Artist: Kanye West
Album: My Beautiful Dark Twisted Fantasy
Song Title: Who Will Survive In America
概要
アルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』の壮大なアウトロを飾るトラックである。「黒いボブ・ディラン」と称された伝説的詩人でありミュージシャンのGil Scott-Heronが1970年に発表したポエトリーリーディング「Comment No. 1」を大々的にサンプリングしている。名声、エゴ、狂気、そして愛憎といったカニエの個人的な苦悩を描いてきたアルバム全体を締めくくるにあたり、視点は「アメリカ」という国家が抱える黒人の歴史、偽善、そして自由という名のもとに行われてきた搾取といったマクロな社会問題へと一気に拡張される。カニエの個人的な「暗く歪んだファンタジー」が、実はアメリカという国家そのものの残酷な歴史と重なっていることを示唆する、重厚で啓示的なエンディングである。
和訳
[Verse: Gil Scott-Heron]
Us living as we do upside-down
俺たちは逆さまの状態で生きている
And the new word to have is revolution
そして今、手に入れるべき新しい言葉は「革命」だ
People don't even want to hear the preacher spill or spiel
人々はもう、牧師の説教や長話なんて聞きたがっちゃいない
Because God's whole card has been thoroughly piqued
なぜなら、神の切り札(ホールカード)はすっかり見透かされてしまったからだ
※whole card=hole card(ポーカーの伏せ札)。宗教的な救済という建前が信用を失い、人々が現実の不平等に気づき始めたことを意味する。
And America is now blood and tears instead of milk and honey
今のアメリカは「乳と蜜」じゃなく、「血と涙」の国になっちまった
※「乳と蜜の流れる地」は聖書において神が約束した豊かな土地の象徴。アメリカン・ドリームの崩壊を示唆する表現である。
The youngsters who were programmed to continue fucking up woke up one night
失敗し続けるようにプログラムされた若者たちは、ある夜目を覚まし
Digging Paul Revere and Nat Turner as the good guys
ポール・リビアやナット・ターナーを「善人」として称賛するようになった
※Paul Revereはアメリカ独立戦争における白人の英雄、Nat Turnerは黒人奴隷の反乱指導者。白人と黒人、それぞれの「革命の英雄」を同列に語ることで、歴史的評価の矛盾や複雑さを突いている。
America stripped for bed and we had not all yet closed our eyes
アメリカがベッドに入るために服を脱いだが、俺たちはまだ全員が目を閉じてはいなかった
The signs of truth were tattooed across our often-entered vagina
真実の印は、俺たちの頻繁に犯されたヴァギナの周りにタトゥーとして刻まれていた
※アメリカ社会において、黒人やマイノリティが歴史的に搾取され、蹂躙され続けてきたことを極めて過激なメタファーで表現している。
We learned to our amazement, the untold tale of scandal
俺たちは驚きと共に、語られなかったスキャンダル(恥部)の物語を知ったんだ
Two long centuries buried in the musty vault
カビ臭い地下室に2世紀ものあいだ葬られ
Hosed down daily with a gagging perfume
吐き気を催すような香水で、毎日洗い流されてきた物語を
※2世紀=アメリカ建国からの歴史。奴隷制や差別の残酷な歴史を、美しい言葉や理念(香水)で隠蔽してきたアメリカの国家的な偽善を指摘している。
America was a bastard
アメリカは私生児だったのさ
The illegitimate daughter of the mother country
母国(イギリス)の不義の娘であり
Whose legs were then spread around the world
その後、世界中に向けて脚を開き
And a rapist known as freedom, free-doom
そして、「自由(フリーダム)」、「無料の破滅(フリー・ドゥーム)」として知られるレイプ魔になった
※freedom(自由)とfree-doom(無料の破滅)を掛けたワードプレイ。自由や民主主義という大義名分のもとで、他国や弱者を搾取してきたアメリカの帝国主義を痛烈に批判している。
Democracy, liberty, and justice were revolutionary codenames that preceded the bubbling, bubbling, bubbling, bubbling, bubbling
「民主主義」「自由」「正義」なんてのは、あのブクブクと泡立つ、泡立つ、泡立つものの先駆けとなる革命の暗号名にすぎなかった
※建国の理念が、実際には欲望や搾取を正当化するためのコードネームであったという指摘。bubblingは欲望が沸騰する様を表している。
In the mother country's crotch
母国の股ぐらで泡立つもののな
What does Webster say about soul?
ウェブスター辞典には、「ソウル(魂)」についてなんて書いてある?
※白人が作った辞書(ウェブスター辞典)で、黒人の本質である「ソウル」を定義できるのか、という根源的な問い。
All I want is a good home and a wife
俺が欲しいのは、まともな家と、妻と
And a children, and some food to feed them every night
子供たち、それに毎晩彼らに食べさせる食事だけなんだ
※国家の裏切りや革命といった壮大な話から一転、抑圧された人々のささやかで人間的な願いへと回帰する。
After all is said and done, build a new route to China if they'll have you
結局のところ、もし向こうが受け入れてくれるなら、中国への新しいルートでも開拓するこったな
※アメリカの理想が機能しないのであれば、別の場所に新たな希望や居場所を見出すしかないというシニカルな結論。
Who will survive in America?
アメリカで生き残るのは誰だ?
Who will survive in America?
アメリカで生き残るのは誰だ?
Who will survive in America?
アメリカで生き残るのは誰だ?
Who will survive in America?
アメリカで生き残るのは誰だ?
※前曲「Lost In the World」から続くこの切実な問いかけは、自己中心的なファンタジーから覚醒し、過酷な現実(アメリカ)へと引き戻される感覚を与える。ヒップホップ史上最も美しく、最もダークなアルバムを締めくくる完璧なアウトロである。
