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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

The Genesis - Nas 【和訳・解説】

Artist: Nas

Album: Illmatic

Song Title: The Genesis

概要

ヒップホップ史上最高傑作と名高いNasのデビューアルバム『Illmatic』(1994年)の幕開けを飾るイントロダクションである。前半はヒップホップ黎明期の伝説的映画『Wild Style』(1983年)の音声からサンプリングされ、カルチャーへの深いリスペクトが示されている。後半のスキットでは、クイーンズブリッジ団地の一室でNas、実弟のJungle、そして盟友AZが交わすリアルな会話が収録されている。レコード契約がなくても「リアル」であり続けるというストリートの哲学や、過酷なゲットーから這い上がり富(豪邸や高級車)を夢見る彼らのハングリー精神が生々しく表現された、ヒップホップ史に残る重要なスキットだ。

和訳

[Skit 1]

[Nas]
Street's disciple, my raps are trifle
ストリートの教え子さ、俺のラップは並じゃねえ。
※Main Sourceの名曲「Live at the Barbeque」(1991年)におけるNasの伝説的なデビューバース。この曲がラジカセから流れているという設定だ。trifle(些細な)という単語が使われているが、前後の文脈から反語的に凄さを示している、あるいは韻を踏むための言葉遊びと解釈される。

I shoot slugs from my brain just like a rifle
ライフルみたいに、脳ミソから弾丸(言葉)をぶっ放すぜ。
※slugsは「銃弾」のスラング。ライフルから弾を放つように、脳から鋭い言葉(パンチライン)を放つことを意味するメタファーである。

Stampede the stage, I leave the microphone split
ステージで暴れ回り、マイクを真っ二つにカチ割ってやる。

Play Mr. Tuffy while I'm on some Pretty Tone shit
タフな男を気取りながら、プリティー・トーンみたいな洒落た一面も見せる。
※Ghostface Killahの別名義でも知られる「Pretty Tone」は、ハーレムの伝説的なハスラーの名前に由来する。ストリートのタフさと、女にモテるスマートな一面を併せ持つというアピールだ。

Verbal assassin, my architect pleases
言葉の暗殺者、俺のライムの組み立ては完璧だ。
※architectは「建築家」。ここでは曲やライムの構造(フローやリリックの組み立て)を作り上げる才能を指している。

When I was 12, I went to…
12歳の時、俺は…
※この後「went to hell for snuffing Jesus(イエスを殴って地獄へ落ちた)」という衝撃的なパンチラインが続くが、本作のイントロではここで意図的に途切れる。

[Hector]
And you're sitting at home doing this shit
お前は家で座ってこんなこと(グラフィティ)ばっかやってやがる。
※ヒップホップ黎明期を描いた古典映画『Wild Style』(1983年)のワンシーンからのサンプリング。主人公のグラフィティ・ライター、Zoro(リー・キノーネス)と、その兄Hectorの会話だ。

I should be earning a medal for this
こんなクソみたいな世話焼いて、俺はメダルをもらってもいいくらいだぜ。

Stop fuckin' around and be a man
ふざけてねぇで、男になれよ。

There ain't nothin' out here for you
こんなことやってても、お前の未来には何もねえんだよ。
※ストリートアートやヒップホップ文化が「金にならない無駄なもの」と見なされていた当時の社会の冷ややかな視線を象徴している。

[Zoro]
Oh yes, there is… This
いや、あるさ…これ(ヒップホップ)がね。
※Zoroのこの返答は、「ヒップホップ文化こそが自分のすべてであり、未来を切り開く唯一の武器だ」というNas自身の宣言(Genesis=創世記)と強くリンクしている。

[Skit 2]

[Jungle]
Yo, Nas, yo, what the fuck is this bullshit on the radio, son?
おいNas、ラジオから流れてるこのクソみてぇな曲は一体何なんだよ?
※JungleはNasの実弟。ポップに傾倒しつつあった当時のフェイクなラップ曲に対して不満を漏らしている。

[Nas]
Chill, chill! That's the shit, God, chill
落ち着けって!そいつはヤバい曲だろ、神よ、落ち着けよ。
※God=「神」。Five Percent Nation(ファイブ・パーセンターズ)の教えに由来し、黒人男性同士がお互いを神聖な存在として「God」と呼び合うNY特有のスラング。

[AZ]
Ayo, yo, pull down the shade, man
おい、ブラインドを下ろせよ。
※AZはブルックリン出身のラッパーで、Nasの長年の盟友。後のトラック「Life's A Bitch」で伝説的な客演を果たす。

Let's count this money, nigga
金を数えようぜ、兄弟。

Ayo, Nas, put the Jacksons and the Grants over there!
なぁNas、ジャクソンズ(20ドル札)とグランツ(50ドル札)はそっちに置いてくれ!
※Jacksons=アンドリュー・ジャクソンが描かれた20ドル札。Grants=ユリシーズ・S・グラントが描かれた50ドル札。ドラッグディールなどで稼いだストリートマネーを仕分けしている生々しい光景だ。

You know what I'm sayin'?
分かってんだろ?

