Artist: Kanye West
Album: My Beautiful Dark Twisted Fantasy
Song Title: POWER
概要
Kanye Westの5thアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』のリードシングルであり、ヒップホップ史に残る壮大なアンセムだ。2009年のVMAでのテイラー・スウィフトへの乱入事件(※下記リンクにて解説)で全米中から猛烈なバッシングを受け、当時のオバマ大統領から「嫌な奴」とまで呼ばれたカニエが、自身の持つ「権力(パワー)」とエゴ、そして精神的な崩壊を自己言及的に生々しく描き出している。King Crimsonのプログレ名曲「21st Century Schizoid Man」を大胆にサンプリングし、圧倒的な自信と脆さが同居する彼の複雑な精神状態を見事に表現した、まさしく「21世紀のスキッツォイド(統合失調症)男」のテーマソングである。
和訳
[Intro: Kanye West]
I'm living in that 21st century, doing something mean to it
俺はこの21世紀を生きてる、そしてとんでもなくヤバいことをやってのけてるぜ
※mean=本来は「意地悪な」という意味だが、スラングでは「ヤバい」「凄まじい」といった称賛の意味合いで使われる。時代そのものに衝撃を与えているという自負。
Do it better than anybody you ever seen do it
お前らが今まで見てきた誰よりも上手くやってやるよ
Screams from the haters got a nice ring to it
ヘイターどもの叫び声も、なかなかいい響きじゃねえか
I guess every superhero need his theme music
どんなスーパーヒーローにも、自分のテーマソングが必要だろ?
※世間からは「悪役」扱いされているカニエだが、自身の才能と影響力に対する絶対的な自信から、あえて自分を「ヒーロー」と呼んでいる。
[Chorus: Kanye West]
No one man should have all that power
一人の男がこれほどの権力(パワー)を持つべきじゃねえ
The clock’s ticking, I just count the hours
時計の針はチクタク進む、俺はただ時間を数えてる
Stop tripping, I'm tripping off the power
ガタガタ言うな、俺はこのパワーでハイになってんだよ
※trip=「キレる」「過剰に反応する」と、「(ドラッグなどで)ハイになる」のダブルミーニング。世間の過剰反応をたしなめつつ、自分自身も権力の魔力に酔いしれている状態。
(21st-century schizoid man)
(21世紀の精神異常者)
※イギリスのプログレッシブ・ロックバンドKing Crimsonの1969年の名曲「21st Century Schizoid Man」からのサンプリング。世間から狂人扱いされるカニエ自身の姿と重ね合わせている。
[Verse 1: Kanye West]
The system broken, the school's closed, the prison's open
システムはぶっ壊れ、学校は閉鎖され、刑務所の門は開いてる
※アメリカの貧困層や黒人コミュニティにおける「学校から刑務所へのパイプライン(教育機会の欠如が犯罪へ直結する社会構造)」を批判している。
We ain't got nothing to lose, motherfucker, we rolling
俺たちには失うものなんて何一つねえ、クソッタレ、俺たちは進むだけだ
Huh? Motherfucker, we rolling
あぁ? クソ野郎、俺たちは止まらねえよ
With some light-skinned girls and some Kelly Rowlands
肌の明るい姉ちゃんたちと、ケリー・ローランドみたいな黒肌の美女を引き連れてな
※黒人コミュニティ内に根強く残る「カラーイズム(肌の色の濃淡による差別)」への言及。Destiny's ChildのKelly Rowlandを引き合いに出し、肌の色の濃いダークスキンの女性の美しさを讃えている。
In this white man world, we the ones chosen
この白人社会において、俺たちは選ばれし者なんだ
So goodnight, cruel world, I'll see you in the morning
だからおやすみ、残酷な世界よ。また朝に会おうぜ
Huh? I'll see you in the morning
あぁ? また朝に会おうな
This is way too much, I need a moment
こいつはちょっと荷が重すぎるな、少し時間をくれよ
※強気な態度から一転、名声や重圧に耐えきれず精神的な脆さを露呈する瞬間。
[Chorus: Kanye West]
No one man should have all that power
