロ)は知ってんだろ。
※steelo=「スタイル」のスラング。ラジオ受けを狙わなくても、ストリートのプロップスは揺るがないという自信の表れ。
I keep some E&J, sittin' bent up in the stairway
階段に座り込んで酔っ払いながら、E&J(ブランデー)を持ってる。
※E&J=安価なブランデーのブランド「E&J Gallo」。ストリートの住人が好んで飲む酒である。
Or either on the corner bettin' Grants with the cee-lo champs
それか、街角でシーロのチャンピオンたちとグランツ(50ドル札)を賭けてるかだな。
※cee-lo=サイコロを使ったストリートの賭博ゲーム。Grants=ユリシーズ・S・グラントが描かれた50ドル札。
Laughin' at baseheads, tryna sell some broken amps
壊れたアンプを売ろうとするヤク中(ベースヘッド)どもを笑いながらよ。
※basehead=クラック・コカインの中毒者。ヤクを買うためにガラクタを金に換えようとする悲惨な姿を冷ややかに見ている。
G-packs get off quick, forever niggas talk shit
Gパック(ドラッグの束)はすぐに売れるし、連中はいつまでもデタラメをほざいてる。
Reminiscin' about the last time the task force flipped
前回タスクフォース(警察の特別部隊)が踏み込んできた時のことを思い出しながらな。
Niggas be runnin' through the block shootin'
奴らがブロックを走り抜けながら銃を撃ちまくってた。
Time to start the revolution, catch a body, head for Houston
革命を始める時だ。殺し(キャッチ・ア・ボディ)をやって、ヒューストンへ逃げるんだ。
※catch a body=「人を殺す」というスラング。殺人を犯した後、州外(テキサス州ヒューストン)へ逃亡するというギャングスタの典型的なシナリオ。
Once they caught us off-guard, the MAC-10 was in the grass, and
一度、俺らが油断した隙を突かれた時、MAC-10(サブマシンガン)は草むらに隠してあった。
I ran like a cheetah, with thoughts of an assassin
俺は暗殺者のような思考を巡らせながら、チーターみたいに走ったぜ。
Picked the MAC up, told brothers, "Back up!"—the MAC spit
MAC-10を拾い上げ、仲間に「下がれ!」と叫んだ。そして銃が火を吹いた。
Lead was hittin' niggas, one ran, I made him backflip
鉛の弾が奴らに当たり、逃げようとした一人をバックフリップ(後方宙返り)させてやった。
※銃弾の衝撃で体が吹き飛ぶ様子を「バックフリップ」と表現する残酷かつ詩的な表現。
Heard a few chicks scream, my arm shook, couldn't look
女たちの悲鳴が聞こえて、俺の腕は震え、まともに見れなかった。
※冷徹なギャングスタを気取りつつも、実際の暴力の現場では恐怖で腕が震えるという、Nas特有の生々しい人間味とリアリズムが描かれている。
Gave another squeeze, heard it click, "Yo, my shit is stuck!"