‘Cause we spendin' the Jacksons
俺らが使うのはジャクソンズ(20ドル札)の方だからな。
※小額の20ドル札は日常の支払いに使い、高額な50ドル札は貯め込むという、ハスラーのリアルな金銭感覚を描写している。

You know how we get down, baby
俺らのやり方は分かってんだろ。

[Nas]
True, true
間違いない、その通りだ。

[Jungle]
Nas, yo, Nas, man
なぁNas、聞いてくれよ。

Shit is mad real right now in the projects
今、この団地(プロジェクト)の状況はマジでヤバいぜ。
※projects=低所得者向け公営住宅団地。ここでは彼らの地元である「クイーンズブリッジ・プロジェクト」を指す。mad real=「非常に厳しい現実(危険で過酷な状況)」を意味する。

For a nigga, yo, word to mother
俺らにとってよ、母ちゃんに誓ってマジだぜ。
※word to mother=「母にかけて誓う」「マジで」という意味の定番スラング。

All them crab-ass rappers be comin' up to me
クソみてぇなラッパーどもが俺のところにすり寄ってきやがるんだ。
※crab-ass=「カニのような」から転じて、「イケてない」「偽物の(ワックな)」という意味の蔑称。

Man, word to mother, man
なぁ、マジで勘弁してくれよ。

I think we need to let them niggas know it's real, man
俺らがアイツらに「本物(リアル)」ってやつを分からせてやる必要があると思うぜ。

[Nas]
True indeed, knamsayin'?
まさにその通りだ、分かるか?

But when it's real you doin' this
でもな、本当に「リアル」なら、こうやって行動で示してるはずだろ。

Even without a record contract, knamsayin'?
レコード契約なんてなくてもな、分かるか?
※シーンの流行り廃りや金(契約)のためではなく、ただ息をするようにストリートの現実を表現し続けることこそがNasにとっての「リアル」であるという確固たる信念が語られている。

[AZ]
No question
疑う余地もねえな。

[Nas]
Been doing this since back then
昔からずっとこうやって生きてきたんだからよ。

[AZ]
I'm sayin' regardless how it go down we gon' keep it real
俺が言いてぇのは、何があろうと俺らは「リアル」を貫くってことさ。
※keep it real=「自分自身に偽りなく生きる」「ゲットーの現実を直視する」という90年代ヒップホップの最重要キーワード。

We tryin' to see many mansions and Coupes, kid
俺らは豪邸(マンション)とクーペ(高級車)を腐るほど手に入れるためにやってんだ、なぁ。
※ストリートの過酷な現実から抜け出し、ラップゲームを通じてアメリカン・ドリームを掴み取るというハングリーな野心が垣間見える。

[Nas]
No doubt, we gon' keep it real, true, true
間違いない、俺らはリアルであり続けるぜ。マジでな。

[Jungle]
Ayo, where's Grand Wizard and Mayo at, man?
おい、グランド・ウィザードとマヨはどこにいるんだ?
※Grand WizardとMayoは、クイーンズブリッジの地元の仲間の名前。当時の彼らの日常的なコミュニティの空気がそのまま録音されている。

Takin' niggas a long time, man
アイツら、クソ時間かかってやがるな。

[Nas]
Who got the Phillies? Take this Hennessy, man
フィリーズ(葉巻)を持ってるのは誰だ?このヘネシーを受け取ってくれよ。
※Phillies=フィリーズ・ブラント。中のタバコの葉を抜き取り、大麻を詰めて吸うための定番の葉巻。Hennessy=コニャックの銘柄。ヒップホップ文化において成功やストリートライフを象徴する定番の酒。

[AZ]
Ayo, dunn
おい、ダン。
※dunn=クイーンズブリッジ特有のスラングで、「仲間」「兄弟」を意味する。NasやMobb Deepらが多用したことで有名になった。

C'mon, c'mon, man, stop wavin' that, man!
おいおい、やめろって、それを振り回すのは!

Stop pointin' that at me, dunn, take the clip out!
俺に銃口を向けるなよ、ダン、マガジン(弾倉)を抜けって!
※銃(おそらくNasが持っているもの)を仲間同士のふざけ合いで振り回している緊迫感のある描写。日常的に銃が身近にあるプロジェクトの過酷な環境が伝わってくる。

[Nas]
Nigga, alright, but take this Hennessy, man!
分かったよ、ほら、このヘネシーを受け取れって!

[AZ]
I'm sayin' take the clip, man, c'mon, take it out!
だからマガジンを抜けって言ってんだよ、おい、外せよ!

[Nas]
Light them Phillies up, man!
さっさとフィリーズに火をつけろよ!

Niggas stop fuckin' burnin' Phillies, man
お前ら、フィリーズを無駄燃えさせんなよ。

Light some Phillies up then!
いいから火をつけろって!

[Jungle]
Pass that henrock, pass that henrock!
そのヘンロック(ヘネシー)を回せ、早く回せよ!

Nigga, act like you know!
分かってるような顔しやがって!
※act like you know=「知ったかぶりをするな」「状況をわきまえろ」というニュアンスで使われる定番のフレーズ。

[AZ]
Yo, we drinkin' this straight up with no chaser
おい、俺らはチェイサーなしでこいつ(酒)をストレートで飲むぜ。

I ain't fuckin' with you, nigga
お前らとふざけてる暇はねえんだよ。

[Nas]
I'm saying though, man
だから言ってるだろ。

[AZ]
What is it, what is it, baby?
何だよ、どうしたんだよ?

[Jungle]
What is it, son, what is it?
何なんだよ、なぁ?

[AZ]
You know what time it is
今がどういう時間(状況)か分かってんだろ。
※You know what time it is=「今がどういう時か」「何をすべきか」を理解している、という意味の定番フレーズ。いよいよアルバム本編(歴史的なラップ)が始まる合図でもある。

[Nas]
I'm saying, man, you know what I'm saying?
だからさ、俺の言ってること分かるだろ?

Niggas don't listen, man
誰も聞く耳持たねえんだよな。

Representin', it's Illmatic
レペゼンしてるぜ、これが『Illmatic』だ。
※ここでついにヒップホップ史に残る名盤のタイトル『Illmatic』が宣言され、続くハードコアなクラシック・トラック「N.Y. State of Mind」へと雪崩れ込んでいく。

 

The Genesis

The Genesis

  • Nas
  • ヒップホップ/ラップ
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