一人の男がこれほどのパワーを持つべきじゃねえ
The clock's ticking, I just count the hours
時計の針は進む、俺はただ時間を数えてる
Stop tripping, I'm tripping off the power
ガタガタ言うな、俺はこのパワーでハイになってんだよ
'Til then, fuck that, the world's ours
それまでは、クソくらえだ、この世界は俺たちのものさ
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
(21st-century schizoid man)
(21世紀の精神異常者)
[Verse 2: Kanye West]
Fuck SNL and the whole cast
『サタデー・ナイト・ライブ』の連中もキャスト全員クソ食らえだ
※VMA騒動後、人気コメディ番組『SNL』でテイラー・ロートナー(テイラー・スウィフトの当時の恋人)らがカニエを徹底的にからかうコントを放送したことに対する直接的な怒り。
Tell them Yeezy said they can kiss my whole ass
Yeezy(俺)が「俺のケツにキスしな」って言ってたって伝えとけ
More specifically, they can kiss my asshole
もっと正確に言うなら、俺のケツの穴にキスしろってな
I'm an asshole? You niggas got jokes
俺がクソ野郎だって? お前ら笑わせてくれるぜ
※asshole(ケツの穴/クソ野郎)を掛けた言葉遊び。世間からクソ野郎扱いされることを皮肉っている。
You short-minded niggas' thoughts is Napoleon
お前らみたいな視野の狭い連中の思考は、まるでナポレオンだな
※short-minded(浅はかな)と、ナポレオンが低身長(short)であったという俗説(ナポレオン・コンプレックス=背が低いことの劣等感から攻撃的になること)を掛けた巧みなライン。
My furs is Mongolian, my ice brought the goalies in
俺のファーはモンゴル産、俺のアイス(ダイヤ)はキーパー(ゴーリー)を引っ張り出すほどだぜ
※ice(宝石/氷)と、アイスホッケーのゴールキーパー(goalie)を掛けたワードプレイ。
I embody every characteristic of the egotistic
俺はエゴイストのすべての特徴を体現してるんだ
He knows he's so fuckin' gifted
「奴(カニエ)は自分がクソほど天才だって分かってる」ってな
I just needed time alone with my own thoughts
俺はただ、自分の思考と向き合う一人の時間が必要だったんだ
Got treasures in my mind, but couldn't open up my own vault
頭の中には宝物が詰まってるのに、自分自身の金庫(心)を開けられなかった
My childlike creativity, purity, and honesty
俺の子供のような創造性、純粋さ、そして正直さが
Is honestly being crowded by these grown thoughts
正直なところ、大人としての思考に押しつぶされそうになってるんだ
Reality is catching up with me
現実が俺に追いついてきちまってる
Taking my inner child, I'm fighting for custody
俺の「内なる子供」を奪おうとする現実と、親権(custody)争いをしてるのさ
※大人社会の責任やメディアのバッシングが、カニエの純粋な芸術性(子供心)を奪い去ろうとしている状況を、離婚における親権争いに例えた深いメタファー。
With these responsibilities that they entrusted me
連中が俺に押し付けてきた、この「責任」ってやつとな
As I look down at my diamond-encrusted piece
ダイヤが散りばめられたネックレス(ピース)を見下ろしながらな
※piece=ジュエリー(Jesus pieceなど)と、平和(peace)のダブルミーニング。物質的な富を手に入れても心の平和はないという虚無感。
[Chorus: Kanye West]
Thinking no one man should have all that power
一人の男がこれほどのパワーを持つべきじゃないって考えてる
The clock's ticking, I just count the hours
時計の針は進む、俺はただ時間を数えてる
Stop tripping, I'm tripping off the powder
ガタガタ言うな、俺はこのパウダー(粉)でハイになってんだよ
※前のコーラスの「power」がここでは「powder(コカインなどの粉末ドラッグ)」にすり替わっている。重圧から逃れるために薬物に手を出していることを示唆。