もう一回引き金を引いたが、カチッと音がして、「おい、弾が詰まった!」
Tried to cock it, it wouldn't shoot, now I'm in danger
撃鉄を起こそうとしたが撃てない、俺は危険な状況に陥った。
Finally pulled it back and saw three bullets caught up in the chamber
やっとのことで後ろに引くと、チャンバー(薬室)に3発の弾が詰まってやがった。
So, now I'm jettin' to the buildin' lobby
だから、俺は急いでビルのロビーに逃げ込んだんだ。
And it was full of children, prob'ly couldn't see as high as I be
そこには子供たちが溢れてて、俺がどれだけハイになってるか気づかなかっただろうよ。
※銃撃戦の直後に逃げ込んだ場所に無邪気な子供たちがいるという、ゲットーの日常における異常なコントラストを描写している。
(So, what you sayin'?) It's like the game ain't the same
(で、何が言いてぇんだ?)つまり、昔とはゲーム(ストリートのルール)が変わっちまったってことさ。
Got younger niggas pullin' the triggers, bringin' fame to their name
若い奴らが引き金を引き、自分の名前にハク(名声)をつけようとしてる。
And claim some corners, crews without guns are goners
そして街角を縄張りにしてる。銃を持たねぇクルーは死んだも同然だ。
In broad daylight, stick-up kids, they run up on us
真昼間から、強盗キッズ(スティックアップ・キッズ)が俺らに襲いかかってくる。
.45’s and gauges, MAC's in fact
45口径にショットガン、それにMAC-10が現実だ。
Same niggas will catch you back-to-back, snatchin' your cracks
同じ奴らが次から次へと襲ってきて、お前のクラックを奪い取っていくんだよ。
In black, there was a snitch on the block gettin' niggas knocked
暗闇の中で、ブロックには密告者(スニッチ)がいて、仲間がパクられていく。
So hold your stash 'til the coke price drop
だから、コカインの価格が下がるまで、隠し場所(スタッシュ)にキープしとけ。
I know this crackhead who said she gotta smoke nice rock
上等なロック(クラック)を吸わなきゃいけないって言うヤク中の女を知ってるぜ。
And if it's good, she'll bring you customers and measuring pots
もしネタが良ければ、そいつが客と計量カップを連れてきてくれるんだ。
※依存者を巧みに利用してドラッグビジネスを回す、ストリートの冷酷なエコシステム。
But yo, you gotta slide on a vacation
だけどよ、時々は休暇をとって姿を消さなきゃならねぇ。
Inside information keeps large niggas erasin' and their wives basin'
内部情報が漏れて、大物たちが消され、その妻たちはヤク中(ベースヘッド)に落ちぶれていく。
It drops deep as it does in my breath
俺の吐く息のように、深く沈み込んでいくんだ。
I never sleep, huh, 'cause sleep is the cousin of death
俺は決して眠らねぇ。なぜなら「睡眠は死の従兄弟」だからだ。
※ヒップホップ史上最も引用されるパンチラインの一つ。ゲットーでは油断して目を閉じれば命を落とすという極度の緊張感と、死のメタファーとしての睡眠を見事に表現している。
Beyond the walls of intelligence, life is defined
知性の壁を越えたところで、人生の意味が定義される。
I think of crime when I'm in a New York State of Mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド(NYの精神状態)にいる時、俺は犯罪のことばかり考えてるんだ。
※Billy Joelの名曲「New York State of Mind」と同名だが、Nasが描くのは華やかなNYではなく、犯罪と隣り合わせのゲットーの精神状態である。
[Chorus]
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
[Verse 2]
Be havin' dreams that I'm a gangsta, drinkin' Moëts, holdin' TECs
自分がギャングスタになって、モエ(シャンパン)を飲みながらTEC-9(銃)を持ってる夢を見るんだ。
Makin' sure the cash came correct, then I stepped
金がしっかり入ったか確認して、それから立ち去るんだ。
Investments in stock, sewin' up the blocks to sell rocks
株に投資して、ブロックを仕切ってロック(クラック)を捌く。
Winnin' gunfights with mega-cops
完全武装のサツ(メガ・コップ)との銃撃戦にも勝ってな。
But just a nigga walkin' with his finger on the trigger
だが、現実の俺は引き金に指をかけて歩いてるただの黒人だ。
Make enough figures until my pockets get bigger
ポケットがパンパンになるまで、十分な額を稼ぎ出す。
I ain't the type of brother made for you to start testin'
俺はお前らが試しに手を出していいようなタマじゃねぇよ。
Give me a Smith & Wesson, I'll have niggas undressin'
スミス&ウェッソン(銃)をよこせ、奴らの身ぐるみ剥がしてやる。
Thinkin' of cash flow, Buddha, and shelter