'Til then, fuck that, the world’s ours
それまでは、クソくらえだ、この世界は俺たちのものさ
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
And they say, and they say
そして奴らは言う、奴らは言う
(21st-century schizoid man)
(21世紀の精神異常者)
[Verse 3: Kanye West]
Colin Powells, Austin Powers
コリン・パウエルに、オースティン・パワーズ
※「Powells / Powers」で韻を踏む。コリン・パウエル(元米国務長官)のような現実の政治的権力と、オースティン・パワーズ(映画キャラ)のような架空の力を対比。
Lost in translation with a whole fuckin' nation
クソみたいな国中を巻き込んで、翻訳(解釈)の迷子になっちまってる
※映画『Lost in Translation』の引用。自分の真意(純粋な表現)が世間やメディアに正しく伝わらず、誤解され続けていることへの嘆き。
They say I was the abomination of Obama's nation
奴らは俺のことを、オバマ国家の「忌まわしき存在(アボミネーション)」だって言うんだ
※abominationとObama's nationの完璧なライミング。VMA騒動時、バラク・オバマ大統領がオフレコでカニエを「jackass(嫌な奴/大バカ者)」と批判した歴史的背景を踏まえている。
Well, that's a pretty bad way to start the conversation
まぁ、会話の始め方としては最悪の切り出し方だな
At the end of the day, goddamnit, I'm killing this shit
でも結局のところ、クソッタレ、俺はこのゲームを完璧にこなしてる(キルしてる)だろ
I know damn well y'all feeling this shit
お前らがこの曲を最高だって感じてるのは、痛いほど分かってるぜ
I don't need your pussy, bitch, I'm on my own dick
お前のプッシー(女/媚び)なんていらねえよ、ビッチ。俺は自分のチンポでイッてる(自己完結してる)からな
※on my own dick=他人の評価や愛情を必要とせず、自分自身を強烈に愛しているという極端なナルシシズムの表現。
I ain't gotta power trip, who you goin' home with?
権力を振りかざす(パワートリップ)必要なんてねえよ。でお前は誰と家に帰るんだ?
How Ye doing? I'm survivin'
「Ye(カニエ)の調子はどうだ?」って? なんとか生き延びてるぜ
I was drinkin' earlier, now I'm drivin'
さっきまで飲んでたけど、今は運転席だ
※飲酒運転(DUI)を示唆する危険な行動であり、自暴自棄になっている精神状態を表す。
Where the bad bitches, huh? Where you hidin'?
イケてるビッチたちはどこだ、あぁ? どこに隠れてやがる?
I got the power make your life so excitin'
俺にはお前の人生を最高に興奮させるパワーがあるんだぜ
[Outro: Kanye West & Dwele]
Now this will be a beautiful death
あぁ、これは美しい死になるだろうな
※プレッシャーやバッシングからの逃避行としての「死(自殺願望)」への言及。
I'm jumping out the window, I'm letting everything go
俺は窓から飛び降りる、すべてを手放してやるよ
I'm letting everything go
すべてをな
Mmm, now this will be a beautiful death
あぁ、これは美しい死になるだろう
I'm jumping out the window, I'm letting everything go
俺は窓から飛び降りる、すべてを手放してやるよ
I'm letting everything go
すべてをな
Now this will be a beautiful death
あぁ、これは美しい死になるだろう
Jumping out the window, letting everything go
窓から飛び降りて、すべてを手放すんだ
Letting everything go
すべてをな
You got the power to let power go?
お前には、「権力(パワー)」を手放すほどの「パワー」があるか?
※究極のパラドックス。手に入れた絶大な影響力やエゴを自ら捨てることこそが、最も強大な力(決断力)を必要とするという哲学的な問いかけ。
(21st-century schizoid man)
(21世紀の精神異常者)