キャッシュフロー、ブッダ(大麻)、そして住みかのことばかり考えてる。
※Buddha=高品質な大麻を指すスラング。悟りを開くようなハイをもたらすことから。
Whenever frustrated, I'ma hijack Delta
イライラした時は、デルタ航空をハイジャックしてやるよ。
In the PJ's, my blend tape plays, bullets are strays
PJ(プロジェクト)では、俺のミックステープが流れ、流れ弾が飛び交う。
Young bitches is grazed, each block is like a maze
若いビッチたちがかすり傷を負い、どのブロックも迷路みたいだ。
Full of black rats trapped, plus the Island is packed
罠にかかった黒いネズミ(密告者やゲットーから抜け出せない人々)だらけで、ライカーズ・アイランド(刑務所)は満杯だ。
From what I hear in all the stories when my peoples come back, black
ムショから戻ってきた仲間(ブラザー)たちの話を聞く限りではな。
I'm livin' where the nights is jet-black
俺は夜が真っ暗闇(ジェット・ブラック)になる場所に住んでる。
The fiends fight to get crack, I just max, I dream I can sit back
ヤク中どもがクラックを求めて争う中、俺はリラックス(max)して、ただ座っていられる日を夢見てる。
And lamp like Capone, with drug scripts sewn
アル・カポネみたいにふんぞり返って、ドラッグの処方箋(シノギ)を牛耳るようなな。
Or the legal luxury life, rings flooded with stones, homes
あるいは、合法的なセレブ生活で、指輪に宝石(ストーン)を敷き詰めるような人生をな、兄弟。
I got so many rhymes, I don't think I'm too sane
ライムがありすぎて、自分でもまとも(正気)だとは思えねぇよ。
Life is parallel to Hell, but I must maintain
人生は地獄と平行線(同じ)だが、何とか耐え抜かなきゃならねぇ。
And be prosperous, though we live dangerous
危険な場所に住んでても、成功を手にするんだ。
Cops could just arrest me, blamin' us; we're held like hostages
サツは俺らを責め立てて不当に逮捕するし、俺らは人質みたいに囚われてる。
It's only right that I was born to use mics
俺がマイクを使うために生まれてきたのは当然のことさ。
And the stuff that I write is even tougher than dykes
俺が書くリリックは、タフなレズビアン(ダイク)よりもタフなんだぜ。
I'm takin' rappers to a new plateau, through rap slow
俺はゆっくりとしたラップで、ラッパーどもを新たな次元(プラトー)へと連れて行く。
My rhymin' is a vitamin held without a capsule
俺のライムは、カプセルのない(純度100%の)ビタミン剤だ。
※自身のラップが、リスナーの魂に直接栄養を与えるピュアなものであるという比喩。
The smooth criminal on beat breaks
ビートのブレイクに乗る、スムーズ・クリミナルさ。
※マイケル・ジャクソンの名曲「Smooth Criminal」を引用し、ビート上での自分の滑らかで危険なフロウを表現している。
Never put me in your box if your shit eats tapes
お前のラジカセがテープを食う(壊れてる)ようなら、俺のテープを入れるんじゃねぇぞ。
※当時のカセットテープ文化の「あるある」を交えつつ、自分の貴重な音楽を粗末な環境で消費されたくないというプライドを示している。
The city never sleeps, full of villains and creeps
この街は決して眠らない、悪党や気味の悪い奴らで溢れかえってる。
That's where I learned to do my hustle, had to scuffle with freaks
そこで俺はハッスル(生き抜く術)を学び、狂った奴らと乱闘(スカッフル)しなきゃならなかった。
I'm a addict for sneakers, 20's of Buddha and bitches with beepers
俺はスニーカーの中毒者で、20ドルのブッダ(大麻)、ポケベル(ビーパー)を持ったビッチたちに夢中だ。
※90年代のストリート・ファッションやライフスタイルの象徴的なアイテム(スニーカー、ポケベル)が列挙されている。
In the streets I can greet ya, about blunts I teach ya
ストリートで会ったら挨拶してやるよ、ブラント(葉巻大麻)の巻き方も教えてやるぜ。
Inhale deep like the words of my breath
俺の吐く言葉のように、深く吸い込め。
I never sleep, 'cause sleep is the cousin of death
俺は決して眠らねぇ。睡眠は死の従兄弟だからな。
I lay puzzled as I backtrack to earlier times
昔のことを振り返りながら、困惑したまま横になるんだ。
Nothing's equivalent to the New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインドに匹敵するものなんて、何もねぇよ。
[Chorus]
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
New York state of mind
ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド。
[Outro: Sample]
"Nasty Nas—"
"ナスティー・ナス—"
※当時のNasのニックネーム「Nasty Nas」のスクラッチで締めくくられる。
